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「ローズ、リゾットの他に好きなライス料理は?」

「本当のパエリアかな?」

「本当のパエリアとは?」

「私の国で一般的とされるパエリアはお焦げこそ美味しいという風潮で、どのお店もやたら焦がして硬くて苦い味しかしなくて……。

 パエリアの国に行って期待せずに食べたパエージャは魚介類だけでなくお肉が豊富に使われ、水分多めのふっくらとした仕上がりが主流で、私好みで感激したのを覚えています……こんな説明で伝わりますか?」

「ははっ、わかった気がする。ローズは、水分が多いやわらかいライス料理が好きということかな?」

「はい、たぶん、そういうこと……なの……かな?」


 ローズが首を傾げた。なんて可愛いのだろう。


 確かに、ローズは固いものを好まない、苦いものも嫌がる。ビールを苦くて飲めないと言ったのには驚いた、でもコーヒーには砂糖もミルクも入れない。これはランスに相談するしかない。


「次は、ローズ好みのパエリアをランスに研究してもらおう」

「はい、是非。楽しみです」


 また一つ、君の好きなものがわかった。



 夜のお茶の時間、ローズに軽い咳が出始めた。


 カシャ カチッ スッ


 ローズは瞬時に吸入薬を使った。

 吸入薬の残回数を示すカウンターは、30という数字を刻んだ。

 喉の違和感を共有する間もない、ローズの素早い行動に驚いた。

 私に治癒魔法を使わせたくないのだろうか……。


「ローズ……」

「セス様、きっと嵐が来ますよ」


 私がローズの背中をさすろうとすると、ローズは離れようとする。

 治癒魔法を警戒されているのか?


「ローズ、治癒魔法は使わないから、背中をさするだけだから……」


 そう言うとローズは安心したのか、目を閉じて静かに座っていた。

 少しすると吸入薬の効果なのか呼吸が落ち着き、ローズは眠り始めた。

 私は、ローズ抱え込んだ……こんなに肩は小さく、首も腰も細い。

 ローズを抱えている私は、ローズの寝息を聞きながらうとうとし始めていた。


 私が息苦しさを感じ目覚めると同時に、ローズの寝室からサリとミヤの慌てる声が聞こえた。私の腕の中にローズの姿はなかった。

 掛けられていたブランケットをはねのけ、私はローズの寝室に飛び込んだ。


「ローズは? ……ごほっ……ごほっ……」

「旦那様、お嬢様が……」


「ひゅー……ぜーぜー……ひゅーひゅー……ぜーぜーひゅーひゅー」


 パジャマ姿のローズが喉を鳴らし肩で息をし苦しむ様子が目に飛び込んできた。

 ローズは寝台に座り涙を流し吸入薬を握りしめている。


 ローズは吸入薬を使おうとするが、震えるその手から吸入薬が落ちてしまう。


「ローズ、ごほっ……」


 私はローズの手に吸入薬を握らせようとした。ローズの手は冷たい、もう吸入薬を持てないだろう、仮に持てたとしても吸入のタイミングを合わせられない。唇は紫色だ、もうローズの意識は曖昧だろう。


 私の手にも痺れが出始めた。

 急がないと……私の感覚があるうちに。


「ローズ、すぐに治癒魔法を……できるだけ動かないでね」


 ローズの返事を待たずに、私は治癒魔法をローズに施した。

 長くもどかしい……10秒だった。


「ぜーぜー……ひゅー……ぜーぜー……セス……ひゅーひゅー……」

「ローズ、今は話さないで」

「ぜーぜー……あり……が──」

「わかったよ、ローズ。わかったから……」


 私は、ローズの背中をさすり続けた。

 ローズの喉が、ゼイゼイと音を発し続けている。

 私の喉も詰まって息苦しいままだ。


 陛下のお越しをヒースが告げた。


「ラムセス、治癒魔法をかけたか?」

「はい、10分程前に。ですが今回の発作は、私の治癒魔法では……」

「そうか……」


 ローズの喘鳴だけが部屋に響く。


 カシャ カチッ  スッ


 その時、ローズが吸入薬を使った。


 サリが水の入ったグラスを差し出すが、ローズはぼんやりとしている。大丈夫だろうか?

 ローズの喉のゼイゼイは治まらない……もう一度、治癒魔法を……。


「ココ、もう一度、ラムセスの治癒魔法を受けてくれ」

「ひゅーひゅー……20……ぜーぜー……分……ひゅーひゅーぜーぜー」

「ココ、なんだ? 20分様子をみてからか?」


 ローズが頷いた。


「ラムセス、ココの呼吸が再び悪化するようならば、20分待たずに治癒魔法を使え! あと、今のうちに回復術を受けてくれて」


 私は頷き回復術を受けた。


 治まってくれ、それか早く20分経ってローズに次の治癒魔法を……祈る思いで時が過ぎるのを待った。


 数分が経ち、ヒースがローズの手を取った。


「大丈夫です、マイ・レディは落ち着いてきました」


 私はローズをブランケットでくるみ抱きかかえ、ローズの口腔内にそっと洗浄術をかけた。


 20分経った頃には、ローズの喉のゼイゼイが途切れはじめた。


「陛下、おそらくローズは落ち着くかと」

「そうか、ラムセス、そうか……ああ、良かった……良かった……」

「ローズは『嵐が来る』と、天候・気圧の変化が主な発作原因かと」

「ラムセス、もう少し私もここにいよう」


 ローズはぐったりと身体を私に預けぼんやりしていた。やがて眠りに落ちた。

 私はローズの寝息を耳にして、今夜はもう大丈夫だろうと思った。その時、強い緊張と恐怖から解放された。


「陛下、微かに喉の音が残っておりますが、おそらく大丈夫かと……」


 陛下は頷き「後を頼む」と言い残し、ローズの部屋を後にした。



 明け方、ローズは軽い咳をし、目を覚ました。

 私の腕の中でローズはパチパチと瞬きをした。


「セス、さま……? 手と足……ある? 感覚……?」

「もちろん、なんの問題もないよ。ローズ寝台で横になって眠れそう?」

「うん……ねるぅ……」


 ローズは少し微笑んでまた眠りについた。


 今のは何だ! なんて可愛い、寝ぼけ気味のふにゃふにゃのローズだ。


 あ~、可愛い、愛おしい。

 あ~、私はローズを舐めまわしたい。喜んで変態のそしりを受けよう。

 しかし、ローズにだけは嫌われたくない。あ~~!!


 私の理性が保たれているうちに、ローズを寝台に寝かせた。


「ローズ、おやすみ」


 ローズが目覚めるまで誰もローズの眠りを妨げないように、私は何重にも寝台周囲に結界を張り、サリに後を頼みローズの部屋を後にした。


 私は自分の部屋に戻り、ふにゃふにゃのローズを何度も思い出し、ニヤニヤしているうちに深い眠りについていた。



 ※



 寝返りを打つと背中が筋肉痛だ、全身がだるい……?

 えっと、酷い喘息発作で……? セスの腕の中で眠って……?

 あっ、セスにお礼をまだ言えてなかった!


 私は飛び起きた。


「あれ、セス様は?」


「レディ・カグヤ、お目覚めですか?」

「お嬢様? 旦那様は明け方にお部屋に戻られました。お呼びしますか?」

「あっ、呼ばなくて大丈夫です。サリ、ミヤ、おはようございます」

「「おはようございます」」


「お嬢様、お加減は?」

「私は、大丈夫です。二人とも付いていてくれたの?」


 サリとミヤの話によると、交代でみていてくれたらしい。二人には代休を取って欲しい。


 王宮に来て4日目、3回目の朝。

 吸入薬を使う、カウンター残28。


 急に吸入薬が減ったなぁ~、昨日は4回も使ってしまった。

 身体が重いのは、吸入薬の使いすぎかな?


「お嬢様、外は銀世界ですよ」


 雪が降ったのね、だから……あんなに苦しかったのね。雪が降るところを見たかった。


 コンコンコン


「ローズ?」

「おはようございます、セス様」

「ローズ、おはよう」

「今朝の喉と体調は?」

「色々とありがとうございました、昨日はご心配をおかけしました」

「ローズ、体調をおしえて?」


 セスが少し困った笑顔で優しく言い直した。


「はい、喉と体調は、もう大丈夫です」


 私の答えを聞くと、セスが嬉しそうに目を細めた。

 私は、優しいセスに再び会えて嬉しかった。


「ローズ、甘い紅茶を持ってきたよ」


 セスは当たり前のように私を抱きかかえベッドの端に座った。


 私は改めてセスの腕を触った。


「ローズ?」

「セス様の腕、本当にもう大丈夫ですか? 神経も? 痛くない?」

「こんな時でも君は僕の怪我の事を……怪我はとっくに大丈夫だよ」


「セス様、いつもありがとうございます」

「何を気にしているの? 大丈夫だよ、ローズ」


 そう言うと、セスは私を優しく抱き締めた。



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