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 全ての皿が回収され食事は終了となった。

 陛下は、毒見・給仕・厨房関係者の取り調べを命じた。この王宮ではよくある光景だ。


 ヨハンによると……。

 ローズは、朝食の時から一口食べるとその後はおもむろに食事を残していたらしい。今までのローズにみられない有様に、体調不良なのか攻撃魔法の残骸で不安定なのかとヒースは悩み、ヨハンに報告し相談していたという。


「ラムセス、ココは昨夜も食事を口にしていない」

「ローズは、本能的にこの薬物を感じ取っていたのか? 毒性はなく、口にした量も問題ないでしょう。それにしても痺れ薬とは不可解です……」


「ヨハン、サリは回復したか?」

「はい、明日からはお嬢様のお側に戻ります」

「そうか……」


「ラムセス、この件が片付くまでココの食事はフォード邸かホテル・フォンテーヌから運ぼう、食器類は国王専用食器を使ってもらう」

「陛下、よろしいのですか?」

「今すぐ、ココの部屋の食器を全部入れ替えろ」


 国王専用食器には、かなりの魔法が付与されている、安全だ。

 陛下の側近が動き始めた。


「ヨハン、ランスが来る前にお茶とお菓子とフルーツをローズの部屋へ届けてくれ、お茶は私が淹れる」

「かしこまりました」

「ラムセス、ココにはこの件は伏せてくれ」

「はい、それがよろしいかと」


 ローズの周囲がおかしい、一番の問題は失踪だ。

 私は、ローズのために紅茶を淹れ、お茶に栄養補給術を展開した。ローズが口にしてくれれば、と願った。


 一時間ほどして、ランスが王宮に来た。


「ランス、急を言った」

「いえ、旦那様、お加減は?」

「私は大丈夫だ」

「スープと軽食をお持ちしました。お嬢様は?」

「ローズに多めに食べさせようとしたら、食事中に席を立ってしまい部屋へ籠ってしまった。ローズは、昨日の昼以降は何も食べていない状態に近い」


 ローズは、ミヤとヒースを残しメイドを締め出していた。

 私は祈るような気分でランスと共に、ローズの部屋の扉を叩いた。


 扉を開けたミヤは、私の顔を見るなりすぐにヒースを呼んだ。


「フォード卿にランス殿……」

「ヒース、ローズの様子は?」

「いつものように、静かに過ごされております」

「ヒースの食事だ、あとローズの好きなスープが入っている」

「かしこまりました」


 ヒースが、私の目をみて深く頷いた。

 私とランスは、ローズの部屋の前の廊下に置かれた椅子に座った。


「お嬢様は、生きるために命をいただく食事の意味をわかっている方です」

「ああ」

「旦那様、お嬢様は少食ゆえに食に感謝する方です」

「ああ」

「旦那様、明日の朝にはいつものお嬢様に戻られますよ」


 明日の朝にはいつものローズに会えるだろうか?


「ランス、しばらくローズの食事を王宮に運んで欲しい」

「かしこまりました、フォンテーヌの厨房を借りられるよう手配いたします」

「そうか、ランスはかつてフォンテーヌの料理長だったな」

「おまかせください」


 ランスは、ローズの食に対するこだわりや癖を教えてくれた。厨房が一丸となってローズの食事を考えていることに驚いた。

 そうこうしているうちに、ローズの部屋の扉が開き、ヒースがワゴンを押しながら出てきた。


「フォード卿、食事をありがとうございました。

 ご安心ください、マイ・レディはスープを召し上がり、少しですがパンを口にしました」

「そうか、ヒース。礼をいう」

「マイ・レディがこちらを」


 ヒースが手紙を手にしていた。

 封筒には「スープを作ってくださった方へ」「紅茶を淹れてくださった方へ」と書いてある。


 どういうことだ? 私は封を切った。


 “ セス様、美味しい紅茶をありがとうございました。 ”



 あ~~、ローズ! 良かった、いつものローズだ。

 私は手紙を読みながら、ローズの部屋の扉を背にしゃがみこんだ。


「旦那様、大丈夫でいらっしゃいますか?」

「ランス、そちらにはなんて書いてある」


 私は、ランスに開封を促した。


 “ ランス料理長、遅い時間に美味しいスープをありがとうございました。 ”


「お嬢様、私のスープだと気づかれて……」


 ランスは興奮し始めた。


「旦那様~、この手紙を家宝に致します」

「ランス~、私だって、初めてローズから貰った手紙だよ、私の宝物だよ」


 ヒースが苦笑を浮かべて言った。


「マイ・レディは、そろそろお休みになられますが、お会いになられるか伺いましょうか?」

「いや、明日にする」

「ヒース、ローズを頼む」

「かしこまりました」


 ローズの手紙が、私に力をくれた。



 ※



 朝、目が覚めた。身体を起こし室内を見回した。

 白い寝室に朝日が差し込んで、室内が妙に明るい。


 私はロングカーディガンを羽織り寝室の窓を触った。

 おおっ、片手で触れただけでスッと音もなく開いた。

 王宮建物内は温度調整されていると聞いていたが、窓を開けても冷気が流れ込むことはなかった。


 良く眠れた~、この白い寝室は寝つきが良いのかもしれない。


 私は吸入薬を手にした。その時、窓の外から人の話し声が聞こえてきた。


「──ご心配をおかけしました」


 うん? セスの声が聞こえるような気がする。

 私は窓辺に近寄った。


 セスが使っている隣室のテラスでの国王陛下とセスの会話のようだ。


「まだ無理をするな」

「お心遣いに感謝致します」

「昨夜の薬物の件だが、厨房の者が死んだ」

「陛下、口封じですか? 自死ですか?」

「今のところ不明だ」

「昨夜の聴取の成果は?」

「供述内容は、食欲増進剤だと──」


 まぁ! 誰かが薬を盛られたの? 誰に、何の?

 毒薬・媚薬あたりかしら、王宮って感じよね。


「ラムセス、朝食だが──」


 昨夜のスープ美味しかった、ヒースの食事が羨ましかったなぁ~。

 今日の食事はどうしたものか……?


「陛下、昨日のローズの失踪についてですが……何か判ったことは?」

「全てが、まだ不明のまま──」


 ハクに会うたびに騒ぎになるのをどうにかしないと……夜が狙い目かな?

 昨夜、私はハクに聞きたいことをまとめた、でもハクには会えなかった。


 隣室の朝ミーティングを立ち聞きしている場合ではない、とにかく私は吸入しなくては……窓辺から離れようとした時だった。


「陛下、お願いがあります。刀剣が力を有したら、その力でローズの治療を」


 えっ、何を言っているの、セス!


 私は視界が歪み、足が沼に沈むような感覚に襲われた。


「ラムセス! 成らぬ!」

「陛下、刀剣の力で──」


 どうしてっ!!


 どうして、そんな事を言うの?

 刀剣の力でなんて……ハクと同じことを言わないで欲しい。


 なんか悲しいし、怒りが湧いてくる、苦しい。


「ラムセス! ココに何かあったのでは?」

「たしかに、急に何とも言えない負の感情が……」


 えっ……今の私の心が伝わるのに、どうして刀剣の力でって言い出したの?


「陛下、ローズの様子を見てまいります」

「ああ、私も行こう」


 えっ、来るの? あっ……まず窓を閉めよう。


 私は慌てて窓を閉めササッとベッドに戻って座った。


 私は強い困惑に襲われた。

 セスに裏切られた気がするのは何故?

 どうして、どうして……。


 コンコンコン


 扉を叩く音が聞こえるが、私は困惑の沼に溺れ始め動けない。

 国王陛下とセスは、躊躇なく私の寝室の扉を開いた。


「ローズ?」



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