25.
それからしばらくは、順調だった。非常に忙しかったが、現場は昔からの社員が中心でやりやすかった。勢いがあったころに戻ったようで、日々充実していた。
二月も終わりに近づき、プロジェクトも大詰めを迎えていた。このころになってしまうと逆に僕のやれることは減る。高城は助っ人で開発チームに入った。僕は日々の進捗管理をしたり、差し入れをしたりしながら、現場を手伝えない自分の無能さをかみしめていた。
が。
「……それについては、最初に、対応しないと決まったはずでは」
「そ、そうなんですけどね。いや、折角の大きな機会じゃないですか、やっぱり、こうテーマを考えると、どうしても、もっと、未来感がほしい、という話が出て」
話がある、と、僕だけが呼び出された無機質な、窓のない狭い会議室。
先方の担当者である原さんは、丸くてつるりとした額をハンカチでおさえながら、とんでもないことを切り出したのだ。
「それは……仕様の変更、という事ですか」
「う、うん。そうなりますかね」
「……今からでは、難しいと思いますが」
できればNOと言いたくはない。お任せくださいと言ってしまいたい。
しかし、僕から見ても、この仕事はゴール寸前なのだ。今ここで、ゴールが険しい山の向こう側になった、といわれても無理だ。
「なにも、このままでやってほしいわけではないんです、人員も配置するし、予算もプラスになるから。上のレビューでそういう話になりまして。なんか、役員が、コンサルに言われたみたいで」
「いや、しかし」
「本当に申し訳ない。でも、このシステムは上も期待していて。もうすこし何とかならんかと、言われてしまうと、私には、ねえ」
ひとまずここは切り上げて、相談の結果難しかったと回答申し上げるしかないだろう。
「……一度、持ち帰らせていただきます。返答は……」
「こ、これからも、取引が出来るといいと、私は思っているんですよ」
原さんは慌てたように、人のよさそうな顔をしかめて言い出した。
「うちでも、おたくのような会社と直接取引をするのはめずらしいから、いままで様子をみさせてもらいました。活気もあるし、皆さん優秀だし、柔軟に対応してくれているのは、助かってます、評価しています」
困ったような顔は、何とか僕に頷いてもらわなければならない、という必死さがにじみ出ていた。
「でも、上の方には結果と書面しか届かないですから。わ、私もね、皆さん、評価されるべきだと思うんです。でも、うんと言ってくれないと、現場の頑張りが、無に帰してしまうかもしれない。やっぱり間に一社入れた方が良いんじゃないかって言われたら、もう直接お話しすることもできないかも」
「原さん……」
なれていない脅し文句に、僕たちを本当に評価してくれている本音が透けて見えて、僕はもう一度答えた。
「一度、持ち帰らせていただいて、検討いたします」




