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 陛下によって私はローズの部屋から連れ出された。


「ラムセス、もう立っているのもやっとだろ、無理をするな」

「ですが陛下。ローズの側を離れるのは危険です」

「ヒースがいる。大丈夫だ」


 私は、ローズの部屋の隣に用意された客間に戻り、少し前まで横になっていた寝台に座った。


「ヒースから聞いた。睡眠を取っていないそうだな、いつからだ?」

「ローズと過ごすようになってからです」

「その結果、ラムセスの回復が遅れたわけだが、どう考える?」

「不覚にも回復が遅れてしまい、申し訳ございません」

「ラムセス、自分が頑張れば何とかなると思っているのか?」


 私は肯定も否定もできない。


「陛下、私はローズを助けたいのです」

「ラムセス、皆がそう思っている。

 私は過去に『ローズ嬢の側に居てくれ』と言ったはずだ。いつものようにラムセスが回復していれば、いつものようにココの側にいれば、ココはあんなに泣かなかったぞ」


 そうだ、いつもの私ならば今朝、いや未明、いや深夜には回復していたはずだ、ローズの失踪騒ぎも防げたかもしれない。


「ラムセスがローズと呼ぶ少女の中にはココの部分がある、ラムセスの腕の中で泣く姿が全てでない。ラムセス、それを忘れるな」

「陛下?」

「ココを一人にしないでくれ、一番苦しい時に人前で弱音を吐かない強さと弱さがある。ココを一人で泣かせるな」

「ローズは一人で泣いたのですか?」

「ああ、深夜に忍び泣いていた。涙の原因を聞いても答えなかった」

「そうでしたか……」

「ラムセス、その時の私の心は冷えて固まった、日陰の解けない雪の塊が芯となって、次々に汚れた雪が降り重なって、暗闇の中で前後不覚になり一人立ち尽くしていた……それは寂しい共有だった」


 ローズには孤独が満ちているのか?

 ローズは手負いの獣のようだ、弱ると一人になり誰にも助けを求めない。


「ラムセスとココは似ているな。誰にも頼らない」

「陛下、そのようなことは……」

「無いと言えるのか?

 全てをラムセスに解決しろと言ったことは無い、そのつもりもない。

 ずっと寝ていない状態では、まともな判断も出来ないだろう。今のままのラムセスでは、ココの身上監護権の継続は難しいと考えている」


 陛下は本気なのか?


「ラムラス、選べ。

 ココから離れ適合と喘息治療の研究に没頭する。

 研究は我々に任せてココの側にいる。

 この二つから選べ」


 なんて選択肢だ、最悪だ。


「陛下!」

「後者を選んで欲しい、今のところココが泣けるのはラムセスの側だけだ。

 三番目の選択肢が増えるかどうかは、今後のラムセス次第だ。

 ラムセス、今は回復を第一にしろ」

「ははっ」


 寝ている場合ではない、考えなくてはローズの側にいながら、ローズを助ける第三の選択肢を探さなくては……。


「ラムセス、頼むから少し眠ってくれ。まず睡眠を取ることから改善を示せと言っただろうが……考えるのは回復してからにしろ」


 陛下は静かにそう言い、私に強い睡眠術を放った。

 瞬時に私は深い眠りについた。



 深く眠り、身体が軽くなった爽快さで目が覚めた。


「旦那様、お目覚めですか?」

「ああ、ヨハン、心配をかけた。どれぐらい眠った? ローズは?」

「小一時間でございます。お嬢様は先ほど目覚められ、ヒース殿が付いております」

「そうか、着替えを頼む」

「かしこまりました」



 陛下に示された選択肢は後回しにして、はやる気持ちを抑えてローズの部屋へ向かった。


 コンコンコン


「ローズ?」


 ローズはソファーに座り、ぼんやりと外を見ている。

 あ~、またローズの心が遠くにいってしまった。


「マイ・レディ。フォード卿がいらっしゃいました」

「セス様、もう動いてよろしいのですか?」


 ヒースの声に反応したローズは立ち上がり、私をその目に映した。

 私はローズに近づき、その肩に手を置き髪を撫でた。


「ローズ、体調は?」

「私は大丈夫です。セス様は?」

「心配をかけてしまったね、もう大丈夫だよ」


 ローズは、静かな微笑みを浮かべた。


 その時、私の心に一斉に花開くような光風が吹いた。

 あぁ〜、ローズが私の回復をこんなに喜んでくれているのか? だとしたら夢のようだ。


「今夜からは、ちゃんと眠ってくださいね。寝不足は髪にも良くないです」

「髪? ああ、そうする」

「セス様、私は喘息発作で夜に眠れない日が何日も続くことがありました。横になって息をして眠れるということは本当に幸せな事です、睡眠を楽しんでください」

「ローズが夢に出てきてくれれば……」

「ふふっ、それは難しいですね~」


 ローズが夢に出てくるのは危険すぎる。私は目覚められなくなるかもしれない。


 陛下のおっしゃる通りだ、こんな幸せに浮かれた状態で冷静にローズを守れるだろうか?

 私がローズに会わないという選択肢を選ぶことはない。その上で睡眠を確保するとなると調査研究が進まない。


「セス様? まだ具合が悪いですか?」


 考え込んだ私をローズが心配している。


「迷惑をかけたね、もう大丈夫だよ」

「私の方こそ、セス様にずっと迷惑をかけているので……」


 ローズ、どうしてそんな事を言うの?


「ローズ、何を言っているの? 迷惑? 私はそんな風に思ったことはないよ」

「だったら、私も同じです。セス様に迷惑をかけられたことは無いです」



 ※



 -迷惑-


 人様に迷惑をかけないように。と人々は口々にそう言う。


 本当に、そんな事が可能だろうか?

 生きている限り、存在する限り、迷惑をかけ、迷惑をかけられて生きている気がする。

 極論、息をするだけで空気を汚す。迷惑をかけないようにとは、大きい迷惑ということか?


 小さな親切、大きなお世話。と言うぐらいだ、その逆もあるはずだ。

 自分が迷惑をかけたと思っても、相手がどう取るかは分からない。


 私はよく『ご迷惑をおかけしました』を使っている。

 でも、セスから『迷惑をかけたね』と言われてわかった……そうだ……。


「ありがとうございます、セス様。私を助けていただいて感謝します」

「ローズ! 私はなんて言葉で表現したら良いのだろうか? 私が側にいながら私を庇う形で君が攻撃を受けたというのに、君はそんなに優しいし……可愛いし……」


 セスが泣きそうだ、最後の方は何を言っているのか聞き取れなかった。

 どうして、そんなに起伏に富んだ発言や出来事はないような……。


 う~、困った。どうしよう?


「旦那様、お嬢様。お食事のお時間です」

「ああ、ローズ、手を」

「はい、セス様」


 セスの手を取った時、私の左腕のバングルが音を立てた。

 ハクとの話を思い出した。

 バングルが結婚の申し込みとは驚いた……セスは本気なの?


 出会ってすぐに意味のあるバングルを私に贈ったの?

 私にとって結婚はかなり優先順位が低い。


 どうするのかな、私。


 バングルの意味がハクの言う通りだとしても、セスが何か言うまでこのままにしておこう。


 そう、この綺麗なバングルは御守り、綺麗な御守り……。



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