28.
……馬鹿か?
僕は急に力が抜けた。緒方さんがとても小さく思えた。
緒方さんから原さんまで、何人挟んでいるかは知らない。でも原さんは、現場で毎日「万博成功させようね」と言っている。そのおかげで現場はいい雰囲気だ。湊も、うちの社員達も、現場は「万博成功」に向かって仕事をしているのだ。
この仕事は、そんな、くっだらない、人を動かすための装置として使っていいものではない。
……よし。
「いやあ、光栄です。緒方さんが、まさかそんなに、僕のことを買ってくれてるなんて」
『あはは、ちがうちがう、お前の為だけじゃないよ。それはついで』
ほら来た。僕が調子に乗る事を言うと、緒方さんは絶対否定する。
先ほどの湊の「あの人は駄目だ」を、思い出す。あれは、僕を思い遣った発言ではなかった。もっと他の、経営者の勘としての「人」が「駄目」。
「それは……緒方さんの事だから、なにか本命があるんですか?」
『どうかな。瀬川君が仲間になってくれたら、あるかもね』
匂わされて、僕は自分の中で声色を探す。出来るだけ緒方さんに似た、白々しい明るい声。
「……手伝いましょうか? 資料作りとか」
『お。いいね。……わかってきたじゃない』
それを聞いて確信した。またこの人は、何かをしている。
吐き気は飲み込んだが、口角が上がるのを抑えられない。
ああ、思い出したくはないが、緒方さん好みの資料作成ならお手の物だ。誤魔化す個所も、やり口も、しっかりと記憶している。
+
「高城、ちょっと」
「はい」
開発チームの部屋にいた高城に声を掛けると、嬉しそうに廊下までやってきた。しばらく僕の目を離れていたからか、パーカーを羽織って、前髪を下ろしている。誰か注意しろよ。
「なんすか。瀬川さん来てくれんなら、ちゃんとしてくればよかった~」
服装は、僕の為ではないだろうが。せっかく顔も覚えてもらったのだから、もう少しちゃんとした方が得だろうが。
しかし今は、そんな小言を言う時間も惜しい。
「開発のほうの説明資料、読み方が知りたい。少し抜けられるか?」
「あー、それなら、こっちでしか見れないのもあるかも。こっちでもいいすか?」
「契約関係は閲覧権限がないだろう」
「原さんが俺のアカウントには権限くれたんですよね」
端の席で資料を次々と開いていく。入り組んだ図や一覧表の内容や目的を高城に確認しながら、一通り目を通した。
「あれ」
先に気が付いたのは高城だった。
チームの一覧表だった。このシステムだけではなく、隣接するものも含めプロジェクト全体がまとめられていて、かなりの数がある。
「現場、ここ以外にもいくつかあるから、あんま気にしてなかったすけど」
長い指で一つのチームを指さした。
「このチーム、こないだコンタクトとったんすよね。こんなに人いたかなあ。辞めちゃったのかなあ。……人足りないから手伝ってくれないかって相談されたんすよね」
それが一つ目だった。




