第24話
「それで、空田さんと一緒に勉強したの?」
「英語が同じ教科書だったから。英訳とか、色々。発音が綺麗だった」
珍しくミキがお弁当以外に英語のノートを横に開いている。
私もこれで遠慮せずにノートを開くことが出来た。
「やったじゃん。同い年だ」
「えっ」
私は英語のノートから目を離した。
「潮美が持ってるのは高二の英語の教科書。空田さんも同じ教科書を持っていた。つまり、空田さんは高校二年生。年上だと思ってたけどな。まあいいか。でも、だとすると、ちょっと老けてるね」
「大人びてるって言ってよ」
「あんた、前から思ってたけど、盲目すぎるよ」
「でも、綺麗な教科書だった。あまり使っていないような」
「あんただってそうじゃない」
「ミキの教科書の方が綺麗でしょ。空田さんのと同じくらいだよ」
「褒めてるんだよね。空田さんと同じなら」
「まあ‥‥‥」
私はお弁当を食べて、続きをごまかした。
「で、発音がきれいなのは分かった。教え方は上手だった」
「家庭教師とか、してもらったことないから、よくわかんない」
「アタシが教えてるのと、どう? どっちが上?」
これは、どう答えたらいい。
「同じ、くらい、かな」
「よし。アタシより下手じゃないってことだよね。まあ、最低限はクリアってとこかな」
「深読みしすぎ!」
「女の子に勉強を教えてもらうのは、ほら、男のプライドとかあるでしょ」
「空田さんは、そんなちっぽけな人間じゃありません。それに、私のほうが多分出来ないし」
「それはそれで、問題だけどね。何でうちの高校、赤点が四十点以下なんだろ。中学の時は三十点未満だったよ」
「うちの中学も三十点だった。よく考えると十一点も違うんだよね」
「予想外だった。偏差値低いから、中間期末は無いかと思ったのに」
「ない方がいいけど、さすがにそれは」
「ここは進学校じゃないんだよ。もっと、自由でいいと思うけどな」
「ミキが生徒会長だったら、中止にできたかも」
「おう、やってやるよ。中間期末廃止に、夏休み二か月だ」
ミキがこぶしを振り上げる。
私と目が合うと、ゆっくりとこぶしを下げる。
「‥‥‥じゃあ、勉強しようか」
「‥‥‥そうだね。あっ、こぼした」
「ちょっと、何やってるの」
ミキがノートについたケチャップをティッシュでふき取る。
「大丈夫。アンダーライン引こうと思ってたとこ。ここ強調構文だから」
ほんとかな。
「いいなぁ。私も勉強教えてもらいたい」
また、脱線する。
「肩越しにのぞき込まれて、ここはこれを使うんだよとか。耳元で。それで、顔が近くて振り向けないの。きゃぁー」
その構図は、自宅の机で家庭教師がいる場面だよね。
ミキ、なんのドラマ見たの?
「まあ、電車の中じゃ無理か。横並びだもんね」
ミキが椅子を持ってきて、私の横に座る。
「距離はこのくらい」
「そんなにべったりしません。肩がくっついてるでしょ」
「がらがらの電車だもんね。つまんない」
ミキが向かいに戻る。
「来週から中間テストかぁ。今日で潮美とのお弁当タイムもおしまいか」
「再来週から、また復活するでしょ」
「お別れのミニトマト」
ミキがミニトマトを揺らしながら私のお弁当に入れてくる。
「僕の事、忘れないでね」
ミキが声色を変えてきた。
このミニトマトは男の子だったの?
「絶対に忘れないよ」
私はミニトマトを食べた。
うん。美味しい。この味は癖になる。




