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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
2.社会見学

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29.

 

「大体洗い出したと思う」


 水増しの痕跡が、いくつも見つかった。現場にはいくつもの関係者が入り、権限も細かく分けられている。外部からわかる方法はなかった。


 僕は「緒方さんならやるはず」というマイナス方面の厚い信頼で、ピンポイントでやりそうなことを探した。そして、原さんが高城にかなり甘く、僕と湊と池上、全員をサポートできるように権限を設定してくれていたこともあって、見つけられたことだった。


 しかし


「さすが緒方さんだ。ハッキリした証拠はない」


 人員の水増しは、聞いた事もないIT会社に金が流れていたが、現場ではなく切り離したものを外注で作業している、という可能性もあった。深く調べて、もしそれが架空の取引だったとしても、ただのミスで終わりそうだった。


 外部の僕たちが告発することはできそうになかった。したとしても、権限を無視して現場を混乱させた、という事にしかならない。


「という事で、僕はスパイに行ってくる」


「いやいやいやいや! その流れはおかしいだろ、瀬川!」


 湊には隠し事が出来ない。本当にどんな勘をしているのだろう。今回もこっそり動こうとしたところで捕まった。


「だって、お前がまた、えーと、……メンタル病んだら、俺やだよ」


 言葉を探して見つからなかったのか、ダイレクトに言われる。


「大丈夫だって」


 緒方さんの圧や、雑な扱いには慣れている。厳しさが指導の域を超えていたとしても僕は耐えられる。それは本当だ。


 悪事の片棒を担ぐのは、そうと分かっていて作戦でやるなら大丈夫だろう。罪悪感と疑問を抱え、自分の意思に反しながらやったからつらかったのだ。


「僕が仲間になれば、とりあえず今回の仕様変更はなくなる。それに、僕が不正を指示された証拠は必ず押さえる」


「そんなに簡単にいくかなあ……」


「大丈夫だ。緒方さんにとって僕は都合がいい手下だ。舐められてるから、ボロも出すだろ」


「そうじゃなくて……」


 湊は嫌そうだ。でも他に打開策も思いつかない。


 それに僕はひそかに、緒方さんと戦えることに興奮していた。


 真正面から戦って勝てば、苦手意識もなくなるだろう。悪夢を見る頻度も少しは減るかもしれない。


 +


 だがその野望は、珍しく自らスーツを着て、前髪を上げた高城に、見事に打ち砕かれたのだった。


「あ、瀬川さん、緊急会議ですって」


 連れていかれたのは応接室。一面は窓になっていて、眼下にビル群と青空が見える。空に浮かんだような部屋だ。ローテーブルにソファセット。観葉植物もあって重厚な部屋だがさわやかさがある。


 いつもと雰囲気の違う場所には、原さんの他に、もう一人。


 プロジェクトスタートの時に挨拶させていただいた、事業責任者の立木部長がいた。高城は初対面だったようで、原さんに紹介してもらって名刺交換をしている。前よりはスムーズだなと見守っていたら、僕のほうに目くばせした。(これが、瀬川さんの言ってた、バブル期のモテおやじですね!)と、内なる声が聞こえた。……無視。


 いやしかし、実際に大変おモテになりそうだ。


 口元のしわすらどこか上品で、セットされたグレーの髪もスーツも、洗練されている。僕たちが少年時代に思っていた「成功した大人」がそこにいた。緒方さんとは格が違う。いや、緒方さんもあと10年したらこうなるのだろうか……うーん、難しいかな。


「原から、少し気になる事を聞きまして」


 原さんは小さな目を瞬かせている。


「例のシステムの改修の件ですが、なにか難しいですかね」


「はい。スタート日はもう目前です。今からの変更は、対応できかねます」


 立木部長を前に、自然と背筋が伸び、肩に力が入る。


 ここで曖昧なことは言えない。どうなってしまっても、断るしかない。今後の取引が続くかは、僕の頑張り次第、というところだろう。


「なにか、要望はありますか。こうすれば、出来る、という意見があればお聞きしたい」


 まさか、湊と池上を分裂させて10人に増やせともいえない。今更、新しい人間が入ったところで、混乱を招くだけだ。人さえいれば良いものではない。


 どう断ろうかと息をのんだ時。


 空気を読まないぬりかべのような声が、となりから流れたのだ。


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