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白い自室に戻った私は、悩みに悩んだ挙句、ハクに会いに行くことにした。
寝室にこもり、バングルをはずし、飴をなめた。
「ハク?」
『やぁ、ローズ。……随分と不安定だね?』
「ハク、どうしよう?」
『ローズが退席した後の、二人のラナの会話を再現してあげる』
ハクは音声を映像付きで再現してくれた。これって録画?
「喘息完治」にこだわり「共有継続」を願うセス、即位の誓いを二の次にして「セスと私の仲」を心配する国王陛下……。
なんだ、これは!! 自己犠牲に酔った無理矢理の自己満足は!!
「ハク再現映像をありがとう。私、余計、不安定になったかも……」
『ローズ、君の心はもうハッキリしているようだけど』
「えっ、そうなの? 教えて! 私、自分の事がわからないみたい。
あっ、少しだけどお菓子持って来たから食べて、はい。
飴をなめている間は、私が消えてもバレないのよね?」
『大丈夫だよ、飴を渡して良かった。毎晩、二人のラナがローズの寝台に強力な結界を張るからね……とてもじゃないけど会いに行けい……あんなの破れないよ』
えっ、そうなの?
「ハク、ポイントの集計の最終期限はいつ?」
『就任するその瞬間の直前だよ』
「刀剣執行時の願いはどうやって刀剣に伝えるの?」
『術式の展開者が心で願えば伝わる』
えっ、それって……セスの思い通りじゃない……。
『そうだよ、召喚に関わった術式の展開者が理不尽な強要をされないために』
過去に何かあったのね。
「刀剣がある召喚の間には、私はどうやったら行ける?」
『召喚に関わったラナかフォンテの王のどちらかと一緒なら行けるよ』
「その時、変なコスプレは必要?」
『ああ、あれね。その必要はない。皆、あの格好じゃないと召喚の間に入れなと思ってるみたいだけど』
よかった、あの白装束はもう着たくない、重すぎる。
「ハク、私が召喚の間に行ったら、刀剣に触れて適合できるよね?」
『いつでも大丈夫だよ、あのラナのためにポイントを上げるつもり?』
えっ、あっ……。
そうか、結局、私は少しでも召喚と就任を成功させようとしている。
『ローズ、よく考えてね、冷静にね、慎重にね。僕はローズの決定を支持するよ』
えっ、なに? どういうこと?
『ローズ、カードをきる順番って大事だよ』
含みがありすぎてよくわからない。
「ハク、今更だけど……召喚のルール・ポイント制について国王陛下とセスは知らないのよね?」
『知らないし、今後も教えない』
やはり……ルールを知らずに遊んでいるようなものだったのね。
だから、セスがあんなことを言い出し、国王陛下が承諾した。
いっそ、遊びだったらリセットボタンとかあったのに……。
『ローズ、これは遊びじゃない……。
召喚された者が不利にならないように長い時を経て成り立った理だから』
「例えば?」
『召喚された者を大事にするように適合と共有ができた』
「あとは?」
『ポイントの大小と幅かな……。今のラナは力が強い、あまり大きなポイントを与えると、その膨大な力を利用されかねない。今までも多くの筆頭魔術師が傷つき孤立することが多かった。万が一にも、この国の王と対立されては困る、召喚された者の未来が翻弄されかねない』
それは……かなり広いレンジ・長いスパンでの話では?
なんとなく国王陛下に有利に感じるけど……。
過去に筆頭魔術師内定者によって王が騙されたことがあったのかしら?
召喚により国王陛下やセスは、多くのことを試されているみたいだ。
約束履行の試練!
召喚の書・ハクが、認めた召喚当初の目的を果たす。
そこから逸れれば逸れるほど、ポイントは付かず、召喚・就任の意味が薄れる。
今回、セス個人の思いを優先して就任を先にしたところで、セスの魔力量は変わらない事が、それを物語っている。
それを私が悟ったところで、伝える術がないから不毛だ……不毛は嫌だよぉ~。
「先にセス様が就任した場合、ハクはどうなってしまうの?」
『ローズが適合して、刀剣の力を執行するまでは僕はいるよ』
そう、そうかぁ〜。それは良かった。
「適合しても刀剣を執行しなかったら?」
『ある程度様子をみて、目的召喚と判断して消えるよ』
そうだよね、いつまでもは無理か~。
「ねぇ~、私があの刀剣に触れずに1年が過ぎればハクは消えずに済むのよね?」
『ローズの消滅はない、僕が消える』
なに、それ?
召喚後に浮かんだ文字は嘘で、ハクが魔導書と一体化して元に戻ってしまうの?
『そうだよ』
ルールの一部に偽りがあるなんて……混乱してきた。
なんだか、脈絡なく聞きすぎた。
『ローズ、全ての物を失いたくない気持ちはわかるけど、本当に失ってはいけないものは?』
「今日のハクは、難しい事ばかり言うのね」
『なかなかローズが遊びに来てくれないから』
それって……私のせい?
「ハク、お菓子のリクエストはある?」
『今、二人のラナは不安定だから、ローズの部屋に行けるかかも』
「えっ、じゃあ来て、他のお菓子もあるし、私で良ければお茶を淹れるから」
美しい少年ハクに手を取られ、私は自分の白い部屋に戻ってきた。
リビングを覗くとヒースが止まっている。
「ハク、時間を止めたの?」
『そう、3人目のラナが集中力を欠いたから』
ふ〜ん、そうなのね。
リビングでハクにお茶を淹れ、お菓子を出した。
ハクは、お菓子を食べ始め、私の淹れた紅茶を飲みはじめた。
お菓子だけでなく、ハクとご飯を一緒にするには?
『ローズ、一人でご飯を食べようとしないで、ダメだからね』
「なぜ?」
『ローズは狙われているから一人になってはダメだよ、ラナから離れてはダメだ』
私が狙われているって、何の話だ?
「ハク、お菓子を食べてね。これから、お部屋のお菓子をいつでも取りにきてね」
『ローズの周囲のラナが強いから難しい……』
人見知りの私が、ハクとは話しやすい。
ハクは、本当に召喚された者のために存在してくれている。
猜疑心の強い私でも、ハクを疑うことができない。
『ローズ、ありがとう。君だけがはじめから僕を信じてくれた』
「ハク、私に憑依して、ハクが生きる道を考えて欲しい」
『ローズ、本当に失ってはいけないものは?』
えっ、それは大事なことなの?
『ローズ、ラナが気づいてしまいそう。またね』
えっ……ハク!
「マイ・レディ、いつ寝室からこちらに? お茶に致しますか?」
ハクが消えた次の瞬間、ヒースが心配そうに私の手を握って言った。
ひょぉ〜!! ……心臓に悪すぎる。
「えっ、ええ。お願いします」
リビングのセンターテーブルに広げたはずのお茶道具とお菓子は、元通り片付いていた。ハクとお茶をした痕跡がない。
あっ、でも、お菓子が減っている。ふふっ、ハクはお菓子が好きなのね。
そして、ヒースが菓子皿のお菓子の不自然な置き方をみて首をひねっている。
ふっ、と私は笑いながら「ごめんね、ヒース」と心の中で呟いた。
※
ローズと午後のお茶をするために、私はローズの部屋の前で立ち尽くしている。
立ち尽くして10分ぐらい経った頃、ローズの部屋の扉が開きヒースが菓子皿を持って出てきた。
「あっ、ヒース……」
「フォード卿、どうかなさいましたか?」
「ヒースこそ、その手の皿はどうした?」
「いえ、変な気配を感じたので念のため部屋から出そうかと」
私は、すぐに鑑定術を施した。怪しいものは検出されなかった。
「ヒース、これといって……」
「それなら良いのです、いずれにしても菓子を変えようかと」
「ヒースがそう思うならその方が良いだろう」
「ヒース、ローズの様子は?」
「マイ・レディは、静かに過しておられます。ただ、かなり不安定です」
「そうか……」
「フォード卿がいらしたので新しい菓子を取ってまいります。私が戻るまでマイ・レディをお願いします」
ヒースの精神安定術は特殊な能力だ、人の心に共感し不安を取り除く、下手をすれば相手に吸収され自我崩壊を起こす。それゆえ、ヒースは人と距離を置き、全てに興味を示さなくなっていた。
その、ヒースがローズのために菓子皿を取り替えようとしている。ヒースは強くなり優しくなった。
それに反して、私は成長できているのだろうか?
「ヒース、私はローズの側にいるから安心してくれ」




