第2話
「絶対大丈夫だって。あんた、可愛いんだから」
「そ、そうかな」
「親戚のオジサンが言ってたよ。女子高生ブランドは、まだ健在だって」
その、オジサンが気になる。本当に親戚なの?
「城北タウンで制服着て立ってれば、アタシだって声を掛けられるんだから、大丈夫だって」
ミキは小さなお弁当を掻っ込む。
女子高生なんだから、もう少し可愛く食べてもいいと思うけど。
城北タウンは、去年できた総合施設だ。
映画館やフードコート、百円ショップまである。
やっと都心に出なくても遊べる場所が出来たと、高校生たちの間でとても人気がある。
「これ、あげる」
私のお弁当にミニトマトを入れてきた。
ミキはミニトマトが嫌いだ。
ママが毎回嫌がらせで入れてくると言ってたけど、違うと思う。
ミキのママ、ごめんなさい。ミニトマトを食べているのは私です。
「今月、何人に告白された?」
「‥‥‥ふたり」
「年内二桁は、確定だね。羨ましい」
「ほんとに、そう思ってる?」
「思ってるって」
年上好みのミキは同年代の男子など眼中にない。
私が同級生にモテているのを、お姉さんの目で楽しんでいる。
確かに恋愛に関してはミキは私よりお姉さんだ。
「ちゃんと、ニコッとしてから、おはようって言うんだよ」
「ため口は、ちょっと‥‥‥」
「オジサンがため口は嬉しいって言ってたよ。何なら、君付けで呼ばれたいって」
親戚だよね?
「そのおにいさんとのチャンスは電車の中だけなんでしょ。タイムリミットは約十五分」
「うん」
「昨日、隣に座ることが出来たんでしょ」
「たまたまね」
「始発の次の駅だから、ガラガラだって言ってたじゃない」
「‥‥‥意地悪」
ミキがお腹を抱えて笑う。
そのリアクションする子が本当にいたんだ。
ひとしきり笑った後、お弁当を片付け始めた。
相変わらず食べるのが早い。
かわりに教科書とガイドを机から取り出す。
「今から勉強?」
「ううん。宿題、やってこなかったから今から写すの」
「この前、ガイド開いて英訳して、注意されたもんね」
「写すの面倒だから、このままでもいいかと思ったんだけどね」
「だめにきまってんじゃん」
教科書に英訳を書き写すミキの手が止まる。
「それで、何か追加情報は無いの。その人、社会人? 大学生?」
「わかんない。スーツ着てないし、手ぶらだし。社会人じゃないかも」
「それはどうかな。オジサンもフリーのディレクターだから、シャツにチノパンが定番。ほとんど手ぶらみたいなもんだし」
ディレクターだったんだ。大丈夫だよね、ミキ。
「でも、学生だと思う。スマホの中身見えちゃったんだけど、戦隊ヒーローの記事見てたし。それに、少しきょどってるところもあるし‥‥‥」
「子供かよ。その人学生っぽいね。確認しよう。やっぱり、声掛けだよ。まずは、名前と年齢だね」
「名前を聞くの?」
「聞くの! 明日は金曜日だよ。聞きそびれたら、土日挟んじゃうよ。いいの? それで」
ミキがガイドの丸写しを続ける。
「‥‥‥」
「社会人かどうかは重要だよ。こっちは女子高生なんだから。相手が委縮して恋愛に発展しなかった話は沢山あるよ」
「そうなの?」
「まずは、相手をしらないと。敵を知り、己を知る。論語だっけ。違ったか? 大丈夫。成功する。アタシが保証するから。あんたは可愛い。おにいさんだって、いちころだ。因みにお兄さんじゃなく、年下だったりして」
「わかんない。年齢なんて」
「だから確認するの。明日必ず聞きなさいよ」
「うん。私、頑張ってみる」
ミキの後押しを理由にして、明日は必ず声を掛けようと誓った。
お兄さんが、学生でありますように。
そして、ちょっとでもいいから近づけますように。




