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ベンチャーNo.2の瀬川さんは、Z世代がわからない  作者: ru
2.社会見学

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12/25

12.


「瀬川~、生きてるー?」


「ギリな」


 控え室がわりに貸してもらった会議室で、机に突っ伏して休んでいたら、疲れた顔をした湊がチョコレートを机の上に置いた。作業デスクの端に、申し訳程度に置いてあるお菓子だ。


「生きろ、そなたは美しい」


「いみがわからん」


「そのくらいはわかってよ。義務教育だよー」


 無駄話に適当に答えながら、包みをほどいて口に放り込んだ。あまり味がしなかった。


「いや~、歳を感じるね。たかだか2徹でこのありさまだよ」


「もう僕たちはオジサンだからな」


「気持ちはまだ27なんだけどなー」


 机が三つの、狭いアパート。あれからもう5年。


「僕は、28くらいのつもりだが」


「あ、自分だけ成長してる。じゃあ俺30~」


 それでもまだ2つ足りない。運動不足で一日中モニターを見ている生活。身体の年齢はもっと上の気がする。


「今日は寝ろよ」


「瀬川もね。あー、会社に顔出さねーと。動いてる件大丈夫かなー」


「ああ、止まってるものはあるけど燃えてるものはない」


 会社の様子は高城がよく報告してくれる。メッセージで要点を送ってくれるから、疲れた頭で数字を分析しなくて済んだ。


「高城くんが?」


「あいつ、凄いな。まだ半年だぞ。その前、フリーターって言ってなかったか。よくあれがうちの会社に来たな」


「Youtubeで俺見て応募してくれたらしいよ。俺すげえ。大物釣り上げたぜ」


「そういえば」


 初めて意見してきた時のことを思いだした。


「離職率高いのは、社長はカリスマなのに僕が怖いから、そのギャップのせいだと言われたな」


「えー! そんなこと言われて、お前がキレなかったの!?」


「なんか、言い方がうまかったんだよな。前は飲食だっけ? 接客業の経験か」


「あー、履歴書だとバイト書いてたからそうか。彼、職歴には書いてなかったけど、学生時代からずっと個人で開発を……はっ、あ、あ、ああああ!!」


 湊はいきなりびくりと痙攣して、奇声を発すると、あたふたとスマホを取り出し耳に当てた。


「あ! お疲れ! うん、あのさ、高城くんまだいる?」


 電話の先は会社のようだ。


「高城くん? あのさ、面接の時、個人で作ってたやつの話してたじゃん。……うん、うん。あれ、結局どうしたんだっけ ……はー、それそれそれ!」


 湊は立ち上がって、ウロウロしながら早口で続ける。


「いまさ、ちょっと困ってて。……池上は同期の持ち方が悪いって言うんだけど、俺ちょっと違う気がしてて……うん、うん」


 湊は空中に指で線を描きながら、どこか遠くを見つめている。紡ぐ言葉が、だんだん僕と違う世界の言葉になっていく。


「そう、みんなbotを……でも、……フェイルした時に……うん。うん。で、FAQも……別々の更新起点で……キャッシュクリアしたら……。あー、最悪……え、燃えたの? どこが? ……うん。あー……だよね。……エスカレーション設計と……導線が……うわ、今それだわ。全員RACI違うこと言ってる」


 僕は湊の邪魔にならないように、静かに背もたれに身を預けた。


「え、MCP? ……ああ、違う違う、全部じゃなくて……うん。うん。で、UIには直接返さずに、いったんSSEで流して……あー、なるほど。うん、いや、ありがとう。なんかいけそう。ちょっと池上と話してみる。まじありがとう~」


 電話を切った湊は、すっきりした顔をしていた。


「高城くんすげえ。煮詰まってたのが何とか見えた」


「よかったな」


「いやほんと。池上はさー、なんかこだわっちゃうとハマるんだよね……高城くん、さすがだわ」


「うん、そうか」


 こんな企業にいるのに、僕にはどうしても、開発の話が理解できない。耳から入った音が、そのまま脳の表面を滑って落ちていく。


 高城も、そっちの世界の人間だった。そうだ。あいつもエンジニアだった。


「ねー、せ、が、わぁ」


 湊が目を輝かせて、わざとらしく指を組んで、お願いのポーズをした。可愛くはない。


「高城くんさ、明日からこっちに……」


 そう言うと思った。


 僕は湊に合わせて、腕を組んで、そっぽをむいて見せた。おっさん二人で何をやっているのだろう。


「駄、目、だ。今そんなことしたら、会社が崩壊する」


「え!じゃあ、来週から!」「無理だ!」


 湊は引き下がらない。これは本気だ。


 必要なのだ。高城が。


 これからの全社の予定を頭の中でスクロールする。年末は無理だ。僕もいないのに、イベントが多すぎる……


「年明け」「やった」


 はー、と、息を吐いて、湊は安堵したように机に崩れ落ちた。


 あいつは、本当に使える人材なのだな。僕の下でなくても。


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