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国王陛下とセスと私の三人で朝食を取ることになった。
私が王宮にいる時は、国王陛下と朝食を共にすることになった、らしい。
朝食後のお茶での話題は、私の喘息についてだった。重いなぁ~。
「ココ、昨夜のように自ら吸入薬を使えない酷い発作はよくあるのか?」
「はい、以前はよくありました」
「そういう時はどうやって喘息発作をしのいだのだ?」
「当時は、発作治療薬として噴霧式の吸入薬を使っていました。口を開けて押せば薬剤がシュッと噴射されます。あとは救急車を呼ぶとか……」
救急車の説明を求められた。フォンテ国には無い制度だった。
「ローズ、ここ数年は治まっていた理由は?」
「おそらく、数年前に吸入薬を入れ替えたからかと。長期管理薬兼発作治療薬としてこの吸入薬。長期管理薬としてもう一つの吸入薬を使っていました。あと、抗アレルギー剤を常用していました」
二人の表情が強張った。
「ココ、その薬は持っていないのか?」
「はい、携帯していませんでした」
災害時に備え、家と職場に万全の備蓄があった……。
でも、異世界に召喚される不測の事態に対応するのは無理でした!
あっ、そういえば……頓服の経口ステロイド錠剤。言わないでおこう……仮に複製できたとして、あれを自分で服薬管理するのは私には到底無理だ。それに、バッグに一年以上入れっぱなしの錠剤は、もう使用期限が切れて役に立たないから、捨てなきゃ。
「召喚後に15歳と説明され、吸入薬の処方を大人から小児量に変えました。素人の私のその処方では喘息コントロールが上手くできていないのかもしません。
朝夕各1吸入が良かったのかもしれません。でも私の場合、吸入回数を増やしたところで昨夜のような天候による発作は避けられないかと……」
私は、話すのをやめた。
なんか、二人はもう聞いていないようだ……。それに……私の言っていることは、言い訳がましく仮定の話ばかりで虚しくなってきた。
吸入薬の残が30回を切った、このまま発作が無いと仮定する。1日1吸入で30日弱、1日2吸入だと15日弱、どちらも大差ないように感じる。
開封した吸入薬は使用期限が意外と短い、使いきるべきだ。
昨夜は久しぶりに何度も息が止まった、あら? 久しぶりにダメかもって……いっそ、早く楽にしてと願った。
成人して発作に慣れた私は、発作が治まってしまうと、あんなに苦しく感じたのは気のせいかな? と気が大きくなる。慣れって良くないなぁ~。まぁ、そう思い込まないと、発作の恐怖を消して日常に戻れなくなる。どの病気にも共通することだろう。
昨夜、あんな発作を起こしておきながら……。吸入薬が無くなった後、しばらく? いや、年単位で何とかなりそうな気もしてくる……。
そういえば、「その根拠の無い自信はどこから来るのですか?」と何かにつけて主治医に呆れられたなぁ~。自覚の足りない私に、根気強く喘息発作予防治療の重要性を説明してくれたなぁ、長期管理薬である二つの吸入薬を規則正しく使え! 発作初期に速やかに発作治療薬でもあるこの吸入薬を使え! と懇願されたな。優しい主治医だったなぁ。
……あっ、回想に耽ってしまった。そして、空気が重い、話題を切ろう。
「あのぉ、過去の喘息症状が安定しない時期と比べて、今の私の喘息は落ち着いています。日に何度も発作止めを使い、使用上限回数を超えたことも数知れず。何日も発作で眠れない状態で通学や出勤を続けたこともありました。
こちらの世界に来てからは、日頃から綺麗な空気を用意していただいて感謝しております、その効果もあり落ち着くと思います。だから……この話しは……もう終わりに……」
あっ、セスが俯いて震え始めた。
私の説明で不快になった? 病気自慢のつもりはなかった。
……もしかして泣いている? 私の病気で感情を使わないで欲しい。
「ココ、王命だ1日1回ラムセスの喘息発作予防の治癒魔法を受けるように」
えっ……。
「ラムセス、頼んだぞ! 王命治療と定めよう」
「はい!もちろんです。陛下、ありがとうございます」
「ココ、朝は吸入薬を使い夜に王命治療にするか? その逆が良いか?」
えっ……話が進む……。
「陛下、私は夜に行います、ローズが寝付くまで側にいたいので」
「そうか、わかった。ラムセス、1日1回は回復術を受けろ」
「ははっ」
患者不在で、話を進めなでぇ〜。展開が早くて口をはさめない。
「ココ、発作時はまず喘息発作緩和の治療魔法を受けてくれ、それで効果がないときに吸入薬を用いてくれ」
「それだと、セス様の負担が……」
やっと、展開の早さに追い付いたよね、私。
「ローズ、私以外にも治療魔法が使えるように喘息発作予防・緩和術式を確立させる予定だから」
「ココ、良いか、必ず解決できる方法を探す。ココだけが、喘息治療を頑張る必要はない。我々も考える。ココ、喘息情報の提供を頼む」
えっ、もう情報は無いです。
私、医者ではないし、自分の病気をネットで調べ医師に確認する熱心な患者でもない。症状緩和だけを求めて高価な新薬に次々に手を出しただけで……。
そういえば、超高価な生物学的製剤治療だけは躊躇したなあ〜。主治医は乗り気だったけど、採血で私の喘息は治療効果が望めないタイプと判明して医師は落胆していたなぁ〜。
元の世界では、次々に新しい喘息治療法が確立されていた。
この国では魔法による喘息治療ができつつある。さすが異世界!
セスの魔法は効果がある、長期的なことになるし、費用を負担したい。
「あの、長期治療になります、治癒魔法の対価をご請求いただきたいのですが?」
「陛下、今この辺の空気が何かと共振したような……あれ?」
「そうだ、ラムセス。治験者としてココへの報酬についての話が──」
「そうでした陛下──」
にわかに二人は違う方向に話を展開させた。無視されたぁ!? ムッ!
私は目の前のお菓子を眺め始めた。マドレーヌ等の焼き菓子が並んでいる。どれも美味しそうで、いつもよりかなり小振りで焼き色も良く、可愛く並んでいた。
いつもは……メロンパンのような大きさのマドレーヌ、厚切りトーストと間違うほどの巨大フィナンシェだった。
今日は普通サイズだ、ああ〜これが焼き菓子よね。癒される~。
ハクはどんなお菓子が好きなのかな? 私の視線に気づき、給仕が動いた。私は全種類のお菓子を1つずつお皿に取ってもらい食べ始めた。美味しい〜、バターが違う。
ふと視線を感じ、何気なく顔を上げた。ジッとこちらを見ている、セスと目があった。あれ? 私を置き去りにした国王陛下とのお話はもうよろしいのかしら?
「今日のお菓子はローズの好きなものが多かったのかな?」
「はい、今日のお菓子は小ぶりで可愛く感じて」
「ココ、先ほど食べたレーズンサンドはどうだった?」
「クリームがフレッシュで、レーズンはラム酒の豊潤な香りが美味しかったです」
国王陛下は、レーズンサンドがお好きなのですか?」
「ああ、そうだ」
「セス様は?」
「私はフィナンシェかな」
控えていたパティシエが笑顔になった。
私はパティシエに向かって尋ねた。
「小さなマドレーヌ型やフィナンシェ型があったのですね?」
「フォード家料理長からアドバイスをいただいて、今回特別に用意致しました」
「ほう、どのようなアドバイスだ?」
陛下がパティシエに尋ね、パティシエは表情と姿勢を正した。
「エティエンヌ公爵は、最初の一口はもちろん最後の一口までが美味しくないと、次にそれを召し上がろうとしない。特にお菓子は、見た目でアピールしないと手に取っていただけないと」
えっ、酷くない? 私、そんな傍若無人というか……お子様扱いされているの?
でも、まあ、ランスの言う通りなのだけど……。
「ほう、それで……」
「厨房パティシエ部は、エティエンヌ公爵は少食、また薄味好きとの情報を掴み、素材の味を生かし甘さを控えミニ化を検討しました。
大きさ焼き色はフォード家料理長からの助言を参考に致しました」
凄い! カスタマーサービス精神というか、ホスピタリティというか……。
「……くっ……くくっくくっ……」
セスの忍び笑いが聞こえてきた。
「ローズ、もう歯磨き……とか言わず、お菓子を食べようね」
「ラムセス、なんだ?」
「ローズは、お菓子好きです。表向きは食事をしっかり取りたいという理由でお菓子を遠慮するのですが、本当は歯磨きが──」
「セス様!」
セスは口を閉じた、少し遅かった。
「ココ、歯磨きをしたくないから菓子を遠慮すと言ったのか?」
「……いいえっ、言っていません」
セスは、ただ肩を震わしている。
「ローズ、一人でお菓子の絵を描くのではなく、お菓子は味わうものだからね」
なんで……知っているの?




