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本日2話投稿、2話目です。
―― 次の雪だ ――
細かい雪がチラチラと風に漂い舞っている。粉雪、綺麗だ!
風に翻弄される雪が、私の心みたい。
迷走するこの話し合いのよう。
それでも、この雪を綺麗だと思える私は……今は幸せなのね。
私の居場所が少しずつできているのかも、この世界に。
だから、ハクとも話せて適合もできそうで……希望の欠片を探して……。
『本当に失ってはいけないもの』って、自分らしさ? 自分で選択する事?
理屈でなく、直感を信じよう。
召喚を正しく終わらせる。
その後、セスは筆頭魔術師に就任する。
おまけとして、10倍以上の魔力を有したセスに、私の治療薬を作ってもらう。
――次に雪を見るとき、私はどうなっているのだろう――
次の雪も、次の次の雪も、私は見たい。できればセスと一緒に……。
それは叶わない、それでもいい……。
朝、瑞雲を見た、そしてこの雪に託そう。
今回の作戦成功を、きっと何もかも上手く進むと。
だから考えよう、あと上級ラナを二人分。
セス級の人がもう一人いれば……。
もっと身近に……セスのように高スペックで大容量の……。
マイニング? クリプトジャッキング!
ふと、そんな単語が浮かんだ。
「クリプトジャッキングよっ……セス様の魔力を使えないかしら? セス様には申し訳ないけど、セス様には知られないようにセス様にこの計画に協力してもらうというのは?」
「ココ!!」
「ローズ様!!」
国王陛下とランカスター卿が反応し立ち上がった。
私の頭の中に次々に考えが浮かぶ。
「セス様にフォード家の方達の記憶を消してもらうの、そうすればセス様も多少は消耗して、記憶操作をしやすくなるのでは?
どうやってセス様にフォード家の方達の記憶操作をさせるかを考える余地がありますが……」
自分で言っていながら、その発想の酷さに呆れた。
「ローズ様、その手がございました」
「ココ、あとは任せてくれ。そろそろラムセスが目覚める、ランカスター卿、別室で打合せよう」
「はっ、それがよろしいかと」
「ヒース、ココを頼む。詳細は後で伝える」
「はっ、かしこまりました」
えっ、何がどの程度解決したの?
そう思ってオロオロしているうちに、国王陛下とランカスター卿は去って行った。
また、白い部屋は静かになった。
「マイ・レディ、お茶になさいますか?」
「ヒース、上手くいくのかな?」
「おそらく」
では、私は次の下準備を。
「ヒース、以前お願いした隠れ家ってどうなっているの?」
「マイ・レディ。王都の治安の良い場所に、高級アパルトメントを一棟ほど手配致しました」
一棟って……騒音問題がないわね。
「生活に必要な最低限の物を入れておいてくれる」
本当は自分で選びたい、最小限の物を……。
「マイ・レディ、フォード卿の記憶が解けたらフォード邸に戻るのですよね? それまで王宮でお過ごしに……」
「ヒース、……それは難しいかな?」
「マイ・レディ。私はフォード卿の側を離れる事に反対です、就任の儀が終わり次第、陛下に記憶操作を解いてもらうべきです」
「そうよね……少し外を眺めてのんびり過ごします」
「かしこまりました」
この計画は私の手に負える範囲を超えた。多くの人の思いを巻き込んで、大きく動き出した。もう戻れない。
セス、全てを知った時、私を許せる?
私は私を許して就任後のセスに会えるのかな?
「ローズ、お茶にしよう」
ふと、気づくと優しい笑顔のセスがいた。
あれ、また、うたた寝をしていたの?
「ローズ……」
もう現実と夢と回想と未来図が入り混じって、なんだかわからない。
「ローズ、怖い夢を見たの?」
セスが、私の涙をその唇で拭った。
えっ、何? あっ、こんなに甘いのは……現実ね。夢のような現実。
今朝から心臓の近くの感情が泣いているの、苦しいって。
「ローズ、雪が降っているけど、喉は大丈夫?」
「はい、今日は大丈夫みたいです」
「ローズ、陛下から聞いたのだけど……」
えっ、国王陛下は何を話したの? ま、ま、まさか!?
というか……話せたの?
「王立劇場修繕のために寄付をする話だけど……」
ああ、なんだ……その話ね。あの劇場の場合、修繕より復元というか……?
「はい、文化芸術振興に寄与するというか少しでも貢献できれば」
「この国では匿名の寄付は受け付けない決まりがある、名前を公表するか寄付をやめるか、ローズの意向を確認させて欲しい」
えっ、匿名の寄付はダメなんて……。
「では、セス様の名前で」
「ローズ、それはできない。フォード家とエティエンヌ家の財務諸表がおかしくなる。それに、ローズが名前を公表すれば、他の貴族たちもこぞって寄付をし、王立劇場再建は早まることになるのだけど」
「セス様、公表することのデメリットはありますか?」
「デメリットねぇ……寄付を求めて色々な団体や人が近づいてくることかな? エティエンヌ家の再興と同時にそれは始まっているけどね」
いずこも同じね。
「ローズが、それらの団体と接触することはない。あくまでも未成年後見人である陛下に寄付を請願することになっている。ただ、先日のサザン公爵令息のように直訴する者がいないとは言い切れない」
今回は見舞金という種類のお金をロンダリングしたかった、そこに王立劇場の修繕費の不足を耳にした。それで寄付に繋がっただけだ。
「直訴……その時は、セス様かヒースが蹴散らしてくれますか?」
「くっくく、蹴散らすって……もちろんだよ」
「今回は寄付します、できるだけ目立たない形で公表してください」
「ヒース、聞いた通りに」
「かしこまりました」
私は、ヒースに寄付の意向を伝えた、ヒースは国王陛下に聞くといった、セスからそのレスがくる。
これって……情報共有が徹底していて、怖いょ~。
※
ローズは、何を泣いていたのだ?
夢の話・寄付の話にすり替えて様子をみたが、ローズの涙の理由はわからなかった。
「ローズ、お茶にしよう」
「はい」
「ローズ、近日中に屋敷に帰ろうと思う、私と一緒に戻ってくれる?」
「はい」
良かった。ローズが迷わず返事をくれた。
「ローズ、今日の王命治療だけど少しデータを取りたいから、以前のように医療用のベストを付けてもらえる?」
「はい」
ローズのこの「はい」が可愛い。ローズの返事は本当にわかりやすい。迷いのない「はい」に私の心の霧が晴れる。
「明日の午後にフォード邸に戻ろう。次は年明けの1月5日に王宮に年始の挨拶にこよう、そして王宮に一週間は滞在する、その間に就任の儀がある。
ローズも立ち会ってくれる」
「…………」
「ローズ? 立ち会ってくれる?」
「……はい、たぶん」
ローズは渋々だが返事をしてくれた。
お茶が終わり、ローズは窓の外の降り続く雪を見て、再び涙を流した。
私はあの日を思い出した、ローズがブランケットに隠れ、夜のガゼボで泣いたあの日を……。
「ローズ? 元いた世界に帰りたいの?」
「違います。降る雪は切なくて……心が痛くて……もののあはれ……ですね」
本心を隠したローズの哲学的な言葉に、私は返す言葉を持たなかった。
ローズの心を支配している虚無感が私にも共有できた。
私は、ローズを抱きかかえた。
「ローズ、雪に何かあるのか?」
「セス様と見ることができて……」
ローズは、その先の言葉を続けなかった。
私は、少しでもローズと身体が接するようにローズを抱え込んだ。
「ありがとうございます、セス様」
ローズの呟きが聞こえた。
私は不安と絶望と寂寥感に襲われた、ローズになにが……君はどれだけの孤独を知っているというのだ。
「旦那様、陛下がお呼びです」
「陛下に少し遅れると返事をしてくれ、今のローズを一人にはできない」
「フォード卿、私が付いています」
「ヒース、私がローズから離れる事が出来ないだけだ」
「かしこまりました、陛下にその旨を伝えてまいります」
君との共有はやはり切れない、君を一人で泣かせるわけにはいかない。




