ディストピアの衝撃
待ちに待った食事、突き付けられる悲しい現実
待ちに待った日がやってきた。
入院して2週間あまり、遂に経口摂食で3食摂る日々が帰ってきた、久々の食事を前に狸氏の胸中は期待に膨らんでいたが、配膳された食事が顕になるとその期待は無惨にも打ち砕かれた。
仕切り付きのランチプレート、洋画の刑務所のシーンでしか観ないような其れの上には何物かが盛り付けられていた。
ディストピア飯、主に荒廃した未来や管理社会を舞台にしたSF作品に於いて登場する、食の愉しみである香りや食感、彩りなどが排除された無機質な食事であるが、まさにそう形容すべき物がプレート上を占めていた。
様々な色をしたペースト状の半固形物を恐る恐るスプーンで掬い口に運んだ狸氏ではあったが、その咥内は混乱に満ちていた。
食感はお世辞にも褒められない出来損ないのゼリーのようだが、ピンク色のペーストは鮭味、緑色はブロッコリーといったように、味は其々の色の料理のものであった、食感は全て同じ様なのに味が違うと言う現象に対し脳が認識を拒否していた。
其々のペーストに対し食感は兎も角、味に関しては及第点だと感じた狸氏であったが、主食であろう白いペーストに関しては閉口した、白米ベースと思われるがあの独特の甘味や香りもなく、ただのデンプンのペースト、生暖かいデンプンのりと形容すべき代物であった。
食の根幹を占める主食が不味い、食に関しては一家言ある狸氏にとって耐え難い苦痛ではあったが、経口摂食という大事の前には、些末なことであった。
味のするペーストを咀嚼する作業、そう単純化し己を納得させ何とか食事を終えたが、今後毎食この作業を行うと考えると気が重くなった。
せめて食感だけでももう少しましなものにならないか看護師に相談したが、転院まで日がないので検査をして変更するのは間に合わない、転院までの数日は耐えてほしい、転院先には嚥下検査を直ぐにするように申し送るとのことだった。
そう、転院である
入院から半月ほど、経過観察も問題なく救急病院からリハビリ病院へ転院し本格的にリハビリに当たる事となるのだ、未だ寝たきりでベッドから動くことも叶わないが、少しでも状況が改善するよう願うしかなかった。
あと数日はこの食事と呼びたくない物と付き合わなければならないと考えると狸氏は少し憂鬱であった。




