9.
「えー、ってかんじで、皆で協力して、いい会社にしていく、みたいなかんじです。えー、以上です。えー、忙しいところ、ありがとうございましたー」
パチパチパチパチ
いつもは集められると反発心をあらわにしているエンジニア達も、皆顔を上げて拍手した。高城が開発の一員だからだろうか。高城が話している間は持ち込んだパソコンで内職していたが、ちゃんと聞いてはいたようだ。
会議中に内職。
前職なら信じられない光景だ。最初は驚いたがもう慣れた。湊もやるし、気にしても仕方ない。
マルチタスクが出来る者というのはいるのだ。出来ない者がとやかく言うことでもない。
「あー、緊張しました」
「そうは見えなかったぞ」
「そうですか。良かったです」
内容は事前に確認していたので言う事はない。スライドはカラフルで僕にはないセンスだったが、社内に向けたものだし、問題はないと判断した。
が。
「良くはない、フラフラしてるし、声も小さい。書いたセリフを読み上げているだけでは眠くなるだろ。えー、とか、こんなかんじで、とか。酷いもんだ。練習不足も甚だしい」
「俺、大勢の前で話すのなんて初めてなんすよ。ほら見てください。悪くはなかったでしょ」
終わった直後に配布したフォームでのアンケート結果をスライドに写す。もうほとんどが提出していて、軒並み良い点数だった。セミナーの出来ではない、高城が皆に可愛がられている結果だろう。
「でも、次は内職させたくないですね」
そう言いながら高城はノートパソコンを閉じた。プロジェクターの光も消える。会議室全体が暗く、静かになったような気がする。
「俺もあーゆー時、内職してますけど。結構悲しいっすね」
少し小さくなった声に、前職で、僕が初めて人前でプレゼンした時のことを思い出した。
前職の会議室は高級感がある空間だった。濃い茶色のずっしりとしたテーブル、革張りの椅子。スーツを着た上司も先輩も同僚も、だれも手元から顔を上げなかった。緊張で途中で声が出なくなり唾を飲む僕に、上司は「終わり? もういいよ、時間の無駄」と言った。
それに比べれば、初めての講師役で、最後まで緊張を見せずにやり切れたのだ。それだけで僕には何も言えない。
「まあ、雰囲気は悪くなかったんじゃないか」
「後ろで瀬川さんがこっちちゃんと見ててくれたんで、やりやすかったです」
しっかり僕を持ち上げることも忘れない。こういう器用さがあったら、生きやすいだろう。
「……次は練習するなら言えよ」
「まじすかぁ。厳しそうだなぁ」
その声を聞いて初めて、さっきまで、いつもより少し硬かった事に気つく。
そうか。こいつ、あれでも本当に緊張してたのか。




