14.
「部下の高城です。私が不在の時などは彼にお伝えください」
「初めまして、高城で……と申します。ありがとうございます、えと、頂戴いたします」
たどたどしく名刺交換をする高城をハラハラしながら見守る。
僕の予備のワイシャツとネクタイ。驚くほど似合っていない。
ワイシャツは湊も使えるように少し大きめだ。袖は短かったが、Tシャツよりはマシだ。ネクタイは当たり障りない安物。
前髪はワックスで無理やり上げた。目元がはっきり見える。額に残る赤いニキビ跡。不安げな表情とたどたどしい態度のおかげで先ほどよりは幾分かマシだった。
高城をトイレで待たせて、鞄に入れてあったワイシャツとネクタイをとりに行った。
「え、嫌ですよ。ていうか、服装、自由なんでしょ。なんでですか?」
しかし、せっかく持ってきてやったのに、そう言って渋る。
「少し考えればわかるだろうが」
時間もない。僕の声も低くなる。他のやつならそれだけで言うことを聞くのだが、高城は少し目を閉じてから、不満げな声色で抵抗してきた。
「いや、考えたけどわかんねっす。ジャケット着てきたし、ジーンズじゃないし。別に、こんなカッコのやついっぱいいるじゃないすか。なんでだめなんすか」
……こいつ、本当にわからないのか?
僕は、のどまで出かかった「もういい」という言葉を飲み込んだ。湊がそうしたいなら、出来るだけ意思に沿うのが僕の仕事だ。
自分で気づいてほしいが、説明した方が速い。ため息をついて、向き直った。
「……この会社とうちの会社のパワーバランスは分かるか?」
「え? はあ、まあ」
「このプロジェクトで、僕たちは先方に気に入られなければならない。今後も付き合っていきたいと思われたい。いわば、この現場は営業だ。それも理解してるか?」
「はあ。言われてみれば確かにそうですね」
それでも高城の表情は変わらない。ここまで言ってもわからないのか。
「……この会社のリーダー層は50代後半から60代、バブル世代。知ってるか?」
「え、そのくらいは」
「あの世代の価値観は、女にモテるとか、稼ぎとか出世とか、そういうのが根強い。それも理解できるな?」
「あー、はい。確かに。ギラギラしてるイメージ」
OKバブリー、とつぶやく高城の肩を押して、鏡に向かせる。
「君、鏡を見て、どう思う? 若くて背が高いオシャレでシュッとした男が、生え際と腹回りが気になる年頃の方々に受け入られると思うか?」
「え、褒めてます?」
「褒めてはいない。そうだと言ってるだけだ」
はあ、と、複雑な顔をして鏡を見る。僕と並べてみればわかりやすいだろ。どれだけ、人種が違うか。




