2.
だが高城は、怯えた様子もなく真っ直ぐ僕を見ていた。何を考えているのかよくわからない目が、僕は、心底気に入らなかった。
高城に向かった僕の視線の端で、戸田がほっと溜息をついた。それでカチンときた。
「なぜ今? そんなことMTGまでにやって当然だろう? 戸田!」
戸田は新人に舐められて、庇われて、悔しくないのか。しかし当の本人は顔を白くして目を泳がせている。高城が代わりに答えた。
「昨日は、別件の障害対応で戸田さんとられてて」
代弁にしては態度がふてぶてしい。
「だから共有できたの、今日になっちゃって」
「言い訳か。そもそも、リアルタイムで共有できていないのが問題じゃあないのか?」
ぬりかべはぬっと立ち上がった。
デカいやつというのは、それだけで威圧感がある。
「それも、含めて。整理する時間を、ください。五分で、いいすから」
高城の声が少し大きくなる。見下すような視線、僕を宥めるような言い方にイラついた。
「だから、それは……」
「今やるのは、原因の特定ではなくて、リカバリでしょう?」
会議室に響く低い声が、もう一段階大きくなり、僕の声に被さった。それで気が削がれた。けして気圧された訳ではない。あくまでも静かな声だった。
「チッ」
……確かに今は解決が優先だ。
戸田の態度には腹が立つが、それで本題を見失っていたら僕も同じだ。
高城はその場しのぎで戸田を庇っているような顔ではない。睨んでみてもぬりかべは動じなかった。
なんだか苛々しているのが馬鹿馬鹿しい。僕の方が子供のようだ。
「ハア。情けない」
僕は落ち着こうとため息をついた。
「……五分だな」
「ありがとうございます」
高城は戸田の横に回り込み、MacBookの画面をのぞき込んだ。
「ふうん。……ここでこの話があって、……ああ、向こうの担当変わったんすね。これ、最初どんな話だったんすか?」
「え、ええと……」
さっきまで凍っていた戸田が、ぎこちなく喋り出す。
「なるほど、見積もりみて激怒しちゃったんすか。これが含まれてると思ってたから」
「そ、そう。こちらは、それは技術的には可能って言っただけだったんだけど、気が付いたら当然やることになってて」
「これ、サービスでやるとどうしたってマイナスっすね。要は、適正価格で通すにはどうしたらいいか、であってます?」
「あ、いや、でも、……納期も伸ばしてもらわないと」
「あーそうなんすか。じゃあこれは後から考えるとして……」
僕はそれを見ながら、内心で舌打ちした。これを、会議までにやるのが、戸田の仕事だろうが。
少し考えればわかる。問題を明確にして、解決するための流れを整理して、やるべきことをやる。それだけだ。誰でもできる。できて当然だ。こんな僕にだってできるのに。
なぜだ。何でやらないんだ。……仕事を、僕を舐めているのか。
休憩とはいいながら、会議室の空気はどんよりと重い。その中に妙に落ち着いた低い声が流れていく。
その五分は、まるで僕一人で、世界の仕事のすべてに押しつぶされるような気分だった。




