第44話
「今日渡したんだ、八つ橋」
「うん。紙袋大きいから、確認して今日渡した」
向かい合わせにつけた机の上に、八つ橋が一つ置いてある。
食後のおやつだそうだ。
私の机の上にも、ミキからもらった八つ橋がある。
それ私も京都で買ってきたんだけど。
「紙袋、派手な図柄だもんね。誰が見ても京都土産だ。空田さん、その紙袋を持って今日一日中歩き回るってことだ」
「いやだったかな」
「別にいいんじゃない。美味しかったよ。八つ橋も生八つ橋も」
「両方食べたの」
「もちろん」
「こっちは生八つ橋だけ」
「生だから? 食べ物が賞味期限まで残る事ないけどな。多分来週までもたない」
「たくさん買ってきたよね」
「オジサンとお世話になったシンジ君と、後は全部うちで消費する」
「ミキ、たくさん買ったよね」
「買ったよ。八つ橋、生八つ橋、あん入り、チョコレート入り、それ以外にもあったな。それはあん入りのやつ。潮美買ってこなかったでしょ」
「これは、買わなかったけど」
「美味しかったよ。食べてみて」
「これも、食べたの?」
「人様に出す前に、味見しなくちゃ。当然です。潮美、こしあんより、つぶあん派だったよね」
お毒見係じゃないんだから。
でも、分かってらっしゃる。
つぶあん入りの八つ橋、確かに美味しそうだ。
「食べ物と言えばさ。柿木に一つだけ実が残っていることあるでしょ」
ミキの箸が止まる。
唐突だったかな。
「あるね。確かに」
ミキがニヤニヤしながら聞いてくる。
「‥‥‥何よ」
「いや、別に。雑学は好きだから、続けて」
「やめようかな」
私は、ゆっくりとご飯を口に運ぶ。
「興味ある。気になって、午後お昼寝できない。続けて」
それ、いつも言ってるけど、授業中にすることじゃないよ。
「あのね。木守って言って、最後のひとつはわざと残して鳥さんに分けてあげるんだって」
「へーえ。取り忘れか、熟して美味しくないから取らないのかと思ってた」
「自然に感謝するんだって」
「昔ながらの風習ってやつだ。なんかいいな」
ミキが最後の一口をほおばる。かなりのご飯の量だ。
「でしょう」
「それにしても博識だね。昆虫博士の次は雑学王か」
もぐもぐしながら喋らない。対応が雑だな。
「なによ」
「でもこれで、安心して寝られる」
弁当を食べ終えたミキが、八つ橋を一口食べながら、
「眠気覚ましにおひとついかかですか」
ミキがミニトマトを差し出す。
「これは八つ橋とのセットになってます」
なんか定番になってるな。
でも自家製ドレッシングの塩気がとても美味しい。
確かにこの後、あん入りの八つ橋が食べたくなってきた。




