3.
会議が終わると、社員たちは露骨にほっとした顔で散っていった。
結局、休憩の後はこれからどう動くかを決めただけで終わった。責任の所在も曖昧なままだ。戸田が無理なら他の人間が変わるべきだが適任者がいない。
高城はMacbookを抱えたまま、つったって僕をみていた。
さっき遮られた事が、今になってふつふつと苛立ちに変わる。なんで僕の言葉を止める権利がコイツにあるんだ。
つい、舌打ちする。
「まったく、余計なことを」
高城は気にした風もなく、少し首を傾げた。
「何がです?」
「僕は、責任追及をしていたわけじゃない」
「そっすね。事態をまるっと解決するために、原因を探してんだろうなとは思いました」
躊躇いなく返され、僕は眉を寄せた。
「わかってるなら、なぜ遮った。君は僕のやり方に意見できるほど、会社を理解しているのか?」
「いや、そういうわけじゃないすけど」
「ではどうして」
「や、なんか、無駄だなとおもって」
「……は?」
僕が無駄だと言いたいのか? そこまでストレートに言われる筋合いはないぞ。
「だって、どうせ戸田さん答えらんないし、瀬川さん怖っ、て感じで一時間たっちゃったら、時間の無駄じゃないすか。もし戸田さん辞めちゃったら、一からやり直しでしょ」
辞めないようにもっと優しく接しろだとか。厳しすぎるとか。お前はパワハラだとか。正義ぶって言ってくるやつはたまにいる。こいつもそういいたいのか。
馬鹿馬鹿しい。指導教育は上司の仕事だ。仕事をしないやつに、給与を払う余裕はない。
「それで潰れたら、その程度なんだろ」
「そうですね。その程度です……この会社が」
「ふざけるなっ!!」
僕のこめかみが痙攣した。この会社を馬鹿にするのは許せない。
しかし高城は、怒鳴りつけても全く動じなかった。
「離職率、かなり高いですよね。湊さんのカリスマで入社も多いですけど……入社したらギャップがあるのも確かです」
「……だが」
反論しかけたが、確かに、その通りなのだ。離職率は高い。特に、入社1年以内で辞めるのが多い。こいつの言うとおり、原因は外から見たイメージとのギャップだろう。しかし、しかしだ。
「仕事なんだ。泥臭いことも嫌なこともあるに決まっているだろう。学生じゃあるまいし。会社を舐めているとしか思えない」
「や、それはそうなんすけど」
高城は長い指で顎を掻いた。
「なんか、みてて気持ち悪いんすよね。やらなきゃいけないこと全部瀬川さんがやっているのに、悪いことも全部瀬川さんのせいになってる」
「……随分と、生意気なことを言うな」
「俺、試用期間が来週までて。三か月いて、そう思ったっす」
そう言われて、僕はわずかに動揺した。
ここでこんなことを言ってくるという事は、つまり、……退職する気なのだろうか。
最後に言いたいことを言って逃げる。そういう人間を、これまで何人も見てきた。
「君……辞めるのか?」
「いいえ」
「……そうか」
何でもないように否定する言葉に、少しほっとした。最近は本当に骨のある人間が少ない。高城のことは湊も気に入っているようで気にかけていた。僕のせいで辞めると言われるのは困る。
僕は資料とLenovoのノートPCを脇に抱えた。自席に戻りたいのだが、ぬりかべ男はそれを邪魔するように立っている。
「あ、瀬川さん。相談があるんですけど」
「今か?」
後にしろと言外に伝えたつもりだったが、高城はドアの前からどかない。
「俺、経営管理部行きたいんですけど。瀬川さんの補佐やりたくて入ったんで」
「君はエンジニアだろ」
「湊さんに聞いてません? 一応面接の時、全体見る経験したいっつったら、じゃあ経管だね、試用期間終わったら考えるって、言われてたんすけど」
僕は何も聞いてない。あとそれは、入社させるための餌だろう。やりたい仕事に適性があって、実際にできる人間なんて一握りだ。
「は、君にできるわけがない」
事務方に行きたがるやつはたまにいる。大体が現場がきついとか客先とコミュニケーションを取りたくないとか、今より楽だと思っているのだ。
ふざけるな。
「やってみなきゃわからないですよ。瀬川さんの補佐なんて、俺以外やりたい人いますかね」
僕の心のうちも知らず、軽い口調で言われて腹が立った。舐められている。
「必要ない」
「あ、そうすか」
高城はそう言って開発部のフロアに戻って行った。
素直に引き下がられるとそれはそれで苛つく。
……やりたいならもっと食いさがれ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。ブクマ、評価などしていただけると嬉しいです。
管理部あるある、お仕事あるあるを入れていけたらいいなと思っております。




