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「それは、おめでとうございます」
「はい、ローズ様のおかげです」
「いぇ、私は何も……それで、エリカ様から離れてよろしいのですか?」
「はい、ローズ様の持病の話を致しましたところ『なんで帰ってきた、ローズ様の治療法を見つけるまで帰ってくるな』と追い出されまして……」
えっ、激しい。エリカ様は、強い!
「まぁ~そうでしたか、よろしくお願いします」
ランカスター卿が、明るくなった。きっと、良い結婚なのだろう。
「ローズ様、音結界を張りました。刀剣の声は聞こえましたか?」
「はい。ですが、それを陛下やセス様に話そうとすると、上手く言葉が続かなくて」
「エリカによると、そういうものらしいです。あくまでも召喚されたものを助けるだけのようです。ローズ様からであっても……他の二人の有利になるような情報は遮断されるようで……」
なに? その恨みがましいというか、ちょっと意地悪な感じは……。
うんうん、それで?
「ローズ様に有利になるときは、自然と話せると……。
ローズ様、そのバングルの意味はご存知ですか?」
「はい、刀剣君が教えてくれました」
「そうですか、エリカがそれも気にしておりました。不意打ちは許さない!と」
不意打ちかぁ~、確かにお菓子をポロッと落とすぐらいの衝撃はあった。
「エリカ様は、心強い姉のような存在ですね。あっ、先日いただいた刺繍を額装しました」
私が視線を動かすと、ランカスター卿も額装された刺繍に視線を合わせた。
「これは、また一段と……」
「額装したことでより刺繍が際立って、白い部屋に映えて私のお気に入りです」
「エリカも喜びます」
コンコンコン
「ローズ?」
「セス様、午後のお仕事は終わりましたか?」
「ローズとお茶を外で……これは、ランカスター卿!」
「フォード卿、先日は急に帰省してしまい失礼しました。
改めて本日から喘息発作予防と発作緩和の治癒術の確立、併せて吸入薬の複製について協力させていただくことになりました」
「ランカスター卿、是非お願いします」
そこからは、セスとランカスター卿の専門的な話が始まった。
話題についていけない私は、窓の外に昨日のスノーマンを探した。
私の部屋からは見えないようだ。
「ローズ、どうしたの?」
「セス様、昨日の雪と氷のオブジェ、ここからは見えませんね」
「ローズ、午後のお茶は外にしようか?」
「あっ、国王陛下が外に──」
「あっ、しまった」
国王陛下は、ものの見事に雪像を私の部屋から見下ろす庭に作り始めた。
ポコポコと雪が盛り上がり、様々なスノーマンになる。
「あれは、どういう魔法を?」
「水魔法を中心に風魔法と少量の火魔法を取り入れて……ローズが窓の外を見ないようにして庭園に連れ出すことが条件だった……」
「あっ、陛下がこちらを見ていらっしゃいます」
私は手を振った。国王陛下は少し驚きながらも手を振り返してくれた。
あの、スノーマンが夜な夜な踊ったりしたら、ホラーかしら?
夜、ライトアップされた庭園でキレキレのダンスをしてくれたら楽しいかも?
「ローズ?」
「遊び心があって、見ているだけで楽しいですね」
「ローズ気に入ってくれた?」
「はい、楽しいです。微笑ましいというか……ふふっ」
数分後に国王陛下が、私の部屋にいらっしゃった。
「ラムセスぅ~」
「陛下、申し訳ございません」
えっ、ランカスター卿の前で二人の仲良しアピールを始めるの?
「ココ、思い付くだけのスノーマンを並べたが?」
「はい、可愛い雪像ですね。あの子達は踊ったりしないのですか?」
「ココ……それは難しいな……」
ランカスター卿が、国王陛下に礼をとった。
「ランカスター卿も外でお茶を共に」
国王陛下のその一声でぞろぞろと庭園に動いた。
曇り空の午後、私はフードコートを着て白い庭園を歩いた。
ガゼボにたどり着くまで、雪像の前で何度も私の足は止まった。
ガゼボには、スノーマンにちなんだお菓子が用意されていた。
「まぁ〜、可愛い。平たいお菓子もあれば、立体的なスノーマンまで」
「ココ、食べられそうか?」
「はい、可愛くてもったいないけど美味しそうだから、いただきます」
紅茶紳士が淹れた紅茶が、皆に行き渡たった。
私は紅茶をいただき、スノーマンのクッキーを手に取った。美味しい。
「本当に仲がよろしいのですね」
「いやいや黒目黒髪の姫は人見知りが激しくてねぇ~、やっと少し警戒を解いてくれたところだ」
ランカスター卿の言葉に国王陛下が素早くそう答えた。
私は、次のお菓子に手を伸ばした。
「ローズ、そんなに急がなくてもあとで部屋にも届けるから……」
「だって、この子が食べてって……」
※
ローズにはお菓子の声が聞こえるのか?
たしかに盛り付けられた菓子は、今までになく愛らしい菓子だ。
陛下は、ローズに会って味覚が戻ったと言った。
私は、この白い景色でさえ色づいてみえる。
白色にもこんなに種類があったのか……。
我々は、目的のために異世界召喚という過ちを犯した。
ローズはその犠牲になった。
「あっ、これはアーモンドプードルを使った雪玉のよう、甘くてホロホロです」
ローズが、一つのお菓子に強い興味を示した。
ローズ、無理してない?
「ローズ、僕のも、どうぞ召し上がれ!」
「えっ、良いのですか? 後悔しますよ」
「ああ、よろこんで後悔するよ」
「全種類食べてから、いただきます」
「ココ、そんなに気に入ったのか?」
「はい、ビジュアルも可愛く、味も美味しく──」
ローズ、僕の決断を許して欲しい。
私に用意された王宮客間のバルコニーで陛下との朝連絡が始まった。
「陛下、お願いがあります」
「ココのことか?」
「はい、筆頭魔術師に早々に就任したいと考えます」
「どういうことだ? ラムセス、先日のココとの約束はどうなるのだ?」
「ローズは私の結婚の申し込みに対して『異世界召喚を正しく終わらせて、筆頭魔術師に就任してください。その時、セス様の気持ちが変わらず、もう一度同じ言葉をいただけたら……』と」
発言に責任を持つローズは、許してくれないだろう。
それでも私はローズを助けたい、
「ラムセス、ココとの約束をたがえて先に就任してどうする?」
「ローズは適合を気にしています。ですが、私は共有が切れてしまう適合を急ぐべきではないと考えます。就任により魔力量が増えれば、効率よく治癒術も展開できます」
「ラムセス、就任を先にしてココの病気が改善しなかった場合は、適合後の刀剣の力でココの治療をする気か?」
「はい」
「ラムセス!」
「ラムセス、何のために異世界召喚を……何のために……」
「陛下、我々は間違えたのです。そもそも異世界召喚を選んだことが間違いだったのです。前回の召喚の話を聞いてローズは『切ない』と涙を流しました」
「ラムセスが選ぼうとしている道は、前回の召喚と同じだ。余計に、ココは切ないと思うのでは?」
「ローズがそう感じるとしても、我々はローズを助けるべきでは……」
陛下が思案を巡らせている。
「召喚魔導書を消滅できれば、陛下はローズが喘息発作で命を落としても仕方がないと?」
「そんな事は考えてもいない、私は全てを諦めるなと、ココだって諦めていない」
「そうです、ローズは諦めていない……だからこそです。
いきなり召喚されて、どんな思いだったか……。
手持ちの薬の処方をどんな思いで変えたか……。
我々に助けを求めず、隠れて吸入薬を使って……私はローズを助けたい」
「ラムセス、この話はここまでだペンディングする」
「陛下、吸入薬が切れる前に、ローズが元気なうちにご決断ください」
※
私は、聞いてしまった。とんでもない話を……。




