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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
2.社会見学

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30/32

30.

 

「池上さんが言ってた件ですか? 断るんすか?」


「高城、黙ってろ」


「え、池上さんどうやったらできるか考えてましたよ」


 内心僕は大きくため息をついた。


 ……池上ってそういうところあるんだよなあ!!


 無理って言ってたじゃないか!! どうして後からハマって考えるんだよ!!


「おや、君、なにか、案はあるのかな?」


 立木部長は子供に気を遣うような優しい声で高城に聞いた。こんな会社の部長は、礼儀のれの字も知らないZ世代なんて、遭遇したこともないだろう。この会社の社員は高城の歳にはもう立派な社会人だ。中学生くらいに見えてるんじゃないか? そんな扱いだった。


「あ、はい、いいすか」


 高城は頷くと、確認するように僕を見た。


 まて、聞いてない。池上の案? 誰からも何も聞いてないぞ。だが、この場でそう言ったら、うちの会社がまとまっていないことがバレてしまう……


 どう抑え込もうかと考えていると、高城は勝手に原さんにプロジェクターを借りていた。


「すごい、部屋明るいのにちゃんと映るんすね」


「これ、ポインターね」


「わ、すげえ。猫が遊ぶやつだ」


 社会科見学のトーンで、最新のスクリーンを褒め、ポインターを動かす。


 あまりのはしゃぎっぷりに、僕はつい立木部長の顔を伺うが、何の変化もなかった。多分、本当に子供だと思っているのだろう……後で高城は説教だ。


「えーと、これ見てください。うちの会社じゃないですけど、このあたりの人浮いてるはずなんすよね、というのも作業ログ見えなかったんで。えーと、でも前にやったの見てたら、AI強いっぽいんで、今回の話し、未来っぽさ出すっていうのなら、よくないすか。えーとうちだと要件決まっちゃってるから、今更作業増やすのきついんすけど、切り分けて考えれば、別のシステム作ってかぶせちゃえれるかと、AI君みたいな、えーと、キャラモノとかにしたら多少クオリティあれでも可愛がってもらえんじゃないかなって。未来っぽいし」


 高城はチーム表を映しながら、少しだるそうな口調で一気に喋った。言いたいことは終わったのか、中途半端に単語を切って、そこで口を閉じる。


「……?」


 応接室に沈黙が落ちる。立木部長は腕を組んだ。原さんは首を傾げている。


 高城はちらりと唇を舐めた。本人は至極真剣。プレゼンは不慣れだし、練習もしていない。こう見えてかなり緊張もしているのだろう。お二人には伝わってないだろうが。


「……つまり」


 僕は見かねて、隣から助け船を出す。


「印象を変えるだけでよいなら、別システムを作成して、連動させる方法もある。当社で対応は難しいが、他のチームの人員でできるはずだ。AIを得意としているチームが空いているはずだから、未来感を演出するにはちょうどいいのではないか、と」


「ですです!」


 さすが瀬川さん!と、目で伝えてくる高城を無視する。


「なるほど」


 立木部長はすこしこの社会見学の若者を見直してくれただろうか。しかし、高城を全く見ずに、僕に話しかけてくる。僕は保護者になった気分だった。「おたくのお子さん、元気ですね」と聞こえた気がした。


「そこまで考えてくれているのなら、お引き受けいただけるのかな」


「ええと」


 これは難しいぞ。やり方が見えているならやれるよな、という圧を感じる。条件をまとめて、うちでは難しいということを伝えなければ。


 高城め、余計なことを……


 高城は手持ち無沙汰なのか、スクリーンの上をポインターを動かして遊んでいる。原さんがそんな高城を温かい目で見ていた。こういうところで発言できるだけでも偉い、とでも言いたそうな顔だった。高城も原さんに見せるようにしている。

 ……こいつ、ホントに中身は小学生なんじゃないか?


「……あれ?」


 原さんが小さい声を漏らした。立木部長は原さんに目を向ける。


「どうした、何か気になることがあるか?」


「あ、いえ、うーん、その。いや、もう、確認は済んでいるところなので、今更」


 もにょもにょと原さんは口を濁す。


「いいから。現場の担当者はあなただ。今回は突然の変更で苦労を掛けているのは分かっている。違和感があれば言いなさい」


「……たしかに、最初、AIを組み込むって話がありまして、そのチームがあったんです。しかしですね、ハレーションの問題が大きくて、その仕様は無しになりまして。その人員は別のチームに組み込まれているはずなので、浮いてるっていうことはないと……」


「ですよねえ!!」


 高城は突然、原さんの言葉を遮った。


 やめろ、先方の発言を遮るな。終わるまで待ってくれ……


「俺も変だと思ったんです。だって優秀でしょ、その人たち。他のチームは人いないって言ってんのに、おかしいなって。それで組み込まれたチームの人に聞いてみたんですけど、すぐいなくなったから、別の現場に入ったのかと思ってたって」


 高城は、わざとらしく顎に手をやって、首を傾げた。


「おかしっすよね。そういうの得意な人って集まるから、同じ人から紹介されてたりして。あっ!」


 そして、芝居がかった仕草で、ぽん、と、手を打った。


「ねえ瀬川さん、先日お会いした方に聞いてみましょうよ、コンサルタントで、このプロジェクトは役員さんにもアドバイスしてるって、おっしゃってたじゃないですかー」


 ……やりすぎだ。そこまで言うと、露骨すぎてかっこ悪い……


 僕は高城の得意げな顔が恥ずかしくなって顔をそむけた。「なんか、うちの子がすみません」といいたくなる。


 しかし、高城のテンションと比例して、原さんの顔は青くなり、立木部長の眉間のしわは深くなったのだった。


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