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セスの一回の治癒魔法で私の喘息発作は小康状態を保った。
「セス様、ありがとうございました」
「ローズ、治癒魔法を受けてくれてありがとう、私の方こそ感謝している」
「ごめんなさい」
セスに気を遣わせてしまった、過去の自分の言動を謝らずにはいられなかった。
「ローズ、謝る必要はないんだよ。もう少ししたら食事にしよう」
遅くなった昼食を終え、セスに睡眠術が施された。ラナがラナに術を施すには、どちらかが弱っている必要があるらしい。セスはすぐにスヤスヤと眠りについたそうだ。
やはり、あの治療は負荷が大きいのね、どうしたものか……。
そうだ、ハク! ハクと話したい。
まず、お菓子を食べれば会える、というのが本当なのか確認したい。
急に消えても騒ぎにならないように、人目の少ない寝室で試みることにした。
昨夜、まとめた質問を思い出す。
なぜかこの寝室にも常時お菓子の用意がある。
私は手のひらに広げたハンカチに、お菓子をいくつか取った。
サクッ モグモグ
「ハク?」
あっ、バングル。私は、バングルをはずしサイドテーブルに置いた。
サクッ モグモグ
「ハク?」
『ローズ』
「あ~、成功した!」
綺麗な少年ハクが、渓谷の中で私の手を引いて歩く。おお~、景色は世界自然遺産のよう。
突然、ハクの城に着いた。
「ハク、お菓子を持ってきたの、食べる?」
『ローズ、今のうちに僕もお菓子を渡しておくね。この飴をなめればすぐ僕の城まで来られるからね、その時もバングルをはずしてね』
私とハクは、お菓子を交換した。
『ローズ体調は?』
「持ち直したみたい、少し怪しいけど……」
『ローズ、聞きたいことは?』
「ハク、どうして異世界召喚と筆頭魔術師就任はセットなの?
適合後の刀剣が有する力と就任後の魔力量の増加は並列した別物なの? 異世界召喚に成功したことを就任の書はどうやって知り得るの?」
そう、この二つの相関・相互関係がよくわからない。
適合後の力を有した刀剣でしか、召喚魔導書は消滅できない。
そんなに大変なことなら……先に就任して魔力量を上げて、力を有した刀剣を使った方が、確実に願いが叶うのでは? 前回のランカスター卿のとき、そうすれば2人を助けられたのでは?
でも……就任は、召喚の目的を果たした後だと国王陛下は言った。
ランカスター卿の時もそうだった。
『ローズは、それをずっと考えていたの?
昔、召喚の書と就任の書との間でルールを決めた。召喚に関わった者が幸せになれるように、ルール改正は続いている。
ここ200年は、ポイント制にした。最新のルールを説明するよ。
目的召喚ルール
刀剣が欲しい、筆頭魔術師に就任したい等、召喚自体が目的の場合は……。
召喚に成功すること 1ポイント
召喚された者が適合すること 1ポイント
そのポイントを足し合わせ合計ポイントとする。
就任時、内定者が保有する魔力に合計ポイントを乗じた量まで魔力を付与する。
手段召喚ルール
刀剣の力で何かを叶える目的のため、召喚が手段に過ぎない場合は……。
召喚に成功すること 1ポイント
召喚された者が適合すること 1ポイント
刀剣の力を執行すること 1ポイント
その執行内容が召喚当初の目的と同一だったとき、追加で10~20ポイント
そのポイントを足し合わせ合計ポイントとする。
就任時、内定者が保有する魔力に合計ポイントを乗じた量まで魔力を付与する。
ポイント集計担当は僕だ、僕と就任の書は情報を共有している。
ちなみに適合後の刀剣が有する力は、ポイントで表せないほど大きい」
そう、そういうルールなのね……。ポイント制ねぇ~分かりやすいけど、異世界感が減ったような。わりと現実的ね。
召喚の書と就任の書は、間違いなく仲良しだわ。
「先に就任して、刀剣の力を使うことはできるの?」
『適合した刀剣の力は、就任後も有効だよ。ただ、ポイント取得が反映するのが就任までだよ』
前回は、合計3ポイントだった。ということ……。
今の状態でセスが就任したら、合計1ポイントで魔力量に変化なしかぁ~。
順番と召喚当初の目的を果たす事が大事なのね。
「ねぇハク、ハクが消滅したら、筆頭魔術師の選定方法はどうなるの?」
『就任の書が考えることだから……』
そうだけど、単に好奇心で知りたい。
『ローズ、そろそろ帰った方が良いかも』
「えっ……来たばかりよ」
『ローズ、急いで』
ハクに手を引っ張られ、私は椅子から立った。
ハクは私を城の外に連れ出した。来た道と全然ちがう景色を見ながら歩いた。
『ローズ、またね』
人懐っこい笑顔で、ハクが手を振る。
私は、貰ったお菓子を確認する。
「ハク、今日は貴重な話をありがとう」
そう言って、瞬きした瞬間、見慣れた寝室にいた。
手にはハクのから貰った小瓶があった。
私は窓に小瓶をかざした、空模様に反して飴がキラキラしている。
あっ、セスの治癒魔法の是非について聞きたかったのに、忘れた……。
※
ローズのお願いにより、私は陛下によって眠らされてから随分たって目が覚めた。
「旦那様、お目覚めですか?」
「ヨハン、私はどれぐらい寝ていた?」
「三時間ほどです。お嬢様はお部屋で静かに過ごしておいでです」
私は、そんなに長く眠っていたのか?
「陛下がお見えです」とヨハンが告げた。
「ラムセス、少しは回復したようだな、ココは静かに過ごしているようだ」
「陛下、私をローズの専属魔術師にしていただけないでしょうか?」
「ラムセス! 何を言い出すのだ、筆頭魔術師内定者が誰かの専属など……」
「ローズの吸入薬の複製が進まないのならば、私をローズの専属に……」
「ラムセス、それをココが望むと思うか?」
午前中、ローズは私の治癒魔法を拒否した。
王命による私の治癒魔法は効いたはずだ、だがローズは効果を明確に口にしなかった。
「王命ならば、ローズは従います」
「ラムセス、研究は進んでいる。王宮の医師と魔術師が『咳を止めるのではなく、喉の炎症を取ることが有効』と指針を示した。先ほどの治癒魔法でその効果を確認したではないか、少しずつ成果を上げている。焦るな」
「自惚れではなく、あの治癒魔法は難しいものです。心臓と肺が近いため干渉しない様に高度な魔術を要します」
「ああ、今はラムセスしかできない。これからは、私もヒースも王宮魔術師も習得に努める」
服越しでもローズに触れないで欲しい、私は顔をしかめた。
「ラムセス、独占欲からココの治療の範囲を狭めるな」
「いっいえ、決してそのような事は……」
私の気持ちを陛下に見透かされた。そうだローズに治療を施せるものを増やさなくては、一刻も早く正確な喘息発作予防と喘息発作緩和の術式を確立して、まず私が極めなくては……。
「ラムセス、冷静になれ、まずは自身の身体をいとえ」
「陛下、ありがとうございます」
「ラムセス、抱え込むな」
「はい、肝に銘じます」
陛下は、執務室に戻った。陛下はかなりの激務だ、ほとんど寝ていないだろう。ローズはその点にも気づいていた。
ローズ、君はどうしてそんな状態で周囲にばかり気を使うの?
召喚によってローズばかりが失い続けるのは何故だ?
陛下の許しを得られずとも、君が拒絶しようとも……。
私は適合後の刀剣の力で君を救いたい。
「ローズ、夕事にしよう」
「はい、セス様」
「今日は、口当たりの良いものをお願いした」
ローズは、前菜・スープと順序良く食べた。
「セス様これは?」
「ランスの力作だ、南の方の料理でリゾットというらしい」
「リゾット! 私、これ好きです。豪華なリゾットですね、添えられているのはフォアグラのソテーですか?」
ローズは嬉しそうに口に運び始めた、ローズの食が進んでいる。さすがランスだ。
ローズの国の主食はライスと陛下が言っていた、これからはこういった料理にした方が良いのだろうか?




