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 ローズが眠りについた直後、陛下がおみえになった。

 陛下がローズの耳に音が届かないように結界を張った。


「ラムセス、ココはどうだ?」

「大丈夫です」

「夕刻、ココは幸せそうだったが、何があった?」

「私が、三度目の結婚の申し込みをしました。承諾を得ることはできず……」

「それは意外だ、てっきり……」


 承諾の言葉は得られなかったが、心の共有に改めて感謝した。

 それにしても、ローズの『どうしよう?』にはクラクラした。


「この召喚と筆頭魔術師就任が終わるまでは、ローズの中では進められない案件のようです」

「ココらしいな。そうか……」


「陛下、私はローズの心と病の共有が長く続けば良いと思います」

「ココは、気にしている。発作が落ち着くたびに謝っているではないか……」

「はい、それでも共有が続くことを望みます。ローズの喜怒哀楽が尊いのです」

「ラムセス、幸せそうだな」

「陛下も幸せそうですが」


「陛下、適合と喘息治療の研究を陛下と王宮医師・魔術師にお任せします、私は可能な限りローズの側にいる事を選択します」

「ラムセス、賢明な判断だ」


「陛下、研究の進捗状況を確認すること、喘息発作予防・緩和術式の確立に協力する事はお許しください」

「もちろんだ。

 ラムセスとココの体調が落ち着くまでは王宮に滞在してくれ、王宮にいる間ラムセスに頼みたい仕事がある。

 その後は1週間ずつココの滞在先を王宮とフォード邸と交互にするのはどうだろうか?」

「はい、陛下。そう致しましょう」


 私はローズを寝台に寝かせ、陛下は「ココ、良い夢を」と言い寝台回りの結界を施し、私達はローズの部屋を後にした。




 ※



 王宮で4回目の朝を迎えた。

 吸入薬を使う。

 カウンター残、27。


 私の本日の予定は、また安静らしい。


 朝の準備が終わり、サロンダイニングでの朝食が始まった。

 今朝は、また「王の朝食」スタイルに戻ってしまった。

 ワンプレート朝食はどちらへ? そもそも安静って?


 私が王宮に滞在する間、セスは半日ほど仕事をすることになったらしい。朝食後のお茶のあと陛下と共に政務室に消えた。正確には、陛下とその側近により連行された。


 セスの連行を見届けた後、私はヒースに手を取られ自室に戻った。


「ヒース、なぜ私だけ安静なの?」

「フォード卿の回復の速さがおかしいだけです」

「……そう」

「マイ・レディ、頭痛とかが無いようでしたらお時間をよろしいですか?」


 ヒースから、エティエンヌ家の財産目録・財務諸表等の説明をうけた。


 エティエンヌ家の収入源である、ホテル・フォンテーヌの事業規模の大きさに驚いた。未成年後見人がいて良かった。


 次に、私の自由に使える私口座の説明をうけた。召喚されたことに伴う賠償金、爵位授与に伴う支度金、私に怪我や不快な思いをさせたサザン公爵家とミランダ国からの見舞金が振り込まれた通帳を見せられた。

 通帳が懐かしい、それにしても凄い桁数だ。


「ヒース、サザン公爵家と隣国ミランダ王家の見舞金は全て匿名で王立劇場復興のために寄付したいのだけど、修繕費でも休業補償でもどんな形でもいいから……」

「陛下に確認し問題なければ、そう致します。マイ・レディ、何かご所望の物はございますか?」

「たぶん、セス様がお金を使わせてくれない気がするの……」

「……愚問でございました」


 これを使うとしたら、逃亡資金ぐらいかしら?

 でも、その隙は無いように思う。第一に私に逃亡する理由がない。


「ヒース、私がセス様と喧嘩して顔も見たくなくなって、一時的にでも家出とか逃亡ってできると思う?」

「どうでしょうか? 私には想像できない策を講じる必要があるかと……。

 フォード卿の周囲のために、喧嘩をしてもフォード卿から離れないでください」


 セスの周囲? そういえば……。


「ヒース、時々セス様から冷気を感じるのは私の気のせいかしら?」

「いいえ、冷徹魔術師ならではの冷気です、隣には冷酷王がおりますし」

「どう冷徹で冷酷なの?」

「氷魔法が得意というだけでなく、反逆者、裏切り者に容赦なく冷たいのです」


 問答無用で殺しちゃうのかな? 一罰百戒?

 しかも、自から「エイッ」とやってしまうの?


 うん、話題を変えよう。


「ヒースは、冷とは関係ない魔術師なの?」

「私は冷とは無縁かと、お二人のように死んだ方がマシだという仕打ちはせず、瞬時に終わらせます。私は温情派ですので、冷というより温ですかね?」


 ヒース、それは違う。


 白銀の執事が私に同意を求めて微笑んでいる、怖すぎっ。

 とりあえず頷いて、この話題は終わりにしよう。


「ヒース、私口座の残りで隠れ家というか私一人でも生活できる部屋を手配してもらえる?」

「マイ・レディ。隠れ家の手配ですか、理由をお伺いしても」


 本能的に逃げ場を確保したい。貴方達……怖すぎる。


「なんとなく先々、何が起こるか分からないから。政変・自然災害とか?

 私の生まれた国では、平和な時こそリスクヘッジして有事に備えるの、国民は最低でも家を三カ所に分けるのよ」


 まったくの、嘘だけど……。


「使わなかったら、人に貸せるし」

「かしこまりました。ですがいかなる時もフォード卿からは離れないでください」

「……はい、肝に銘じます」



「一緒にいると約束した」と言って離れないセス。それって、街に出た時に迷子にならないようにという意味だったはずだけど……。

 現実、セスから離れるのは……私には不可能だ。


 昨夕のセスの熱い言葉を思い出した。


 今以上にセスは私をどうしたいのだろう? 


 ハクの言う『幸せになる勇気』かぁ~。


 いつも触れられる距離で、何かあると抱きしめられて、すでに同居していて……。


 親が私の名を呼んだ回数以上に、セスは私の名を呼んだ。

 それも、優しさを込めて「ローズ」と呼んでくれる。

 昨日の言葉で私はフワフワと浮かれた。

 今も思い返すだけで、私は幸せを感じる。もう、これ以上は怖いよ……。




 昼食時、セスは仕事から戻ってきた。

 当たり前のようにサロンダイニングで一緒に昼食を取る。


「ローズ、午後も仕事で君と過ごせないみたいで……」

「セス様、昨日まで安静だったのに大丈夫ですか?」

「ローズ、心配してくれるの……だったら、私の膝の上で食事をして欲しい」

「それは、ダメです」

「それは残念だな、だったらローズの食後の歯磨きと髪を僕に任せて欲しい」

「それも、ダメです」

「ローズ、僕は昨日まで安静だったのに……」


 セスの回復具合は、セスの残念具合の増加で私にも把握できた。

 セスは全快だ、間違いない! 良かった。


 キラキラの笑顔のセスと目があった。破壊力が増している。


「すっかり、いつものセス様で安心しました、お食事をいただきましょう」

「ローズ、食事の時間は長めに貰った。ゆっくり昼食を楽しもう」

「はい、セス様」



 そして昼食・お茶の後、私は引き続き自室で安静らしい。

 安静といっても、自室で過ごせば良いらしい。

 これって、軟禁されている? いえ、本望です! のんびり過ごそう。


「マイ・レディ。ランカスター卿がお見えですが……」

「えっ、はい、お通ししてください」


「ローズ様、先日は私の話を聞いていただき、ありがとうございました」

「ランカスター卿、あの日に辺境にお戻りになったのでは?」

「戻りました、エリカと話しました。正確には、ローズ様との会話の内容を話しました。エリカは笑ったのです『今回召喚された方は、強い方なのね』と」


 ハクにも言われたような? 強くないよ、負けないようにしているだけで……。


「エリカが長年悩んでいたモヤモヤを全部ローズ様が代弁なさってくれたようです。エリカは、私に『拉致した責任をとって私を幸せにして』と言い出しまして、私は結婚を申し込みました」


 えっ、結婚してなかったの? で、その笑顔は結婚するのね。

 えっとぉ~、これから聞かされるのは、惚気話なのかな?



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