第18話
「教科書を読むだけって、言ったの?」
ミキの箸には肉詰めピーマンが挟まれたまま、止まっている。
「うん。数学とか、物理は薄い問題集をやるんだって」
「問題集はやるのね」
「本屋さんに行って、シンプルな背表紙でとにかく一番薄そうな問題集を選ぶみたい。タイトルとかは気にしないって」
「なんか、独特だな」
ミキが、肉詰めピーマンに口をつける。
「もしかして、空田さん。うちらと同じ種類の人?」
「分かんない。偏差値とか、どこの高校とか聞けないから」
「どっちか、両極端じゃないかとは思っていたけど。うちらサイドだったか‥‥‥」
「そうかも‥‥‥」
「勉強を教えてもらいながら、距離を縮める計画は暗礁に乗り上げたか」
「ミキって、時々難しい言葉使うね」
「これでも、中学までは勉強ができたんだよ」
「じゃあ、どうしてここに?」
「制服が可愛いから。あと、寝坊できるし」
「徒歩、三分だっけ」
「校風は自由だし、偏差値以外、割といい高校だよ」
「偏差値を度外視する段階で、大物だよ」
「そうかな」
気づくと、ミキのお弁当は残り半分を切っていた。
早弁は、大物の証なのかな。
「重美ちゃんは?」
最後の一口を食べ終え、ミキが言う。
「あの子、絶対賢いでしょ。妹に勉強を教えてあげる優しいお兄さんかなっと思ったけど。この状況じゃ違うか」
「それがね、重美ちゃん勉強は家庭に持ち込まない主義なんだって。学校内で宿題とかも終わらせるみたい」
「仕事を家庭に持ち込まないって話は聞いたことあるけど、まあ、重美ちゃんらしいと言えばそうだけど。それで、親に文句を言わせない成績を維持してるんだよね」
「多分」
「なんかすごい家庭だね。空田さんがどの立ち位置にいるのか想像できないや」
「普通の家庭なんじゃない」
「重美ちゃんが、すでに普通じゃないと思うけど」
あんたが、それ言うの?
「潮美、ミニトマト半分こしようか。友情の証」
「どうやって、半分に分けるのよ」
「じゃあ、今日は食べて。明日はアタシが食べるから」
「絶対だね」
「約束する」
「分かった」
私は、ミキのお弁当からミニトマトをつまむ。
「ちょっと、まって。明日は土曜日だよね。学校休みじゃん」
「だましてないよ。土曜日の晩御飯はフライ物って決まっていて、必ずミニトマトが添えてあるんだ。後パセリ」
「パセリ? 飾りだよね。ミキの家、お金持ち」
「違う。食べさせられるの。栄養があるんだって」
「あんな不味いもの、食べるの? 外食でたまに添えてあるけど、絶対食べない」
「だよね。それが食卓に並ぶの。とんかつの横のキャベツにミニトマトとパセリが」
「ミニトマトは美味しいよ」
「どっちも、嫌」
「結局食べるんでしょ」
「ママが鬼のような顔をするから」
「空田さんちって、どんな晩御飯なんだろ」
「ねえ、アタシの話聞いてる?」
「聞いてるよ」
私はつまんだミニトマトを食べた。
うん。やっぱり、美味しい。




