第30話
「それで、朝寝坊でごまかしたの」
「だって、スカートのファスナーが壊れたって言えないもん」
「別にそれくらい」
私はお弁当の焼き魚をほぐす。
ミキがニヤリと笑う。
何考え付いたの?
「空田さんが、想像したと思ったの?」
「えっ?」
「潮美がスカートを脱いで、ファスナーを直しているシーンだよ。何色のパン‥‥‥」
「空田さんは、そんな事考えません」
「男なら、ちょっとは考えるだろ」
「いいえ。じゃあ、親戚のオジサンは考えるの」
「考えようとする男の後頭部を殴るかな。オジサンなら」
「じゃあ、考えないじゃん」
「先回りして考えるから、不届き者を殴れるんだよ」
「エッチな気持ちは一ミリもないってこと」
「無い。断言できる。オジサンだもん」
「信頼してるんだね」
「じゃあ、潮美のパパはお風呂覗いたりする?」
「するわけないでしょ! 何言い出すの?」
「同じだよ。だから、オジサンと腕組んで歩ける。おばさんも、ニコニコ見ている。ライバルだと思ってないから」
ほぐした焼き魚をつまむ手が止まった。
いいのかな?
「でも、それ。大丈夫なの」
「何が?」
ミキがレタスを食べる。
レタスは食べるんだね。
「知らない人が見たら」
「ん?」
「オジサンと呼ぶ人と腕組んでたら、パパ活だよ」
ミキが笑い出す。
「違いない。パパ活だ」
ミキの声が大きい。
みんな見てるよ。
「それで、空田さんとは腕組んだ?」
「電車の中で座って、腕組んでたら不自然でしょ」
ミキが笑った。
想像したね。
私も、浮かんだ絵で笑いそうになった。
「じゃあ、肩が触れ合うとか」
「がらがらの電車だから、ちょっと無理かも」
「混み具合は関係ないよ。そろそろいいんじゃない」
「少し混みだした時、考える」
「卒業しちゃうよ」
誰かのスマホが鳴った。鈴虫の声に似ていた。
「大丈夫だよ。今日は一緒にカネタタキの鳴き声を聞いたし。カネタタキ、知ってる?」
「知らない。でも、それ空田さんの受け売りだろ」
「ばれてる。コオロギの仲間なんだって。素敵な声だったよ」
「二人で虫の声を聴いてるなんて、ほんとにもう縁側のおじいちゃんとおばあちゃんだね」
「いいの。楽しいから」
ほぼお弁当を食べ終わったところでミキがきりだした。
「放課後付き合ってよ。来週、オジサンとおばさんの結婚記念日なんだ」
「結婚記念日にミキがプレゼントするの?」
「そう。おばさんの誕生日に結婚式をしたの。オジサン曰く、忘れないしまとめるから安上がりなんだって」
「そういうものかな」
「そういうもんなんじゃない」
ミキがミニトマトを渡す。
「これ、前払い」
私は前払いを食べた。
ドレッシングが効いてて、とても美味しい。




