第46話
『お手柄、フリースクールに通う空田さん。十九歳』
という赤で強調された文字がニュースの見出しに並ぶ。
空田さんが横転した軽トラックを発見し、その中で動けないでいる老人に気づき通報した。ニュースの記事は遅れれば命の危険性があったと英雄扱いで褒めたたえていた。
でも、ネット民はそんな称賛を許さない。
その下にある悪意の書き込みが画面の下まで続いている。
ハイ、ハイ お手柄。良かったね、事故があって。
ヒッキーは暇なんだから、そのくらい当たり前。これからもよろしく。
それで、チャラになったと思うなよ。まだ、4年分残ってるぞ。税金分社会に貢献しろ。
お前ら、やめろよ。人命救助だ、英雄でいいだろ。
十九歳 高校生 ムショク (笑い)
電車で臭いと思ったらお前か。サンポールで体洗え。
私はスクロールする手を止めた。
みんな、酷すぎるよ。
空田さんは、人の命を助けたんだよ。
それなのに、こんなこと書き込むなんて。
空田さんは何も悪いことをしていないのに。
私は夕食後、ベッドにうずくまってスマホのニュースを眺めていた。
ニュースを見つけてから、ベッドに腰かけていることが出来なくなってしまったからだ。
膝を抱え、自然に丸くなる。でもスマホを手放すことは出来なかった。
涙が鼻の決壊を越えて、反対の目に流れ落ちる。
空田さんが朝の電車に乗っていなかった。
私は全車両探し回ったけど、どこにもいなかった。
見落としかと思って、もう一度探したけれど空田さんはいなかった。
私はそれでも軽く考えようとしていた。
風邪かなんかで今日は休みじゃないかって。
これが、理由だったんだね。
でも、明日も空田さんが来ないかもしれない。
傷ついちゃったよね。
ミキから、メッセージが届く。
『重美ちゃんから【ニイチャンはあのお爺さんにとって、間違いなく英雄だ】アタシもそう思ってる。潮美は?』
私だって思ってる。
思ってるよ。
空田さんは命を救った。
誰にでも出来ることじゃない。
それなのに。
再びミキからのメッセージが届いた。
『明日の弁当、ミニトマト祭りだ。覚悟しろ』
クスッと笑ってしまった。
ミキのママのお手製ドレッシングは最高に美味しい。
ミキ、ありがとう。
私は明日も、あの電車のあの車両に乗るよ。
空田さんが迎えてくれることを願って。
そうだよね。
空田さんは、必ず戻ってくる。
私の知っている空田さんは、こんなことで絶対負けない。
信じて待ってればいいんだよね。
私はベッドから起き上がった。
ティッシュを取ると、豪快に鼻をかんだ。




