第27話
海部さんが体操着姿で電車に乗り込んできた。
薄手のジャンパーを羽織った海部さんはどこか恥ずかしそうにドアの横に立っていた。
「あまり、見ないでください」
「はぁ」
そう言われても、見てしまう。
体操着の海部さんを見るのは初めてだったから。
「今日、体育祭なんです。これで登校することが校則で決まっていて」
赤の体操着。胸に大きなゼッケンがついている。
それを隠すようにジャンパーを羽織っていた。
でも、前のファスナーは開いていた。
それ、閉めるとさすがに暑いよね。
海部さんとしては羞恥心と暑さ、ギリギリの攻防だったのだろうか。
無理して、我慢しなくてもいい。海部さんらしい選択だと思った。
「そうなんですね。いえ、似合ってますよ。似あってますよで、いいんですよね」
「まあ、似合わないと言われるよりは‥‥‥」
「体操着で登校が義務付けられている高校って珍しいですよね」
「体操着って言わないでください。ジャージです」
「はい。ジャージです」
ジャージを着た海部さんがちょこんと横に座る。
ちょっと、もじもじしている。
体操着とジャージは違うのだろうか?
そうか。ジーンズとデニムの違いか。
僕はジーンズのオジサンになってしまったのだろうか。
「何にでるんですか?」
「えっ」
「ほら、体育祭。何かの種目に出るんでしょ」
「ダンスと綱引き」
「それ、全員参加ですか?」
「全員参加です」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「海部さんが参加する、個別種目は、どんな?」
「あとは騎馬戦です。あっ、違うんです。誰もやりたくなくて、くじ引きで負けちゃって。だから‥‥‥」
「そうですか」
「はい」
「上に乗るんですか?」
「えっ」
「軽そうだから」
言ってから、しまったと思った。
体重は女子にとって鬼門だ。
それに、騎馬戦の上に乗ると好戦的な人間と受け取られてしまう。
そんなつもりで、言ったんじゃ無い。
違うんです。僕は‥‥‥
「大丈夫ですよ。分かってますから」
クスっと海部さんが笑う。
僕はいったいどんな表情をしていたのだろう。
「私は下の右側を担当します。上にはミキが乗ります」
「ミキさんが。強そうですね」
また、失言してしまった。
「ミキ、負けず嫌いだから。張り切ってます」
「妹の重美も騎馬戦、上でした。鉢巻を五つ取ったと自慢していました。総合優勝は自分のおかげだって」
「重美ちゃん、すごいですね。私も頑張らないと」
「頑張って、ください」
「はい」
「応援しています」
「ありがとうございます。頑張ります」
電車が駅に止まる。
ドアが開くと、温かな風と共に、季節外れのセミの声が聞こえてきた。
まだ、夏は終わっていないと、鳴いているようだった。




