第5話
朝、電車の中で女子高生・海部潮美と過ごす十五分間がいつの間にか楽しみになっていた。
一日のうちのウエイトの大半を占めるのではないだろうか。
二十三時間四十五分は、おまけみたいなものだと思った。
電車が止まり、海部さんが乗り込んでくる。
がらがらの車内を見渡し、僕を見つける。
海部さんが躊躇せずに進んでくる。嬉しかった。
海部さんが隣に座る。
ほんの少しだけ、隙間がある。
この距離感がとても好きだ。
海部さんは僕の情報を聞き出そうとはしない。
自分のことも、積極的にアピールしてこない。
他人の自慢話は飽き飽きしていたから丁度よい。
人がいるのに、何もしない十五分間。それがとても心地よかった。
知っているのは、海部潮美。高校二年生。高校は一つしかないから、多分城北学園だろう。制服もたしかそんな感じだったような気がする。
制服は詳しくない。ジロジロ見るものではないと思っている。
服装は褒めた方がいいのか?
私服の場合だけだと思うが、「その制服可愛いね。似あってるよ」くらい言えればよかったのか。
オジサンの発想か。二つしか違わないのに。
フリースクールに通っている僕は、学生なのだろうか?
高校に籍は残っている。でも、留年している。
病気やケガ以外の留年は、ちょっとと思う。
アイドルが高校四年生をしていたか。
出席日数が足りないのは、同じだけど。
アイドルと僕とでは、『仕方ないね』の意味が違う。
「時々、寂しそうな顔をしますね。私の話、つまらないですか?」
変な気遣いをさせてしまった。
「そんなことないよ。楽しいよ」
海部さんの顔が、ぱぁっと明るくなる。
顔に出るタイプだ。
可愛いと思う。
海部さんは昨日見たドラマの話をしてきた。
そのドラマは僕も見ていた。
未来人が出てくるドタバタコメディだった。
ドラマの趣味は似ていた。
医療系、ビジネスものが好き。
推理、考察物は興味がない。
登場人物の中に犯人がいるんだ。後はただ選ぶだけ。
疑わしい役者たちの格を考えれば、自ずと分かってしまう。
嫌なランキングだ。事務所の力か、プロデューサーの忖度か。
海部さんは、ドラマの内容を楽しそうに話す。
ちょっと、手が動いている。
本来は、身振り手振りで話をする、楽しい子なのかもしれない。
僕の前では、まだ少し緊張しているようだった。
お互い様か。
でも、ふと思う。
つまらない僕といて、海部さんは本当に楽しいのだろうか。
電車の中、暇つぶしにしているのではないか。
もっと、話に乗ってあげたい。
やめよう。無理をすると、綻びができる。
引きつった作り笑いが、どれほど周りを凍らせるか嫌というほど分かってるじゃないか。
海部さんが、『つまらない』と思ったら、立ち上がって別の車両へ行けばいい。
でも、『まあここでもいいか』と思うなら、ここにいてほしい。
海部さんが降りる駅についてしまった。
引き留めることは出来ない。
「ついちゃった‥‥‥」
海部さんが立ち上がる。
シャンプーの香りが僕の前を通っていく。
海部さんが降りるとき、小さく手を振ってくれた。
そんなことで、心が動くとは思わなかった。
僕の口角は少し上がっていた。
そんな自分に、僕は少し驚いていた。




