第37話
今日の電車はいつにもまして乗客が少ない。
この車両に乗っているのは海部さんと僕だけだった。
海部さんが隣で静かに座っている。
元々口数が多い方ではなかったが、今日は特に少ない。
「お土産、買ってきますから」
「別に、気を使わなくてもいいよ」
「いえ、買ってきます」
「じゃあ、お願い」
海部さんは明日から三日間修学旅行で京都・奈良へ行く。
知り合いに、お土産を買ってきてもらうのは初めてだった。
僕に知り合いは‥‥‥一応たくさんいるか。小学校の同級生と中学の同級生。
みんな知り合いだ。特に小学校の同級生は友達だったと言ってもいい。
その小学校の友達とも、もう何年も連絡を取っていないが。
最後に年賀状のやり取りをしたのはいつだったか。覚えていない。
フリースクールのみんなとも知り合いだ。
でも、学校以外で知り合ったのは海部さんが初めてだ。
いや、ミツコちゃんがいるか。重美の親友、この間秋祭りで会ったばかりだ。普通に話ができる。
海部さんの親友のミキさんとも同じく知り合いだ。圧の強い子だった。
こうしてみると、僕にも知り合いが沢山いるな。
でも、僕に親友はいない。
できたこともなかった。
「どうしたんですか?」
海部さんが、心配そうに見つめる。
いつも海部さんは僕の異変に気付き、声を掛けてくれる。
その存在が、ありがたかった。
「何でもないよ。京都、奈良、行ったことないなって」
「私もです。だから、楽しみです。お寺とか神社とか。おばあちゃんみたいでしょうか」
「いや。歴女としては、京都は特別でしょ」
「はい。本能寺の跡が見たいです。これは絶対見るべきです」
明智光秀を語る海部さんの目がキラキラしている。
信長じゃなく、光秀なんだな。歴女あるあるなのだろうか。
でも、本当に好きなんだな。
僕は海部さんのよどみなく話す言葉に耳を傾けた。
窓の外に刈り取られた田んぼが見える。
来年の春まで、お休みだ。
僕の冬休みも長かった。
二週間で済むはずの冬休みが、四年続いた。
両親は何も言わなかった。
重美だけが、時おり思い出したようにちょっかいをかけてきた。
嬉しかった。
「お土産、八つ橋がいいな」
「食べ物ですか? アクセサリーとかじゃなくて」
「家族みんなで食べたいんだ」
「分かりました。一番大きいのを買ってきます」
「四人家族だから、一番小さいので十分だよ」
「重美ちゃんが、たくさん食べると思います」
「そうだね。でも持ち運べるサイズでいいから」
「はい、大きいの買ってきます」
海部さんが、なんか嬉しそうだ。
僕も家族で食卓を囲む風景がみえた。
テーブルの中央に八つ橋の箱があり、周りに湯飲みが四つ並んでいる。
何処にでもある家族の風景だった。




