表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/108

94

 

 制御しきれない魔力が暴走する。

 窓・壁・天井がギシギシしている。部屋中に青バラが飛び回って、棘が頬をかすめる。


「「旦那様!!」」

「ラムセスの記憶が解けたから、皆の記憶も解けたか……」


 使用人達がローズの間に集まってきた、みな不安そうにしている。


「ラムセス、今日は失礼する、見送りは要らない。明日、城で待っている」


 陛下は、去っていった。


「「お嬢様は?」」と口々に皆が聞いてくる。サリは泣き崩れている。

「明日、ローズを迎えに行く。しばらく一人にしてくれ」


 ローズが過ごした部屋に、一人にしてもらった。


 ローズの痕跡を探して部屋を歩いた。


 ローズ、この寝台の天蓋をいつも使わず、君は早起きだったね。

 ローズ、本を読むときは、姿勢よくこの書類机を使っていたね。

 ローズ、君が一人でお茶をするときは、このサイドテーブルを使っていたね。

 ローズ、君は食事やお菓子をあまり食べないから、みんな心配していたんだよ。


 私はクローゼットを開けた、なにも無い! 慌てて、中に入った。


 黒いドレスを着たトルソーが隠れるように佇むのを見つけた。

 あの日の記憶が蘇る。

 私が君への恋を自覚し、そこから愛が始まった。


 ローズ、この黒いドレスを着てまた食事をしようって約束したよね。


 ローズが外を眺めるときに座っていた場所に戻った。

 魔石に魔力をとおした。


 空中にスクリーンがあらわれ、映像が流れる。


 ────

 セス様

 筆頭魔術師就任おめでとうございます。

 この魔石が再生されているということは、セス様の記憶が解けたのですね。

 セス様、いくつも嘘をついてごめんなさい。

 もう私に囚われず幸せになってください。

 遠くから……セス様の活躍を心からお祈りしております。

 ────


 音声と共に映像が消えた。


 ローズ、何を言っているの……。

 なんで、笑っているの……。

 祈らなくていい、むしろ私はずっとローズに囚われていたい。


 記憶を操作されても、私の魂はローズを求めていたよ。

 私だけではない、屋敷中のものがローズを探していたよ。


 なぜ、陛下はこんなことをした。

 なにがあった、どうしてこうなった……。


 ローズ、君は陛下を求めたの?

 ローズ、君は私を求めてくれないの?

 ローズ、君は元気に過ごしているの?

 ローズ、吸入薬はまだ残っているの?


 その夜、私は一睡もできなかった。


 日の出を待たずに、ローズの無事だけを祈って、私は王宮に向かった。



 ※



 1月12日


 朝、吸入薬を使う、カウンター残8。


 華麗なる逃亡に失敗した直後から監視が増えた。

 うん、待遇の良い囚われの姫という感じだろうか?

 その上、昨夜の雷と風の音が凄かった。その割に喉は大丈夫だった。


 コンコンコンコン


「レディ・カグヤ、お目覚めですか? おはようございます」


 ミヤが寝室に入ってきた。


「本日のご予定ですが、変更がございます」

「はい」


 予定? 予定という予定があっただろうか?


 王宮の新館に隠れるように住み始めて約一週間。

 召喚魔導書消滅までは、歴史とマナーとダンスの勉強、クローゼットの片付け、本を読み、お茶を飲み、ハクに会いに行き、外を眺めていた。


 ハクの最期を知り喪失感に浸った、その翌日に逃亡に失敗した。

 ここで失敗すると思っていなかったから、かなり呆然自失かも……。


「陛下が、朝食をご一緒するとのことです」

「わかりました、失礼のない服をお願いします」


 今朝は新館サロンでいただくらしい。この新館は迎賓館として完成したばかりで落成式はこれからだ。


「ココ、待たせたか?」

「いえ……おはようございます」

「おはよう」



 王様の朝食を無事に終え、お茶が始まった。


「ココ、少し確認したい。もし、ラムセスの記憶が解けたら」

「…………」


 一昨日の私の逃亡の話ではなく……そこ?


「いつかは解ける」

「……はい」


「ラムセスが、ココを迎えに来たら?」

「たられば話はやめましょう」


「ココ、そのバングルの意味を知っているか?」

「……はい」

「そのバングルをはずさないのは何故だ?」

「それは……」


 それは、私とセスの唯一の繋がりのキラキラの思い出だから。


「セス様の記憶がほどけそうなのですか?」


 国王陛下の魔術はその程度なの? 

 でも無力の私が、そんなことを口にはできない。


「国王陛下、お願いがあります」

「ダメだ」

「まだ何も言っていません。

 セス様の記憶が解けないようにしてください」


 ……………バシッ……………ドォォーン……


 ん? 今、音というか振動が……?


「ラムセスが迎えに来たら、ココはどうする?」

「とりあえず、就任のお祝いの言葉を申し上げます」

「それから?」


 それから? と言われても……。


「ラムセスが、また一緒に暮らそうと言ったら?」

「それは無理です。

 私は自分の決断は正しかったと思っております。ですが、セス様の思いを知りながら、話し合いによる合意を得られずに、強硬な手段に出たことも認識しています」


「合わせる顔がない」ってこういう時にピッタリだ。


「ココ、だったら、なぜバングルを外さない」

「それは……」


 涙声になってしまった。


「ココ、その涙の訳は……?」

「それは……」


 ……………… ドッドォーン………バキッ…


 まだ、工事が終わっていないところがあるのかしら?

 音と振動が……がうるさい。


 国王陛下が側近を見に行かせた。


「ココ、ラムセスに会ってみてはどうだ?」

「それは無理です、私を知らないセス様に会ってどうするのですか?」


「ココ……。

 異国で盗難被害にあい、資金や身分を証する物を失ったココは強かった。『最後まで全てを諦めない』と覚悟を固めた鋭い眼光を覚えている」

「もう、あの時の私はいないのです。ここは違う時間軸です」


「今回、あれだけの計画を企て、時期を見計らって我々を味方につけた。ココのカリスマ性を目の当たりにして、私は幸せだった。

 私が憧れたココそのものだ……いやっそれ以上だった」


 えっ、憧れ? あんな無謀な提案だったのに……。


「そう感じるのは、おそらく刀剣君の力です」


 私にはもう勇猛果敢に進む力はない。

 その証拠に華麗なる逃亡は未遂に終わった。


「ココ、なぜバングルを外さない」

「きれい……だから……?」

「私が、新しいバングルを贈る、はずせ」

「あの時の、私の気持ちは本当で……キラキラの思い出は大事にしたいから……」


 ……バタッ……ドンドン……


「これで最後にする。もう一度聞く、ラムセスが一緒に暮らそうと言ったら?」

「……こぼれた水は戻りません。以前のように暮らすことは難しいかと……」


「私もココを大切に思っている、幸せに生きて欲しい」

「はい、感謝しております」

「感謝とかは今は不要だ、素直になってくれ。

 最後まで全てを諦めないでラムセスと向き合ってくれ」

「でも、だからといって……」


 バッキッ!!


 凄い音と衝撃がその場を支配した。


 私の後方の扉に凄い衝撃が……扉が破壊されて飛んだ?

 護衛がサーベルに手をかけた音が聞こえた、また襲撃?


 私は驚きのあまり、正面を向いて座ったまま肩に力が入って固まった。


 テーブルの上に置いた左手のバングルに静かに右手をそえた。カチっと鈍い音がして少し肩の力が抜けた、バングルを撫でながらブルーサファイアを眺めた。セスの色だ……。


 セスとの思い出が一気に蘇ってきた。走馬灯?

 襲撃された私は、夢を見ているのだろうか?


 戻れるものなら、戻りたい。

 セスの側に戻りたい。


 ローズと呼んでくれる人がいないことがこんなに辛いなんて……。


 セス色の石を眺めながら、涙がこぼれ続けた。

 視界がにじんでボヤボヤしている。


「ローズ」




いつもお読みいただき、ありがとうございます。

全107話で完結予定です。

もう少し続きます、よろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ