第42話
「肝心なこと、聞いてないんだけど」
「何、急に」
ミキがお弁当をゆっくり食べながら聞いてきた。
こういう時は、何かある。
「そろそろ、教えてくれてもいいんじゃない」
「何のこと」
「空田さんだよ」
ミキがしびれを切らしたように、ご飯に箸を立てる。
お行儀悪いよ。
「いつ出会ったの。どこに惹かれたの。空田さんがいい人だっていうのは知ってるけど。出会いだよ。いつ知り合ったんだよ」
「気が付いたら、電車の中にいたの」
「何、それ」
「元々、下り電車で乗客が五、六人くらいしかいないんだけど」
「うん、うん」
「毎日、縦じまのシャツを着ている人がいて。最初は同じ服を着ていると思って、不潔だと思ったの。でも、微妙に色や縦じまのデザインが違うことに気づいて」
「毎日着替えてると思ったんだ」
「そう。でも、ちょっと変わった人だなって」
「そりゃそうだ。ジョブズじゃないんだから。それで」
ミキのご飯がすすむ。
「いつも同じ時間の電車で同じドアの横に座ってるし、どんな人なのかなって」
「気になりだしたんだ」
「何もしないで、窓の景色を見てるの。毎日、同じ景色なのに、興味深そうに」
「ほんと、変わってるね」
「それが何日も続いて、何かその人の周りだけ時が止まって変化がないような気がして」
「はい」
ミキ、相槌が雑になってきたよ。
詩的な表現をしたら、飽きてきたな。
これからが、いいところなのに。
「白い杖を持った女の子が乗ってきたの」
「可愛かったの?」
「覚えていない。それで、その子が鈴のついた多分キーホルダーだと思うんだけど、落としちゃって。でも、その子気づかなくて」
「うん。それで」
「それで、女の子が立ち上がってドアの前に立ったから、降りちゃったらまずいと思って。私、拾おうとしたの」
「うん」
「そしたら、私より遠くにいた空田さんが駆け寄って先に拾ったの。女の子の手のひらにキーホルダーを落として、女の子は嬉しそうだった。空田さんも頷いていて」
「へーえ、優しいじゃん」
「いい人だなって」
「いい人だね」
「それで、次の日。おはようございますって、挨拶したの」
「やるね。ナンパだ。女子高生からのナンパだ」
「そんな、ナンパだなんて」
「知らない男にお近づきになりたくて、声を掛けたんでしょ。立派なナンパだよ。わぁー、いいな。青春だ。アタシも男に声をかけまくろうかな」
「もう、いいよ。ナンパで」
私は、大きめのご飯を口に入れた。
「まあ、そう怒らずに。お口直しにどうぞ」
ミキがミニトマトを差し出した。
私は遠慮なしにそれを口に放り込んだ。




