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 サリによる足エステが始まった。

 ああ~、至福の時間だ。

 うんうん、ゴロゴロ以上かも、喉の違和感も消えそう。


 この後、天候が崩れるのかな? 喉がうすら痒い。


 それにしても、足エステ! 気持ち良い~。


「サリ、いつもありがとうございます」

「お嬢様、そんなもったいないお言葉を」

「ねぇサリ、週に一回はお休みを取ってもらえる? きっと、私は手がかかるから、サリが疲れる前に」

「お嬢様、私は大丈夫です」


 サリは最初から優しかった。


「今日って、何日だったかしら?」

「本日は12月22日でございます」


 私、召喚されて22回も朝を迎えたのかぁ~。


「サリがいなかったら、私あの時、ベッドから出られなかった気がするの」

「あの時とは?」

「フォード邸ではじめて目覚めた朝」

「お嬢様、あれは旦那様が……お嬢様は怯えているようでしたし……」


 そうね、あの圧が怖かった。懐かしいなぁ~。


 この世界での思い出が積もり始めた。



 コンコンコン


「サリ、ローズは?」

「お休みになられました」

「ローズは具合が悪いのか?」

「いえ、約束の足エステを施術致しましたところ、気持ち良さそうにおやすみに」

「そうか……ローズがフォンテーヌにいく素振りは?」

「いえ、そのようなことはございませんでした」


 遠くで……セスとサリの会話が聞こえる。

 そうか、また眠ってしまったのね。


『…………ズ、……ローズ』

「ハク?」

『ローズ、僕と話したいときはバングルを外して、お菓子を食べて……』


 えっ、ハク。ちょうど良かった、私、聞きたいことがあるの!

 私は、飛び起きた。あれ、寝室のままだ。


「ローズっ!」

「旦那様、お嬢様はお休み中です」


 セスが寝室に入ってきた。


「ローズ!」


 えっとぉ~、ハクは……?


「ローズ、ああ無事だね。今、誰かいなかった?」


 一瞬、息が止まった、静かに息を吐こう。


「いえ……」

「ローズ、顔色が良くないけど……」

「そうですか? 足が軽くなって快適ですが……こほっ…」

「ローズ?」

「こほっ、こほっ……」


 軽い咳が出始めた。

 この喉の感じは、この後……雨が降るのかしら?


「サリ、ローズに喉に効くお茶を」

「セス様、天候が崩れる前、咳が出やすいだけで──」

「吸入薬を使う?」

「これぐらいでしたら、ごほっ……部屋で静かにしていれば大丈夫です。ごほっ」

「ローズ、治癒魔法をかけさせて欲しい」

「ダメです! セス様は回復していません、セス様自身を守る以外の魔法は禁止です」

「ローズ、禁止だなんて……なんでそんな事を言うの?」

「…………」


 それは、セスに何かあったら、私が泣いてしまうから……。


 セスの手が私に触れようとした。

 私はセスの手から逃れた。


「ローズ?」

「セス様が治癒魔法を使おうとするからです」


 私は学習した、セスは治癒魔法を使う時必ず私に触れる。10秒程度患部に触れる、魔法陣は見えない。

 先日のフォンテーヌでのセスの治癒魔法……呼吸器内科医が聴診する際の位置に両手を添えての治癒魔法は効いた気がする。吸入薬を使った後だったが、その後の安定具合から考えると効果の程は明らかだ。


 でも、その対価は何? 気力・体力・魔力・寿命……?


「セス様、早く良くなってください。私には吸入薬があります」


 セスの表情は、寂しそうな困惑色を浮かべたあと泣きそうになった。

 ここで私が「ありがとうございます、お願いします」と言えばセスは安心する、私の可愛げも増す。でもそれを私は望まない。


「ローズ……わかった。ローズ昼食は部屋にする?」

「サロンダイニングにします」

「では後で迎えに来るから」

「はい」


 喉が痒い、痛い……。

 さっきはああ言ったものの、早めの対処は大事よね。


 私は吸入薬を使った、カウンターは残31。


「お嬢様、お茶でございます」

「サリ、ありがとう」


 30分程度静かに過ごし、昼食前のお着替えが始まった。

 すると、軽い息切れが出始めた。あれ?


 窓から見えるのは灰色の空だ。

 気圧が下がって、湿度が増すと、私の喘息は急変する。


 梅雨・台風・秋雨・寒波・春雨……日本の四季折々が恨めしかった。


 あっ、吐く息が浅く短くなっている、頭が朦朧とするようなしないような。

 これは天候大荒れの爆弾低気圧の襲来? 冬の嵐がくるかも……。


 念のため、昼食を自室に変更した、食前にもう一度吸入薬を使おう。


 前回の吸入から20分は経っている。いつでも次の吸入ができる。

 以前は1日最大8吸入だった。今は小児量だから4吸入まではいける。

 あと2吸入かぁ~。まだお昼、ギリギリまで様子を見よう。


 自室のダイニングエリアに食事の準備が始まった。

 さぁ~そろそろと思い、私は吸入薬を手に取った。


 コンコンコン


 その時、国王陛下とセスがやってきた。

 二人そろって華麗だな~。髪も大丈夫。


 二人を黙って眺めていると。国王陛下が言った。


「ココ、王命だ。ラムセスの治癒魔法を受けよ」

「ローズ、肩で息をして、背中も痛いよね? 私よりローズの方が危険だよ」


 あ~、もう少し早く吸入薬を使えばよかった。

 以前からの癖で吸入薬をギリギリまで我慢してしまう。そして、いつも「もう少し早く使えば良かった」と後悔する。学習できていないな~。

 それにあれは恥ずかしいのよ、10秒ぐらいセスに鎖骨下と背中に手を当てられて、私のドキドキが伝わりそうで……思わず息を止めちゃうのよ。


「ローズ、僕の治癒魔法が嫌なの?」

「…………」

「ココ、私の治癒魔法では弱い、ラムセスの治癒術をうけてくれ」


 ええ~~、国王陛下も治癒魔法使えるの?


「ローズの喉の炎症は、私に治療させて欲しい。もう声も出しにくいのでは?」


 セス、なぜわかるの? あ~共有……今の私には、もう喋るだけの息を吐けない。


 咳が減って喉が鳴らないから気を抜いてしまったけど、これ喉が鳴る余裕もないほどの悪いタイプの喘息発作だ……自力で救急車を呼べないタイプだ……。


 喉と胸が苦しい、背中が痛い、手先が痺れる、朦朧とする。

 息ができない、酸素、酸素が欲しい!


 私は酸素欲しさに頷いてしまった。

 少しだけ表情を緩めたセスが、私をソファーに座らせた。


「ローズ、肩の力を抜ける?……ローズ?……」

「ラムセス、今のココには無理だ急げ」

「はい。ローズ、安心して大丈夫だから」


 そう言いながら、セスは私に触れて治癒魔法を施した。

 10秒、長く熱い10秒だった。セスの手が静かに離れた。


「ココ、呼吸が落ち着くまで静かに。ラムセスは大丈夫か?」

「陛下、私は大丈夫です。ローズの呼吸が少しでも楽になれば……」


 この人達は、優しい。私には吸入薬があるのに……。


 私は静かに息を吐いて確認する。少しでも息を吐ければ次の息を吸える、そうすれば頭に酸素がまわり始め、朦朧としていた意識が鮮明になる。

 凄い! 凄い魔法だ。少しずつだけど呼吸が明らかに楽になった。

 でも、それを言うと、セスはこの魔法を使い続けることになる。

 術後のセスの顔色は悪い。どうしよう、この後、何て言えば良いの?


 誰もが無言で数分が経った。


「ココ、少しは効果はあったか?」

「はい、たぶん」

「ローズの声がやっと聞けた」

「息がしやすいように……感じます、ありがとうございました」

「ココ、効いているフリではないな?」


 なんとこちらに都合の良い誤解を!

 でも、これも良くない……。


「えっ、そんな……フリなんてことはありません」

「そうか、ラムセス良かったな。アプローチを変えたのが効いたな?」

「はい、陛下。今後も研究します」


 うん? 何の話だ?


「国王陛下にお願いがあります」

「ココ、申してみよ」

「この後、セス様に睡眠術? というのをかけてください」

「ローズ、何を言い出──」

「ココ、分かった。食後に3時間は目覚めない強いのをラムセスにかけよう」

「陛下!」

「国王陛下もその後は、休息をお取りください」

「ああ、いつものココだ。もう少し落ち着いたら二人でゆっくり食事をせよ」


 国王陛下は政務室へ消えていった。



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