1.
「少し考えればわかるだろうが」
――バン。
資料の該当箇所を指しただけのつもりだったが、僕の掌が机に当たった音は思った以上に大きく響いた。
会議室の空気が、一瞬で凍りつく。
「なぜ報告をしなかった? なぜ昨日の日報に、問題なし、なんていう言葉がある?」
空気とは対照的に、やたらと明るい会議室。壁はカラフルで、テーブルも椅子も白く、洒落たカフェのようだ。
集まっている人間達も、カラフルなパーカーやTシャツ姿。会社の会議だというのに、ジャケットすら着ていない。
その中で、僕だけがスーツだった。
「昨日の時点でわかっていれば、ここまでマイナスにならなかった」
ああ、小学校の先生とはこのような気分なのかもしれない。嫌われ者の、厳しい先生。
「そのくらいはわかるか? なあ、理解できるか?」
社員たちに、それと似たような存在だと思われている。自覚はある。
向かいに座る戸田は俯いた。それを頷きと捉え、僕は続ける。
「なぜ、報告をしなかった? さっきからそれを聞いている」
戸田はこのプロジェクトのリーダーだ。予定外のことがあれば報告し、僕や湊に相談するべきだった。
なのにそれをしなかった。
追求されても黙り、下を向いたままだ。隣の社員はチームメンバーのくせに視線を逸らす。誰も、何も言い出さない。まさに沈黙のワンチームだ。
「おい、何とか言ったらどうだ」
僕の低い声に、戸田の肩がぴくりと揺れた。
「い、いえ、その……」
「その、何だ」
縮こまっているのは、僕に怯えているのだという事は分かっている。だからといって、なぜ、やるべきことをやらなかった人間に、僕が配慮して優しくしてやらなければならない?
「せ、先方は、現場サイドで話を納めたいぽくて」
「は? そりゃそうだろ。金を払わなくてすむならそれが一番だ。それで君がそう判断した。ならばその工数に給与は要らないな?」
「……」
また沈黙。ああ、イライラする。
トントントントン、と、僕が机をたたく音だけがしらじらしく響く。
「あのー、瀬川さん」
その空気を破ったのは、端で議事録を取っていた高城だった。
三か月前に入社したばかりの若いエンジニア。背が高い上にオーバーサイズのグレーのスウェット姿で、なんというか、妖怪のぬりかべのようだ。その上、うねった明るい色の髪が眉を隠し、表情が読みづらい。
ぬりかべの声は、ピリピリしている会議室に似合わず落ち着いていた。
「五分、休憩にしませんか」
「あ? 今それどころじゃないだろ」
「五分ください。ちょっと、わかんなくなっちゃったんで。話まとめる時間ください」
「はぁ?」
下がった僕の声に、会議室の空気がさらに冷えた。




