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 馬車は、中央大通りを王城に向けて走り、来た道を戻っていた。内堀の手前で中央東通り方向に曲がり……フォンテーヌの裏? いや表側に回り込んだ、エティエンヌ公爵紋が飾られた門扉が開き、馬車は入っていった。


 大きな区画の王城・内堀側がエティエンヌ公爵の屋敷、外堀通り側がホテルとなっている、完全に別棟で庭からは行き来できなくなっているらしい。


 憧れのホテル暮らしが待っていると思ったが……、ホテルと隣接する形になるようで、近いのに遠い。

 ファミレスモーニング好きとしては、ホテルモーニングも当然大好きだ。

 でも、馬車でしか行けないの? そのうち、隠し通路を作ってもらわなくては……。


 この馬車は、この屋敷と裏にあるホテル・フォンテーヌを行き来するために用意されたものらしい。無駄だぁ~。


「ローズ、大規模な改装工事中で今は中に入れないけど年明けには仕上がるからもう少し待って欲しい、仕上がりがイメージに合わなければクロス・照明・家具は後から変えられるから心配しないでね」


 そんな心配は、不要です。


 改装というのは、内装・外観全てのようだ。ここまで来ても足場や覆いで何も見えない。

 大きさだけは分かる、覆いがあるから大きく見えているのかな? 大きさや広さに対する感覚が麻痺してきたかも……。


「あと庭木の希望はある?」


 いえ、何も思いつきません。


「ローズ?」

「シンプルで飽きの来ない雰囲気でお任せします」

「ローズは、ずっとフォード邸で暮らすけど、王都に遊びに来た時にこの屋敷を使うからローズの安らげるものにしよう」

「…………」


 えっと……、無駄の極致とはこのことですか?


 ふと「文化・芸術は、無駄や贅沢から生まれるのよ。それが人の潤いになって続いて伝統に繋がるの」と言った祖母の言葉を思い出した。祖母は贅沢を好む人だった、祖父はそれを笑顔で眺めて働く素晴らしい人だった。


 街からフォード邸まで馬車で20分ほどの近距離だ。王都に来てもフォード邸に帰るか、フォンテーヌホテルの一室を借りれば良いのでは? こういう考えは庶民的過ぎるのだろうか?


「ローズ、フォード家の馬車に乗り換えて帰ろう。ローズの馬車は、フォンテーヌが責任もって管理するから大丈夫だ」

「はい」


 ピンクゴールドの機械馬に繋がれたエティエンヌ家の馬車からフォード家の馬車に乗り換え、馬車は走り出した。



 フォード領の大きな扉を越え、調整区域を過ぎて大きな門を通り、フォード邸が見えてきた。

 一回目のお出かけの帰りは熱で意識が無かった。二回目は、随分長いお出かけになってしまった。

 フォード邸をこの角度で初めて見た、屋敷というより城だ……。


 玄関前に、ヨハンを始め多くの使用人が出迎えてくれている。


「おかえりなさいませ」


 ヨハンの声に続いて、屋敷の使用人たちは頭を下げた。

 久しぶりに心に響く言葉だった。


 そう、私はここに帰ってきたかった。


 そして、スタイリッシュな家具や大きなガラス窓が印象的な、私が使っていた部屋に戻ってきた。

 ここに着いたらやりたかったことは、ラフな格好でゴロゴロする事だ。

 ラフな格好で……ゴ、ゴロ……。


 大量の服が運び込まれている。箱も積みあがっている。

 私が使っていたのは、このお部屋じゃないのかな?


「サリ? この服はどうしたのですか?」

「先日、メゾンに行かれた時にお嬢様のイメージで服や小物をデザインさせたものが仕上り納品されました。ここにあるのは、仮縫い段階で最終的なサイズ合わせを近日中にこちらで行う予定です」


「そう……あのパーカーを着てゴロゴロとかは……」

「はい、お嬢様が興味を示された不思議な形の服は全て揃え直しました。クローゼットに収納済みです、お出ししましょうか?」

「えっ、王宮にあったカジュアルラインを着たかったのに……」

「王家が用意した物は、王宮でお召ください」

「あの、ネイビーのチュールレースにピンクのお花の刺繍の――」

「あれは、旦那様が用意した服ですので持ってきております」


 よかった、でも一度来た服をもう一度着させてもらえるのだろうか?

 二重生活……正確には三重生活は、不経済だ。


「お嬢様、お召替えを」

「では、先ほどのピンクのお花の刺繍のワンピースを」

「あれは、旦那様があの日を思い出されて取り乱されると……」


 たしかに、あの時の冷気は私の喉に良くない。

 それを気にしたら、ずっと着られないというの?


「あのワンピースに、白のフード付きロングカーディガンを合わせて着ます」

「かしこまりました」



 コンコンコン


 セスとヒースが来た。


「ローズ、疲れは出ていない?」

「はい。あの色々とありがとうございました」

「ローズ、少し部屋の作りを変えてみたんだ」

「…………?」

「隣の部屋をつなげて、クローゼットを大きくし、ヒースの執務スペースも増設したから」

「はい……?」


 見た目何も変わっていないけど……?


「セス様、新しい服をご用意いただいてありがとうございます。服の代金についてこちらで少し負担させていただきたいのですが」

「ローズ、何を言っているの? 負担だなんて……」

「私にも資産を持ちました、ヒースという執事もおります」

「ローズ、ああ誓約書がまだだったね。あそこに全ての費用は私が持つと」


 あっ、そういえば……はい、あの誓約書は忘れましょう!


「でも、お金を使ってみたいのです」


 お金のある人に、お金を負担させてくださいというのは失礼なのは分かっている、費用負担は諦めよう。


 でも……私は、お金を使ってみたい。


「本当にローズは、お金を使いたいだけ?」

「はい、実際に使ってみたくて」


 この国には、紙幣とか硬貨が無いとか?

 では、決済はどうやるの? まさか魔石決済? 小切手決済?


 ……もしかして?


「セス様、お金、現金を使った事ありますか?」

「いや、無い」


 やはり……。

 私だって成人してからも祖父母の家に遊びに行っていた時は、お金を使った事は無かった。

 一人で街歩きをしている時に、自動販売機でジュースを買おうとしたらどこからともなく人が来て「あっ、今点検中です、試しに押してください。よろしかったら差し上げます」という事や、勤務先と友人にお土産を買うため地域物産館とかに行って選んで会計のところで「あっレジの調子が悪くて、後程お宅に集金に伺います。ついでですのでお求めの商品もお届けさせていただきます」となって……。地方の豪農の凄さを思い知ったことがある。


 それが、貴族、公爵、国王の側近というか重臣、お金なんか使わないでしょう。


「セス様、お金というか、支払いをしてみたくないですか?」

「ローズ、面白いことを言うね」

「紙幣とか硬貨とか小切手かありますか?」


 何でもいいから、買い物を自分でしてみたい。

 あっ!


「私は額縁を探して買いたいです」

「ローズ、何のために?」

「エリカ様から頂いた刺繍を額装するために」

「ローズが自ら額装するの?」


 うっ、そんな技術はない。


「額縁を選んで、枠マットも選んで、職人さんにお願いして……その支払いをしてみたいのです」

「マイ・レディ、額縁屋か百貨店の外商を呼びましょう」

「百貨店があるなら、私は行きたいです」

「ローズ、あそこは一点物が少なくて、人が多くて……」


 私、そんな高級な額縁は要らないのっ。


「ヒース、お買い物に一緒に行ってもらえますか? その時、支払いの仕方を教えてください」

「マイ・レディ、日程調整をさせてください」

「急ぎません、お願いします。その前に紙幣や硬貨を見せてくたさい。その他の決済方法も教えてください」

「かしこまりました」


「ローズ……」

「セス様も時間が合うなら是非一緒に行きましよう、支払いをしてみましょう」

 


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