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「ラムセス、今はやめておけ、少し休め」
「ですが……」
「ココには、ヒースが付いている」
「私もローズに付き添わせてください」
「ラムセス、まず食事を取ってからだ」
「フォード卿、まず食事をお取りください」
「ヒース、すぐ戻る。それまでローズを頼む」
食事を取りながら、陛下からローズ失踪の詳細を聞いた。
一日に二度も部屋から消えて、召喚の間へ通じる廊下で倒れていた。
「ローズは一人で部屋を出るようなことはしません」
「ああ、皆がそう考えている。以前、ココは私に部屋から出て行けと言った事があったぐらいだ、だから今回も立入禁止のメモを残して籠った」
ローズは一人になりたがる、だが無謀な行動はしない。心配させないようにメモを残し部屋に籠ったのは、ローズらしい言動だ。
「ココが部屋から出たのは我々の知り得ない何かが関係しているはずだ。ラムセスが捜索できる範囲内で良かった」
「ですが……難しいものでした。掴んだと思っても、お茶とお菓子の香りが立ち込めてローズの気配が何度も薄れて……」
王宮内で内鍵のかかったセキュリティーの高い部屋から忽然と消えた……。
そんな事が……可能なのか?
私は食事を終え着替えてから、ローズの元に向かった。
ヒースがローズの手を取り精神安定術と空気洗浄術を展開していた。
「ローズは?」
「眠ったままです、マイ・レディは安定しております」
「ヒース、ローズが消える直前の様子は?」
「いつもと変わらず静かに過ごされていました。幸せそうに寝台に入り眠りにつこうとしておりました」
そうか、幸せそうだったのか、良かった。
「キース、ローズは今朝、ちゃんと吸入薬を使っていたか?」
「ご安心ください、吸入薬を使っておられました」
ローズ、早く君のその黒い瞳に私を映して欲しい。
※
吸入薬という言葉で私は覚醒しはじめた。
どうしてハクと話していたのに寝ているの? 後で考えよう。それに何となく今、起きると面倒な気がする。このまま二度寝に入ろうと思った時……。
「フォード卿、マイ・レディがそろそろ目覚められます」
ヒース、なぜ分かるの? なぜ、セスが近くにいるの?
……私は籠城していたはず。
「ローズ?」
あ~、セスの優しい声だ、起きよう。
私は静かに目を開け、起き上がろうとした。
「ローズ! ローズ、気分はどう?」
「セス様……」
グッとセスに抱き起されて抱きしめられた。
「ローズ、よかった。君か無事で……」
いつものセスだ、優しい声、優しい手、どうしよう……泣きそうになってきた。
あんなに血を流していた人が、私の心配をしている。
「ローズ、朝も部屋から消えて召喚の間に続く廊下に倒れていたと聞いたけど……何があったの?」
えっ、どうしよう。長い話になるし、夢のような話だし……。ハクの事を話そうとすると、ハクの記憶が薄くなってしまう。
「フォード卿、目覚められたばかりです。無理には……」
「ローズ、覚えていないの? 言いたくない理由があるの?」
「…………」
「それとも、僕の近くにいるのが嫌なの?」
えっ、セスの膝の上に乗せられ抱きしめられたこの状況で、息がかかるこれ以上ない至近距離で「僕の近くにいるのが嫌なの」とは?
「ローズ……」
セスの腕の中で、私はもぞもぞと動いた。セスが、少しだけ腕の力を抜いてくれた。抱きしめられている事には変わりない。とにかく近い。
私は、黙ってしまったセスを見上げた。
「ローズ、意識がはっきりしない時にローズに、その……私は……」
「私は?」
「私は……ローズの腕を掴んで、その……ローズのその唇に……あぁ……」
セスが、おどおど、しどろもどろ、真っ赤と変化している、くすっ。
あれ、でも?
「ローズ?」
「セス様は、意識がはっきりしないのに覚えているのですか?」
「あ~、いやっ。夢見心地でいたら、陛下から『夢ではない無体をはたらいた』と厳しく叱責されて、もうローズに会わせないって、ローズも部屋に籠ってしまったし……ローズ、怒っている?」
「怒っています」
「ローズ……」
セスがシュンとしおれた。ふふっ……なんだか可愛くて笑える。
それにしても、セスの膝の上から解放されそうもない。
「でも、嫌じゃなかったですよセス様の腕の回復を確認──」
「ローズ! 嫌じゃないなら夢の続きをさせて、その前に夢のやり直しから──」
うん、そういうことではないのね。曲解されたかな? いや聞いてないのか?
「おい、ラムセス。また、眠らされたいのか!」
「いえ、陛下」
「ヒース、ラムセスをココの監護者からはずす手続きを進めろ」
「かしこまりました」
セスの望む夢のやり直しは、国王陛下によって夢と消えた。当然です!
それに謝罪しておいて、その続きとかって、謝罪が台無しだよ。残念な人だ。
「陛下、お待ちください」
「ココの安全を確保する。ココ、もうフォード邸に戻るな」
「今の私の発言は確かに監護者として不適切でした。ですが……」
「ラムセス、いい加減にココを離せ、もうココに触るな。ヒース何とかしろ」
「陛下こそ大きな声を出さないでください。ローズに障ります」
籠城していたはずの私の部屋へ次々に乱入して、私の目の前で、いつものように国王陛下とセスが仲良く言い合いをしている。何度も見たこの光景に穏やかさを感じる、懐かしい。
夕日が白い寝室に差し込み、白壁が茜色に染まった。昨日の硝煙と血の匂い、魔法陣と銃声が嘘のようだ。皆が無事で良かった。
「……った」
「ココ?」
「ローズっ、どうしたの?」
国王陛下が真っ先に私の涙に気づき動揺した。
慌てたセスが私の背中をさすり始めた。
「ローズ、具合が悪いの?」
「よ……良かった、です。皆が、無事で……」
「ローズ、みんなもう大丈夫だから、ずっと君は泣くのを我慢していたの? 好きなだけ泣いていいから我慢しないで……」
「……うっ……よかった……」
「そうだね、ローズ」
涙が止まらなくなった、色々な感情が重なって固まっていたものが、セスの声で少しずつとけて消えていく感じがした。
「ローズ、心配をかけたね」
私は頷いた。
セスが私の髪を優しく撫でる。
私は血まみれのセスをもう見たくない。
「ココ、しばらくは王宮に滞在してくれ」
「陛下!」
「ラムセスも王宮に滞在しろ、まだ回復していないだろう」
「はい、感謝します。ただ、監護者の件はご再考いただきたく……」
「ラムセス次第だ、まず睡眠を取ることから改善を示せ」
「はっ」
「ラムセスもココも夕食までは寝台に戻って安静にしていろ」
国王陛下は、私をセスから引きはがしベッドに戻し、ヒースに私の手を握らせた。そして、嫌がるセスを引きずり「ヒース、ココから離れるな」と言葉を残し去った。
私は、ベッドに横になった。嵐が去って、寝室には静寂が戻った。
ヒースが心配そうに私の手を握っている。
「ヒース、私は、また廊下で寝ていたの?」
「はい、朝と同じ場所にお倒れに」
「ヒース、色々とありがとう、心配をかけてばかりね……」
「マイ・レディ、少しお休みください」
「ヒース、ありがとう。おやすみなさい」
次にハクに会ったら、何から聞こうかな? ぼんやりとそう考え始めた私は、ヒースの睡眠術により緩やかな眠りについた。




