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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
2.社会見学

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17/21

17.

 

「瀬川さんてやっぱすげーっすよ。いなかったらまじでこの会社もうないでしょ」


「僕は誰にでもできることをやってるだけだ。うちは湊がいるから」


 何杯か飲んで、研修はなし崩しに終わった。肘をつくな、グラスに気を使え、人が真面目な話と自慢話をしているときは飲み食いするな、スマホはしまっておけ。相手を褒めろ。


 そんな細かい話を、高城は素直に聞いてすぐに実践しようとする。


「いや、湊さんもすげーっすけど、前しか見てないじゃないすか。今日、瀬川さんいない時、原さんめちゃくちゃ褒めてましたよ。そちらはバックオフィスがしっかりしてるから安心だって」


 原さんは先方の担当者だ。穏やかな方で、たどたどしく挨拶した高城を、早速気にかけてくれていた。息子さんが高城と同い年なのだそうだ。


「……そうか。それは嬉しいな」


「俺もっす」


「なんで君が喜ぶ」


「へへ」


 ああ、部下とはこうあるべきだ。きちんと上司を立てて、敬う態度を見せる。


 酒もあって、下手糞な世辞すら心地良く感じる。僕も久々にふわふわといい気分だった。


「あー、そうだ、今朝俺、一個だけ瀬川さんにムカついたことあって」


 は?


 冷水をぶっかけられたようだった。頭が一瞬で冷える。


 ムカついた? 上司に向かってムカついたとは何だ!?


 とっさに言い返せない僕に、高城はさっきとまったく変わらない態度で、グラスを見ながら続ける。


「『少し考えればわかるだろ』って。やっぱ、あれはいくら考えてもわかんねっすよ」


 朝、格好を注意した時か。


 言い過ぎたか? いや、だってそれは指導の範囲内だろ。でも、つい、馬鹿と言った気がする。


「一日引っかかってたんですよ。なんで俺わかんなかったのかなって。瀬川さんの説明でそうかもって思って、言う通りにしましたけど。そんでそれは、今は正しかったなって思いますけど。でもやっぱ朝はわかんなかったんすよ」


 高城は冷めたポテトフライにケチャップをつけて、口に運ぶ。僕は何も言えず、もぐもぐと動く口元を見ていた。


「俺、就活もしてなくて、 ちゃんとした大人の中に入ったことなかったんすよね。会社の皆も若いし、あんまマナーとか気にしないじゃないすか。湊さんもあんなだし。だからやっぱ、実力があれば何してもいいだろって思ってたところがあって。だからダサくして可愛がられろって意味わかんねーって」


「その割には、素直に従ったじゃないか」


「や、だって、ハゲたおっさんより俺のほうがモテるって、説得力しかないじゃないすか」


 瀬川さん言語化ヤバいっすよ、と、高城は笑う。


「いや、今は分かりますよ、原さんだって、俺が似合わねーネクタイ締めて、なんか、頑張ってたから優しかったんだろうし。他の人も良くしてくれましたけど、多分、舐めた態度とってたらなんも教えてくれなかった」


 そう言われて、僕はようやく、思い至った。


 ああ、そうか。新卒で会社に入社した時のショックを、こいつは今まで受けていないのか。


 僕はこいつの経歴を知っているのだから、少し考えればわかる事だった。


「朝は僕の失言だった。……悪かったな」


「え? あ、別に謝ってもらいたかったわけじゃなくて」


「そういうのは、社会の常識だ。すぐに身に付く」


 僕にしては、かなり優しい言葉をかけたつもりだったのだが、高城はまだ納得できないというように首を傾げた。


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