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「ローズ、何があったの?」

「ココ、手の力を抜けるか?」


 えっ、手。


 私は凄い力で吸入薬を握りしめていた、手が白い。

 セスが私の手を優しく包んだ。


「ローズ、どうしたの? ローズ静かに息を吐いて」

「ココ、今朝の吸入に問題があったのか?」


 あっ、吸入……吸入薬まだ使ってなかった……。

 とにかく……今日を始めなくては……。落ち着け、落ち着け、私。

 さっき聞いたのは、セスの世迷言だ。

 国王陛下は認めなかった、大丈夫。


 適合できることを私が口にしなければ、この話は進まない。よしっ!


 私は静かに息を吐いた。


「おはようございます」

「おはよう、ローズ」

「おはよう、ココ」


 セスが、私に手をかざして数秒後に陛下へ頷いてみせた。

 何をスキャンしたのかな? 何か治してくれたのかな?


「ローズ、サリかミヤを呼ぼうか?」

「ラムセス、少し待て。ココ、昨夜の私の発言を撤回する」

「はい?」

「だから、ココも発言を撤回して欲しい」


 発言を撤回とは?


「ローズ、もう無理に食べなくていいから、一人で食事を取るなんて言わないで」


 あ~、あれね。


「はい、撤回します」


 というか撤回どころか……昨夜、私はヒースと一緒にスープをいただいてしまったぐらいだ。はははぁ~。


「ココ、朝食を一緒に取ろう」

「はい、喜んで」


 私は、頭を下げた。あっ、パジャマ姿だ……。


 国王陛下とセスは安心したのか笑顔で退室し、サリとミヤが入ってきた。

 私はサリの回復を確認できてホッとした。


 王宮に来て2回目の朝。

 私は吸入薬を使った、カウンター残32。



「王の朝食」という修行を覚悟して、セスに手を引かれサロンダイニングという道場に着いた。

 ところが……今朝は違った。フォード家料理長ランスが中心となって、テキパキと用意してくれた。


 ワンプレートモーニングに近いような、もぉ~毎朝こうして欲しい。

 それに、今朝はクラムチャウダーが付いている、楽しみ~。


「フォード家の料理長の味はやさしいな」

「ランスはローズのために研究を続け、さらに腕を上げました」

「そうか、何が違うのだ?」

「ローズの好みに合わせて、塩分を減らしているのです」


 あれ? 私はそんな好みや希望を言ったことはない。


「ローズ、不思議そうな顔をしているね。ランスはローズの食事の進み具合で、薄味好きと見抜いたようだ」


「このクリーム系のスーブは何だ?」


 陛下が控えているランスに聞いた。


「クラムチャウダーでございます、お嬢様のリクエストで以前お作りさせていただいたものをブラッシュアップ致しました」

「ココの国の物か?」

「いえ、違います。でも、私の好きなスープの一つです」

「ココ、これも毎日はダメなのか?」

「はい、毎日だったら。昨夜のコンソメスープが私の一番です」

「そうか。ラムセス、フォード家のスープのレシピを王宮の厨房に教えてくれぬか」

「かしこまりました」


 えっ、王宮には王宮の良さがあるのだけど……。


「あのぉ~、王宮のスープも美味しいです、お料理もパンもお菓子も、王宮ならではのものがあって、それはそれで毎日楽しみです」

「本当か!? ココ!」

「私が少食なだけです。その上、夕食時と予定があるときは食事量を減らす癖があって……」

「そうかそうか、サロンダイニング担当シェフにそう伝えよう。ヒース、今日のココの予定は?」

「マイ・レディは診察後、安静にする予定です」

「そうか、それならばココは心置きなく食べられそうか?」

「はい」


 安静にする予定って……予定なの?



 朝食とお茶を終え、セスも私もそれぞれの部屋で王宮医の診察を受けた。

 二人とも診察結果は良好で、国王陛下とセスと私は庭園のガゼボでお茶をすることになった。


 安静って何だったの? 拡大解釈しすぎでは?


 私はフワフワ・モコモコの帽子とコートを着せられた。

 私のこの服装はガゼボまでだけの防寒着らしい、もったいない。

 セスが本調子ではなく移動中の結界を張れないということかな?

 お茶のために外に出て大丈夫なの?


 ガゼボに向かい、セスと庭園を歩き始めた。


「エティエンヌ公爵!」


 進行方向から警護官を振り切って凄い勢いで、男性が走ってくる。


 ん? 何かしら?

 セスが、魔法陣を展開した。

 

 男は私の前で止まり、息を切らしゼイゼイと肩で息をしている。

 あっ……この顔、見たことが……。

 白ドレス・青髪飾り・爪を立てた少女と似ている、家名は……確か……?


 “王宮温室内におけるエティエンヌ公爵暴行事件の報告書”には、あの少女は確か公爵家令嬢で、サザン公爵だったかな? あの少女とその親は、一年間の謹慎だったはず。成人した兄が二人いて、一人は文官で、もう一人は学生だったはず。


「先日は、妹がエティエンヌ公爵に大変失礼をいたし──」

「近寄るな!」


 セスが、私の前に出た。


「誰がここまでの侵入を許した」

「フォード公爵、私は直接エティエンヌ公爵に謝罪したいとお伺いをたてても、フォード卿が全て断りを──」


 あの少女の兄弟姉妹には何もなかったはずなのに、なぜこういう傷の上塗りをするの?


 ヒースが、すぐに私の手を取った。こちらも魔法陣を展開している。


「直接謝罪してどうなるのだ? エティエンヌ公爵に嫌な記憶を思い出させるだけだろう。そのために我々が時間を割く必要はない」

「ですが誠意を」

「何か勘違いをされているようだが、我々は謝罪を求めていない。当主でも当主代行でもない第三者が対面での謝罪申請をすること事態が申請要件を欠き不適格だ。申請却下は陛下の決断だ、陛下を前に同じことが言えるのか? 若いエティエンヌ公爵の情に訴えて、その先は何を考えている? 」

「私は誠意を、ただ誠意を……」


「私が聞こう、誠意とはなんだ?」


 国王陛下の登場だった。


「申してみよ、サザン公爵家のいう誠意を、公爵家の命運をかけて申してみよ」

「恐れながら申し上げます……」


 被害者である私が謝罪すら要求していないのに、対面謝罪が誠意とかって謎だわ、加害者側なのになぜ要求を通そうとするの?

 それとも……妹のやったことで、自分は被害者だとでもいうの?

 友達攻撃の次は、誠意攻撃なのかな……? 気味が悪い!


「最初にエティエンヌ公爵に申し上げます、妹は──」

「サザン公爵家第一子ギルバートよ、誰がエティエンヌ公爵に話しかけて良いと許可した?」

「は……?」

「残念だ」


 国王陛下のその言葉と同時に、あの少女の兄ギルバートは連行された。

 言葉もなく一連の様子を眺めていた私に国王陛下は意外な言葉をかけた。


「ココ、王宮を嫌いにならないでくれ」


 えっ……いきなり、なに?


 確かに、私が王宮で見聞きした出来事は、物騒で気持ち悪いものが多かった。だからといって王宮を好き嫌いどうこういうものではなくて……。

 この人は15歳で即位してから、こんな訳の分からないところで過して、よく正気でいられるものだ。


「私は、大丈夫です。国王陛下、お気遣いいただきありがとうごいます」


 私は、久しぶりにカーテシーをもって陛下に応えた。

 表情を緩めた国王陛下は、どこか寂しそうに見えた。



 ※



『ココ、王宮を嫌いにならないでくれ』



 陛下が、ローズに執着を示した。


 一国の王が「嫌いにならないでくれ」などと……。

 ローズも何かを感じたのだろう、いつもと違う礼をとった。


「陛下、私が至らず重ね重ね──」

「気にするなラムセス、ココに害が無くて何よりだ、ガゼボでお茶をしよう」


「ヒース、ローズは大丈夫か?」

「はい、安定しております」

「ローズ、ああいう輩は、どうしても一定数いる。多くは良識ある貴族だから怖がらないで欲しい」

「はい」

「ローズ、息を詰めないで」

「えっ?」


 ローズには、こういう時に呼吸を止めて静観する癖がある。


「ココ、歩けるか?」

「はい、問題ありません」


 陛下がローズの手を取った。

 私の心臓が燃えるようにやけた。



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