第41話
今日は修学旅行の最終日だ。
明日、海部さんが戻ってくる。
この七十二時間にはどんな意味があったのだろう。
日記なら三行で終わる内容だ。
ドアが開く、もちろん海部さんは乗り込んでこない。
代わりに白いワンピースに白杖を持った女の子が乗ってきた。
あの子だ。
半年ちょっと前の苦い思い出がよみがえった。
白いワンピースを着た女の子が乗ってくるのは特別じゃない。
でも、その女の子は白杖を持っていた。
戸惑う様子は全くない。
慣れた手つきでドアの横のシートに座ろうとした。
隣にいたおばさんが気づいて少しずれる。
空間は十分空いていると思うが、そのおばさんは二人分のスペースを空けた。
女の子は、バッグを膝の上に置く。
その時、鈴の音がした。
女の子の足元に鈴のついたキーホルダーが落ちている。
隣のおばさんは、顔を少しだけ動かしたが、また元に戻す。
絶対に気づいたはずだ。
隣なんだから、拾ってあげればいいのに。
拾ってあげる? 偉そうな言葉だ。
僕たちは、目の見えない人に対して、してあげるという言葉を使う。
やはり、下に見ているのだろうか。
女の子は何も気づかずに楽しそうにしている。
次の駅のアナウンスを聞き、女の子は準備をする。
降りるのか。キーホルダーはどうする。
あのおばさんは拾わないのか。
目をつぶったままだ。
拾う気がない。
女の子が立ち上がり、ドアの前に立つ。
どうする?
僕は偽善者だ。
女の子の元へ急いだ。
偽善者だから、キーホルダーを偉そうに拾ってやるんだ。
「あの、落としましたよ。これ」
女の子が不思議そうに振り向く。
しまった。目の見えない子にこれじゃ伝わらない。
女の子は無防備に手を差し出した。
女の子の指は三本だった。
僕は動揺をかくして、その手のひらにキーホルダーを落とした。
障害は目だけじゃなかった。
他にも抱えてるのかもしれない。
女の子はキーホルダーを確認すると、
「ありがとうございます」
と嬉しそうに言った。
僕はつい頷いてしまった。
女の子は電車を降りていった。
その時、また気づいてしまった。
頷いたって分からないじゃないか。
相手は見えないんだぞ。
僕は配慮が全く足りていなかった。
あの子は感謝を述べたのに、無視されたと思っただろうか。
相手の立場に立って、ものを考える。
引きこもりだった僕には、まだまだ経験不足だった。
そして、もう一つ別のことを考える。
女の子は無防備に三本指の手を出した。
もし、目が見えて、他の人との違いを強烈に認識していたら手を出せただろうか。
それでも、見えていた方が幸せだ。でも、見えなくて幸せだったこともあるかもしれない。
答えの出ない問題だった。
それでもあの時、偽善者の僕はキーホルダーを渡すことができた。
最低限はクリアしたんだと納得するしかない。
白いワンピースの女の子が電車を降りていく。
今日は落とし物をしなくてよかった。
入れ替わりで海部さんが乗り込んでこないかな。
僕はバカなことを考えた。




