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王宮に来て7日目、6回目の朝。
その朝、私は薄暗い時間に目が覚めた。
正確には眠れなかった。
窓を開け音のない静かな庭園を眺め続けた。
空は刻々と色を変え、虹色を映した雲が浮かんでいる。
良い兆しを示すといわれる瑞雲だろうか?
ここ数日、セスの治癒魔法を受けながら順番について考え続けた。
10通り20通り50通り……毎回、たどり着く解があった。
私が刀剣に触れて適合する。
セスが刀剣の力で召喚当初の願いを果たす。
そしてセスが筆頭魔術師に就任する。
本来の流れに帰結した。
やっと、結論が出た気がする、もう考えるのをやめよう。
ひたすら進もう。
私は吸入薬を使った、カウンター残25。
隣の部屋で物音がした、私がリビングを覗くとヒースがいた。
「マイ・レディ。おはようございます」
「ヒース、こんなに早朝から仕事なの? 少し労働条件を見直しましょうね」
「マイ・レディ。何か、気になる事でも?」
私は、静かに息を吐いて、覚悟を決めた。
……これしかない。
ハク、私に力を貸して、しっかりと話せますように!
「ヒース、国王陛下と内密に話しをしたいの、お願いできる?」
「フォード卿に知られたくないと?」
「そう、フォード公爵には内密に慎重にお願いします」
「かしこまりました」
ヒースは一度退室し、すぐ戻ってきた。
そして「この後、すぐ、陛下がこの部屋にいらっしゃいます」と告げた。
「ココ、話とは?」
「早朝にご対応いただき──」
「ココ、挨拶はそこまでで、ラムセスが目覚める前に話を」
「セス様の就任の儀が来年の1月10日は延期できないのですか?」
「決定事項だ」
「国王陛下、就任が先になることの弊害をご存知ですか?」
「前例がないだけで、弊害があるとは……」
そう、前例がない。それには意味がある。
ランカスター卿の時は、刀剣の力を執行してからの就任だった。
召喚に成功した、エリカ様は刀剣に触れ適合した、召喚当初の目的とは違ったが刀剣の力を執行した。
3ポイントだ。ランカスター卿は、従前の3倍の魔力を手にした。
今やろうとしていることは、適合せず、刀剣の力を執行しないままの就任だ。
召喚に成功した、私は適合していない、刀剣の力を執行できない。当然ボーナスポイントもない。
1ポイントだ。セスにとって、この状況下での就任は意味がない。
私は本来の順番を守らず就任する危険性を国王陛下に論じた。
ひたすら前例と仮定の話を続けた。
結局、ハクの事や具体的な召喚ルールを伝えることはできなかった。
国王陛下はこの漠然とした、私の話を信じてくれるだろうか?
「ココ、それは……」
「当初の目的を果たさず、適合もしない状態で就任を急いでも、セス様の魔力量の変化は見込めない。という残念な結果になる公算が大きいということです」
「だが、すでに就任の儀の日付は筆頭魔術師就任魔導書に刻んだ」
就任の書、本当にあるのね。
「国王陛下、そこで私から提案がございます」
「申してみよ」
「セス様が刀剣の力を召喚魔導書消滅のために執行し、筆頭魔術師に就任する。至ってシンプルな流れに戻しましょう。正しい形で召還を終わらせるのです」
私は、あえて「正しい」という言葉を使う。
「ココ、そんな事が可能なのか?」
「方法はあります。
その方法を話す前に、国王陛下から協力していただけるという言質が欲しいのです。正しい形で召喚と就任を終わらせる、という覚悟を示していただきたい」
異世界召喚に手を出すからには、国王陛下には険しい道のりでも正しい形で召喚と就任を完結させる青写真があったはず。
「ココ、話してくれ……全てはそれからだ」
たしかに……。
「セス様から私に関する記憶を消してください。そして、当初の目的通りに刀剣の力を執行し召喚魔導書を消滅し、就任の儀をお迎えください」
「ココ、そのためには適合が条件になるが、適合の詳細はまだ……」
「適合したら刀剣の力で私を治療する可能性があるから、私がそれを見合わせているとしたら?」
「ココ! まさか……」
「可能性の話です」
「わかった、仮にそうだとして……ラムセスの記憶をいじるのは私一人では無理だ。他のラナの協力が必要だ」
やはり国王陛下だけでは無理かぁ~。
「王命で複数のラナに協力要請してください」
国王陛下の視線が動く、具体的にラナを見繕っているはず。
「ココ、仮にラムセスの記憶操作が成功したとして、正しい形で就任したラムセスは魔力量が増え記憶操作を簡単に解いてしまうぞ」
「刀剣の力を正しく執行していただければ私の懸案は解決します」
就任後にセスの記憶操作が解けようと……召喚と就任は終わっている。
「ココ、ラムセスの記憶をどの時点でいじる? その間、ココはどうする?」
「私の考えたシナリオですが……。
例えば、今日セス様の記憶操作をします。
操作内容は、セス様の召喚直後の記憶を全て消すこと。
セス様には『召喚は成功したが、その直後に気を失い、今日まで眠り続けた』と説明します。
召喚した者は、その者の強い希望で旅に出たことにします」
国王陛下が頷いた、私は冷静に続ける。
「就任の儀までに、力を有した刀剣をセス様に渡し『即位の誓い・召喚の目的を果たせ』とセス様に命じてください。
この間、記憶操作が解けない事が重要です。
セス様が目覚めてから就任の儀までの間、療養と称して他者との接触をできる限り減らす必要があります。従って、記憶操作から就任の儀の間は短い方が良いかと。
そして共有ですが、記憶操作の直前に切りましょう」
「ココ、適合のタイミングを自由に選べるのか?」
「その時がきたら、国王陛下に召喚の間に連れて行っていただければ可能かと」
ハク、信じているからね。
何も知らなかった私が、召喚ルールを熟知してしまった。皮肉な話よね。
「この計画が進行中……当然の事ですが、私はセス様に会いません」
「ココ! もしラムセスの記憶が解けなかったら」
「それが最良です、記憶が解ける必要はないかと」
「ココ!!」
「正直なところ、セス様の記憶操作が解けた方が、リスクが大きいかと……その後の国王陛下とセス様の関係性を考えると……」
「ココ、少し話しを戻すが……ココの治療を優先するラムセスの意志と私の決定をどうしても受け入れられないか?」
そう、どうしても受け入れられない、信じられないのかもしれない。「根治治療法を確立したその時は刀剣を本来の目的で使う」という主旨の言葉を。
「私は召喚直後からセス様に看取って欲しいと考えていました。負傷して目覚めないセス様を見て考えが少し変わりました」
王立劇場襲撃事件、私はあんな流血を見たことがなかった。血の気を失い彫刻のように横たわるセスの姿は、私に臨終を連想させた。その時の恐怖が消えない。時間が経つとその思いは強くなった。
「私の看取りどうこうより、セス様の未来の不安材料が少ない方が良いと考えが変わりまた」
「ココ、だったらラムセスから離れる道を選ぶな。ラムセスはココを失う事を一番恐れている」
「だから、私に関する記憶を消していただくことを望みます」
「ココ、それではあまりにも……」
私がセスの弱点になりつつある、私の治療を優先した時点で、もうセスの判断力が狂い始めた。それを認めた国王陛下もそうだ、国王としての判断力が落ちていると思う。私の存在がこの国の不安材料になっているのでは?
「今回、国王陛下のお力で反体制過激派を掃討しても、第二・第三の反対勢力は出てきます。
今後も召喚魔導書の存在が、政争の具となる事は明らかです。
国家の安全を脅かす危険を取り除ける時に、躊躇なくそうすべきです。
強国を維持するために、筆頭魔術師の力をより大きいものにすべきです。
僭越ですが、それが国政の長がなすべきことでは?」
私が発言を終えると、長い沈黙が続いた。
本作をここまでお読みいただきありがとうございます。
100話を数話すぎたところで完結予定です。
もう少し続きます、これからもよろしくお願いします。




