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 シャランシャラン シャランシャラン


 昼食時、私達がホテル・フォテーヌに寄ってから帰ることを知った国王陛下は「私も行こう」と発言し、周囲が慌てる気の毒な状況を作り出した。


 私は馬車の中で、王城の門とホテル・フォンテーヌについての説明をうけた。


「マイ・レディ、王城には貴族用の門が三つございます、正面の中央門と左右500メートル離れたところに東門・西門の三つでございます。使える門は身分で分かれておりまして、公爵家が使うのは中央門でございます。

 各門から城下に真っすぐに伸びる中央大通り、中央西通り、中央東通りがあり、中央大通りと中央東通りに交わる内堀と外堀の間の一区画がホテル・フォンテーヌの敷地になっております」


 拝領したホテルは、小さい古城を利用し余剰の何部屋かを貸出しているプチシャトーホテルのイメージだった……。


 機械馬六頭だての王家の馬車が、近衛騎馬隊に囲まれ物々しい雰囲気で中央大通りと外堀通りのコーナーにある、見るものを圧倒させるホテル・フォンテーヌのメインエントランスに着いた。白亜の巨大神殿のようなホテルだ。


「ローズ、手を」

「はい」


 どうみても……総従業員10名程度のプチシャトーホテルではない。


「ココどうだ、美しいホテルだろう。

 かつての迎賓館を増築した、今はわが国が誇る最高級のホテルだ」


 国王陛下が誇らしげに言った。

 色々と説明が遅いと思う、聞かない私が悪いの?

 こんなに大きいホテルだなんて……。


 多くの従業員がエントランス前に揃っていた。

 私はセスに手を引かれ、国王陛下の後に続いて赤い絨毯の上を進んだ。

 正面階段を数段昇ったところで、国王陛下は振り向いて従業員を見まわした。セスと私は、国王陛下の後ろに回り込み、斜め後ろに控えた。


 あの日から、このホテルの管理経営権・人事権等の主な権利が王家から私に移った。


 王家直轄のホテルから、公爵家が管理経営するホテルになったわけで、ホテル従業員は何て思うかな? 特に幹部従業員は?


「ローズ、考えないで……未成年後見人の陛下に任せて」


 触れるか触れないかの距離にいるセスが囁いた。


「ココ、こちらへ」


 陛下の横に並ぶように言われた。


 そうだ、私は未成年だ。国王陛下にお任せしよう。

 私ができるのは、姿勢よく立つことぐらいだ。


「国王陛下、エティエンヌ公爵、ようこそお越しくださいました」

「変わりないか、エッシャー総支配人」

「ははっ」


 国王陛下は、総支配人および従業員をもう一度見まわして言った。


「このホテルの管理経営権を含む多くの権利は、ローズ・カグヤ・エティエンヌ公爵が有することになった。公爵は、未成年者のため王家が後見を務めエティエンヌ家の財産管理を行う。これまでのように、いやそれ以上の働きを期待する」


「はっ、国王陛下・エティエンヌ公爵、幾久しく心よりお仕えいたします」


 エッシャー総支配人はそう応え礼をとり、出迎えていた従業員がみな一斉に礼をとった。

 今まで見たことのない、景色だった。


 仰々しい雰囲気の入場になったが、ホテル内に入り数歩進むと、吹き抜けでガラス張りの美しい空間が広がっていた、ガラスの向こうに中庭が広がっている。開放的な雰囲気だ。

 右側に進むと宿泊棟、左側がレストランやショップが入っている商業棟と説明された。


「ここは、当ホテルのメインラウンジと奥がメインダイニングレストランでございます」


 エッシャー総支配人の説明を受け左側に目をやると、広いオープンスペースにかなり間隔をあけてソファー席とテーブル席が広がっていた。


 営業中のラウンジとレストランのお客様がみな起立し、国王陛下に礼を取っている。国王陛下が、座るようにと手で示すと、起立した人たちは礼を解除し徐々に席に着いた。


 なんだか……一人でフラッとお茶ができる雰囲気じゃないのね。


 国王陛下が総支配人に目をやった。


「是非、宿泊棟最上階に新設いたしましたカフェをお使いください」

「エッシャー総支配人、もう仕上がったのか?」

「はい、陛下。バー・ブルームーンは、本日開業予定でございます」


 私は、カクテルを思い出した。良いことがあった時に一人で楽しむ特別なカクテルだ。あの時も、アップルティーニの後にジンとパルフェタムールを使ったショートカクテル・ブルームーンを頼んだ。

 あっ、もしかして……。


 国王陛下を見ると不敵な笑みを浮かべている。まるで、いたずらに成功した少年のようだ。


 王宮に用意されていたラフな服もホットチョコレートも気のせいではないのかもしれない。15歳で即位した国王陛下も何かを拗らせているようだ。

 私は、ふっと小さい笑いを漏らした。


「ローズ? 高いところは苦手なの?」

「いえ。是非、そのバー・ブルームーンへ」



 お昼はカフェ、夜になると明かりを落としてバー営業できるようにシックな作りだった。周囲に高い建物もなく最上階だけあって、城下が一望できた。

 観光スポットにもなりそうだ。


「なにか、カクテルをお作りしましょうか?」


 ブルームーンの責任者が、挨拶の後に続けた。


「ローズ、強いお酒だけど大丈夫?」


 おいおい大人の方達! 止めなきゃダメでしょ。

 お昼だし、お酒を飲みなれていない身体だし。う~、飲みたい。

 この国では、保護者の許可監督があれば大丈夫だけど……。

 一杯だけなら、弱いカクテルなら……。

 でも、ここでブルームーンを頼まなくて良いのかしら?


「ココには好きな物を頼んでくれ、我々はブロンクステラスを」

「えっ、ブロンクステラス……季節的にも良いですねっ」

「ローズは、お酒が強いのかな?」

「ココは強い。未成年を気にしているのか? 王命なら気兼ねなく選べるか?」


 国王陛下! 時々鋭い。


「マイ・レディ、ティーリキュールを使用したものは?」

「あっ、ダージリンクーラーにします」

「かしこまりました」


「ローズそれは?」

「紅茶のリキュールを使った、飲みやすいロングカクテルです」

「では、我々もそれにしよう」

「かしこまりました、皆様にダージリンクーラーをご用意します」


 年に数回飲むカクテルだ、甘さっぱりで美味しい。


「ラムセス、ココ、最低でも週に一回は食事を共にしよう」

「「はい」」

「ラムセス、ココ、先に失礼する。二人はゆっくりして行け」


 陛下は、そう言い残し王宮へと戻っていった。


 窓から城下を眺めていたらセスが、通り・建物・広場の説明をしてくれた。向かって右奥に見える森が、私達が帰るフォード公爵領と説明された。きっと、その奥に見える山も全部フォード領なのだろう。王都観光をした気分になった。



 セスに手を引かれエントランスを出ると、ピンクゴールドの機械馬が繋がれた馬車が人目を引いていた。私も気になる。


「あのピンクゴールドの機械馬には、どういう意味があるのですか?」

「エティエンヌ家の馬だという意味がある」

「そ、そうでしたか……」

「夜は、外堀内側は許可のある馬車しか通行できない。それも各所に検問がある。でもローズは、この馬に繋がれた馬車を使えば許可も検問も不要になる」


 かえって目立つ。ますますフラッと一人お茶は難しい。


「さぁ、乗ろう」


 セスに手をとられた勢いで、私は馬車に乗ってしまった。

 馬車が浮いて滑るように走り始めてから、フォンテーヌの私の居住区画を案内すると説明された。


 ホテルを離れてしまったのに?



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