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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
1.パワハラ上司の憂鬱

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6/21

6.


 その夜もまた、僕は終電を逃した。ここのところ毎日だ。


 決算業務の真っ只中なのにも関わらず、予定通りに進まない案件のフォローに追われていた。


 営業のトップは湊だが、口頭でお約束が成された後は、結局僕が拾うことになる。顧客との打ち合わせから、契約書の確認、条件の調整などなど、僕の仕事は、経営管理部長という肩書きのイメージとはかけ離れた仕事も多い。


 今日も自分の仕事に取りかかれた時には、22時を過ぎていた。


 このフロアに残っているのは自分だけだ。だんだん頭がぼんやりしてきたが、これは明日朝までの仕事だ。ぱたぱたとキーボードを叩く音だけが響く。


「帰らないんですか」


「うあっ」


 突然声をかけられて、驚いて声が出てしまった。


 見れば高城がパーテーションから顔をのぞかせていた。両手に紙コップを持っている。


 隣の席は定時ごろから空いていたから、とっくに帰ったと思っていた。


「……いたのか」


「開発のフロアにいました」


「ああ、そっちか」


「いつもは帰っちゃうんですけど。最近、瀬川さんまだいるから」


「じゃあもう帰れ」


「帰りますよ、これ飲んだら。はい、瀬川さんも」


 そう言って高城は片方の紙コップを差し出した。インスタントのコーヒーの匂いがする。


「要らん」


「じゃあここに置いときます。これも。少し糖分とった方がいいすよ」


 コーヒーの隣にチロルチョコを一つ置いた。きなこもち味。下のコンビニのレジ脇にあるやつだ。上司への差し入れのセンスが悪い。


「手伝えることあります?」


「ない」


 僕は短く答えてノートPCに向き直った。


 一度目を離したからか、集中が途切れて画面の文字が滲んで見える。


「いつまでやるんすか? 顔色、悪いっすよ」


「……」


「いつも白いっすけど、今日はなんか、白い通り越して青系」


「……」


「健康大事っす。俺、筋トレ趣味なんすよ。筋肉は裏切らない」


「……」


「瀬川さんて、なんか運動してます?」


 くだらない雑談に返事をせずに、キーボードをたたく。


 ……仕事だって、僕を裏切らない。


 高城は僕のデスクの横に立って、しばらくモニターを見ていた。見られても問題のない画面だったので放っておく。


「……これ、今日じゃなくて良くないですか?」


「は?」


「これ、森くんのやつですよね。投げても対応できるの多分水曜すよ。今、新規案件でごたついてるから」


「だから?」


「瀬川さんの今日のタスクかもしんないですけど、これ、明日で大丈夫ですよ」


「だからなんだ?」


 僕を指導するような言い方に腹が立つ。そうだとしても、僕が今日中に見て、森に送ると伝えてある書類だ。今日の僕の仕事だ。


「ねー、瀬川さん」


 呆れたような低い声だった。すこし苛々したような口調。上司に対する言い方ではない。


「明日にしましょう。ちょっとおかしくなってますよ、タクシー呼ぶから帰りましょう」


「うるさい」


「湊さんに言われてるんすよ、瀬川さんが無理したら止めろって」


 それを聞いて、腹の底に泥をぶちまけられるような、不快な思いがした。


 なんでコイツが、湊と僕の間に入るんだ。そんな事、湊が直接僕に言えばいい。

 そうすれば言ってやる。僕は好きでやってるのだから、ほっといてくれと。


 返事をせずに仕事を続ける。しばらくして後ろからため息が聞こえた。ようやく諦めたか。


「はあ、社長命令だしなぁ。あー、もう、勝手にやるか」


 言われた意味がわからなくて顔を上げた。


「……は? 何を?」


「こんくらいなら、待てるだろ」


 ぬりかべのような顔で、僕を見る。物でも見るかのような目……何を考えているのか分からず、僕は背中にうすら寒さを感じる。


「ば、馬鹿にしてるのか」


「や、もうなんか面倒で」


「それが上司に対する口の聞き方か? これだから最近の若いヤツは!」


 僕はカッとなって机をたたいた。暗いオフィスに、バァン!と、派手な音が響く。


「あぁ?」


 怠そうだった高城の声が、一層低く、固く尖った。ぬりかべの目に怒りの火が灯る。


「あのさぁ、こっちは心配してるってのに、なんなんすか。関係なくないっすか、歳とか」


 そう言うと高城はこちらに手を伸ばす。


「!」


 殴る気かと、僕は目を閉じて頭を庇った。


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