第11話
「ニイチャン、帰ったら説教だ」
「おう、足つぼのシートの上に正座させてやってよ」
「ついでに石も抱かせてやる。分かってる? そのくらいのことをしてるって、ニイチャン自覚あるよね。あるよね!」
ミキと重美ちゃん、会ってまだ十分も経ってないよね。
「待って! 私、大丈夫だから」
「駄目、妹としてこれは許せない」
「親友として、絶対に見過ごせない」
「リアクション、薄かったか?」
空田さんが、気おされている。
「薄い! バケツにスプーン一杯のココアじゃ、わからないよ」
「そうそう。ここはティーカップに大さじ三つが妥当ですよ。潮美があれだけやったんだから、絶対に甘々なリアクションの場面でしょ」
「あの‥‥‥」
「潮美さんはちょっと黙ってて」
「はい」
「今夜の説教、映画一本分は覚悟しておいてね」
「ゴッドファーザー三部作で、是非」
「まかせて下さい」
重美ちゃんが、にっこり微笑む。
「じゃあ、ニイチャン続きしようか。分かってるよね。自分が何をすればいいか」
「えっと、海部さん。今日のメイド服、可愛いね」
「違うでしょ。もぉー。それは、もう終わった話!」
「潮美もなんで、そこで赤くなってるの?」
なんだか強者が二人いるとちょっと怖い。
私たちの方が、まともだよね。
絶対、あっちがおかしいよね。
「さあ、続き! こんなことなら、ちゃんとシミュレーションしておけばよかった。なあに、昨日の自信満々な態度は。どこから来たの?」
「そうだったの? アタシたちはちゃんと練習したよ。繰り返し、『萌え萌えキュン』。何度も」
「でしょう。絶対にやっておくべきだった。不覚だ。私としたことが」
「重美ちゃん、大丈夫。分かっているから。自分を責めないで」
何、この連帯感。
私の方が、ミキとは長いよね。
「じゃあ、テイクツー言ってみようか。潮美さんいい?」
「あの、まだやるの?」
これは、拷問に近い。
空田さんも、固まっている。
「当たり前でしょ。萌え萌えキュンの所から、いい?」
この二人、やらせるつもりだ。
「‥‥‥」
空田さんが困っている。
そうだよね。強めの女の子たちに囲まれて、ギャラリーもこんなに沢山いるし。嫌だよね。
私だって、もう逃げ出したい。
「海部さん」
空田さん、真剣な顔。何を考えてるの?
空田さんが、私の手を握る。
「えっ?」
「行きますよ」
みんなが見守る中、空田さんが私の手を引く。
ちょっとはにかんだ様な優しい笑顔だった。
空田さんの手は大きく力強かった。
私は空田さんに連れ出され、メイド喫茶の教室を後にする。
ゆっくりと、時が流れる。みんなの顔が、驚きの表情に変わっていく。
私は、空田さんについていく、そう決めた。
空田さんの手、握り返してもいいですよね。
「『卒業』?」
「『卒業』だ」
二人の声が聞こえた。




