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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
2.社会見学

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19/20

19.


 下っ端研修の実践の機会は、思ったよりも早くきた。


『瀬川、やべえ』


『現場の上のほうに緒方さん入ってるらしい』


『ごめん知らなかった』


『会わないようにしてね』


 現場に向かう地下鉄の中。大阪に出張中の湊からのメッセージが届いた。slackではなく、LINE。ポコン、ポコンと連投されるメッセージ。気を使ってくれたのだろう、その後にアニメのキャラクターの、意味が分からないスタンプがいくつか続いた。


 しかしそのスタンプも、あまり効果はなかった。その名前に、背中に冷や汗が流れる。


 ──緒方さん。


 大丈夫だ。もうあれから何年たったと思っている。あの経験があったから、僕は今こうしているんだ。あれは無駄ではなかったのだ、大丈夫だ。僕は無能ではない、逃げたのではない。そう必死に自分に言い聞かせる。


『了解』


 と、返すと、すぐにまたLINEが来た。


『今日、会議でそっちにいるみたいだから、高城と一緒にいろよ』


『一人になるなよ!』


 そこまで心配されると、なんか、湊の娘にでもなったみたいだな、と、少し笑えた。


 ……よし。大丈夫だ。


 +


「なんか湊さんから、直接Slack来て。今日は瀬川さんと一緒にいろって」


 朝から、どこに行くにもついてくる高城に聞くと、そう白状した。


 トイレまでついてきたので、その横の休憩スペースの自動販売機でコーヒーをおごってやっていた。


「理由は聞いてるか?」


「いや、特には。なんか大事な作業とかあったりします? 勉強しろってことかなって」


 何も知らないなら、説明することはない。まさか上司のお守りだとは思わないだろう。


 高城が現場に来るようになって2週間、こいつはもうすっかり現場に溶け込んでいた。


 スーツ姿も見慣れた。前髪は上がっていて、ニキビ跡が残る額が見えている。この頃、高城はUNIQLOの感動ジャケットをいつも着ている。僕に言われて色々と見た結果、コスパに感動したらしい。


 この手の機能的な格好は、本人のスタイルの良さを浮き彫りにする。安上がりなのに妙に小洒落て見えた。女性の視線も集めているが、有能な割に素直で人懐こいので、意外とオジサン連中にも好かれている。


 ちなみに、一番困るのは、目を離すとすぐに、他の協力会社からスカウトされることだ。先日ついに原さんからも「うちも中途募集してるよ~。推薦しようか?」と冗談交じりにいわれていて、僕はひやひやした。大手の条件にはどうしたってかなわない。


「まあ、日常の動きは大分わかったと思うんで、そろそろ瀬川さん休みとっても大丈夫ですよ」


 なので、本人はそう言ってくれるのだが、僕はどうも心配で休めないのだ。


「まあ、そうだな。そのうち……」


 言葉を濁しコーヒーを飲む。その時だった。



「あ、いたいた。瀬川君! 久しぶり」



 その、やたらとよく響く声に、全身が総毛立った。


「丸山さんに聞いたよー、湊君とこ紹介したって。それでお前もいるかと思って、探してたんだよ。言ってよー、来てるならさあ」


 大股で歩いてくる、背の高い、がっちりした壮年の男。


 隙のないアルマーニ、艶のある肌、白い歯。整えられた太い眉に、ぎらぎらと光る目。


 心臓の音が強くなる。周囲の音が遠くなる。


「……あ、」


「? 瀬川さん? だいじょうぶっすか?」


 高城の声。それが聞こえて音が戻った。


 そうだ、こいつの前でみっともないところは見せられない。


 何とか、大きく息を吸い込む。これは術だ。振りでいい。声を少し高く、口角を上げて。相手にテンションを合わせるのだ。


「お久しぶりです、緒方さん。私もさっき聞いたんですよ、同じ現場に入れるなんて光栄です」


 よし、喋れている。大丈夫、飲まれてない。


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