第34話
「何でそこでやめるかな」
ミキがお弁当のコロッケを激しく箸でつつく。
それ、食べ物だよ。
「ああ、もう。来年の夏祭りに浴衣デートをする約束なら、それはいいよ。いいから。問題は、今年の秋祭りなんだよ」
「だって」
「だってじゃない。夏祭りは隣り街。秋祭りはうちの地元だ」
「何が言いたいの」
「地元愛はどうした。アタシの秋祭りを何だと思ってる。地元の最大イベントなんだぞ。もしかして、隣り街の夏祭りより軽く見てる?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、誘えよ。別に私服だっていいだろ」
「空田さんが、浴衣姿が見たいっていったから」
「そりゃ、見たいだろうさ。髪をアップした潮美の姿は」
「髪をアップするの?」
「するの! うなじは武器だ。覚えとけ!」
「はい」
「それで、問題は秋祭りだ。隣り街に負けるわけにはいかない。なんとしてでも、成功させてやる。よーし、使えるものは何でも使うぞ」
「なにも、そこまで‥‥‥」
「決めた。まかせて」
ミキがスマホを取り出し、何か打ち込む。かなりの長文だ。ミキの指が止まらない。
「これでよし。さあ、食べようか」
ミキが不敵な笑みを浮かべて、お弁当を食べ始める。
何がよし、なの?
そのコロッケ、ボロボロだよ。
連絡した相手が、とても気になる。
スマホが机の上で、振動しながら横にずれていく。
「来た来た。早いな。さすがアタシのオジサン」
ミキがスマホを持ち上げる。
「はい、決まり」
「えっ?」
「オジサンの高校時代の連れが、毎年屋台を出してるんだけど」
「うん」
「その手伝い誰かいないかって相談受けていてさ」
なんとなく分かってきた。
「アタシが行こうかと思ってたんだけど、バイト代出るから。でも、譲ってあげる」
「‥‥‥」
「そう、空田さんと二人で」
私に誘えってことだよね。多分。
「イカ焼きとタコ焼きの掛け持ちだから、一人で二つの屋台切り回すのは大変だって」
「イカ焼き?」
「何?」
「空田さん、屋台で一番好きだって。香ばしい匂いが」
「じゃあ、決まりだ。オジサンの連れがたこ焼きを焼いて。あんたと空田さんがイカ焼きの屋台ね。二人で」
二人でを強調してきた。
「勝手に決めないでよ」
「いいぞ。アツアツの鉄板と、アツアツのふたり。焼けるな」
ミキがミニトマトを私のお弁当のふたの上に置く。
「ちょっとだけ、見に行くけど。すぐに退散するから。邪魔しないからさ。ねっ。きっと、楽しいよ」
「‥‥‥」
「忙しくても、活気があるのも楽しいし。客がいなくて、のんびりまったりと二人で待つ時間も最高だよ。どう?」
ミキが私の返事を待っている。
仕方がない。
私はミニトマトを食べることで、ミキの計画を了承した。




