第22話
「それで、どうなったの。今日はおかずがてんこ盛りだ。最初から全部話して」
ミキがお弁当のふたを開けた状態で待っている。
両手は机につけたままだ。
「クラウチングスタート?」
「一時間目来なかったから、これでも心配してたんだよ。何かあったんじゃないかって。スマホで調べたら、電車の遅延だったんだね」
「ごめん」
「潮美は細部まで繊細に報告する義務があると思います」
「だから、人が線路の中に入ってきちゃったみたいで電車が止まっただけ」
「止まった電車の理由は知ってるから、その時間何をしていたかだよ。十五分が大幅に延長されたんでしょ。それを早く」
「実際は遅れた電車をずっと待ってたの。それで乗り込んでから、止まったり動いたりで、実際は二十分くらいだったと思うけど」
「その、止まったり動いたりの五分延長が重要だよ。いいなぁ、吊り橋効果か」
「なにそれ」
「ちょっと、違うかもしれないから、それはいいや。それで何を話したの」
「別に、いつもと一緒だよ」
「嘘だね。天気の話をするだけじゃ、間が持たない。何か特別なことを話したはずだ。濃密な五分間」
まだ、クラウチングスタートの状態が続いている。
ミキは、何を待ってるの?
「別に窓の外を赤とんぼが飛んでいるねって」
「赤とんぼ? 子供かよ」
ミキがお弁当に手を付ける。
納得してくれたかな。あっ、おでこ見られた。
「何? 今、前髪押さえたよね」
目ざとい。
「別に、何でもないですよ」
「おでこにチューでもされた」
「少女マンガの読みすぎ!」
「電車の中で、おでこにチューは無いよね。それで、何があったの」
「ドアからの風で、おでこ見られた」
「なんだよそれ、風が吹いたら、スカートふわりのパンチラだろ」
「そっちは少年マンガ」
「ちゃんと、かわいいのはいてるよね。きょうはどんなの?」
「普通です」
「普通か。普通が一番エロいって、親戚のオジサンが言ってた。気をつけろって」
「オジサンと、どんな話をしてるの。ママの弟なんでしょ」
「注意されただけだよ。オジサン、あれでも心配性なんだ。アタシのパンツ、男に見られるのが嫌なんだって。どんな感情なんだ」
「私だっていやだよ。ミキのパンツ見てる男がいるなんて。蹴っ飛ばしてやる」
「潮美って、思ったより過激な子なんだね。ちょっと、びっくりした」
「それほどでも、ないけど」
「まあ、派手に転んで、オジサンにパンツ見られたけどね」
「気をつけてよ」
「オジサンだから、大丈夫」
ちょっと、羨ましかった。
「今日はこの辺で、勘弁してやるか。ほんとに心配したんだからね。遅れるときは、連絡すること」
ミキがミニトマトを置いてくる。
「はーい、ママ」
私はミニトマトを食べた。
今回は文句を言わずに食べよう。
私が悪かった、と思う。




