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コンコンコンコン
「「おはようございます」」
「お嬢様、お目覚めください」
あっ、また朝かぁ、起きるのが辛い。
「……おはようございます、サリ、ミヤ」
王宮にきて4回目の朝がきた。
吸入薬を使う、カウンターは残42。
「お嬢様、朝のお召し物はどうなさいますか?」
今日は少し変えよう、ハードにするかガーリーにするか?
私は不思議な形の黒いスカートを手にした。ミヤが、厚手ザックリ編み五部袖の黒色タートルニットとフワフワ素材のノースリーブの白色タートルニットを手にしていた。
黒黒にしたいが……。
「朝から黒黒は良くない?」
「白ニットにして黒のフード付きのショート丈のカーディガンを羽織られますか?」
「そうします、あとニーハイブーツで」
「かしこまりました」
うんうん、個性的な雰囲気になった。
召喚時に伸びたこの髪を何とかしよう。
「朝食まで時間があるなら、少し髪を切ってもらいたいのだけど特に前髪を」
「お嬢様! それはいけません」
えっ、いきなり否定された。どうして?
「では、ミヤお願いできる?」
「レディ・カグヤ、それは難しいお話です」
今度は、難しいかぁ。
仕方ない、自分で切ろう。
「ハサミは?」
コンコンコン
「ローズ、髪を切るってどうして?」
あっ、セス。いつの間に……誰が呼びに行ったの?
「おはようございます、セス様」
「ローズ、おはよう。何があったの?」
「以前は、もっと短かったのです。今日のお洋服って以前に見たことある雰囲気で、髪も以前のように短く――」
「ローズを傷つけることはできない」
えっとぉ~、髪を切っても傷つかない。
この世界では、髪を切ると流血するの?
私の髪には血が流れているの?それってホラーすぎる。
「ローズ、髪は神聖なものだよ大切にして欲しい」
本当かな? 爪は削って整えているのに?
「レディ・カグヤの綺麗な髪ならではの髪型があります。編ませていただいてもよろしいですか?」
「ローズ、そうしよう。ねっ、ローズ?」
仕方ない! 今日は引こう。髪を切れないとわかると猛烈に切りたくなる。
いつかハサミを見つけたらこっそり切ってみよう。
高い位置で複雑に編まれ、個性的な雰囲気に仕上がった。
「ミヤ、これはローズのうなじが見えてしまう」
「セス様、タートルネックだから見えません」
「ローズの襟足がみえてしまう……」
「部屋から出る時はフードをかぶります、だから大丈夫です」
もう、何なのこの会話……。
「ローズそれもダメだ、フード越しの黒い瞳は魅惑的で……その……」
親目線が強すぎる。いや違う、何目線だ? その赤面は何ですか?
皆が、かなり引き気味だ。私はお腹がすいた! ご飯が食べたい。
「フォード卿、朝食は隣のリビングで取り、マイ・レディには朝食後に着替えていただければよろしいかと」
「そうしよう」
えっ、この服や髪型は短命なの?
隣室で朝食が始まった。
朝食後、白タートルを黒タートルにして、髪を下ろした。
「ミヤ、なんだかごめんなさい」
「レデイ・カグヤ! そのような発言は、おやめください」
「だって、朝の服と髪が……特にあの髪型が……」
「今度は、フォード公爵が納得する髪型に致しましょう」
「ありがとう、ミヤ」
リビングに戻ると、先の筆頭魔術師のランカスター卿が登城したと連絡が入った。
白いサロンダイニングに黒黒の服でセスにエスコートされて着いた。
白い服にすればよかった。
国王陛下と黒いローブの人がいた。
その人は前筆頭魔術師エーリック・ラナ・ランカスターと名乗った。
「ランカスター卿、早々に確認させて欲しい。召喚後の適合と共有とは?」
国王陛下が開口一番に適合について確認した。
「陛下、確認させてください。今回の召喚は目的ではななく手段だったと?」
「ああ、その通りだ」
「手段のために召喚術を展開すると、刀剣の顕現で終了とはなりません。この事は記録に残せなくなっています。顕現した刀剣に何か変化はございましたか?」
「ああ、発光して形を変えた」
「それは、良い兆候です。適合の時期について明言することはできませんが、適合は難しく無いと思われます」
国王陛下は、但し書きの一年以内という記載に触れた。
「それは、私達の召喚の時には一年という期限はありませんでした。むしろ、その記載があれば……いや、結果論に過ぎないか……」
ランカスター卿は、再び口を開いた。
「15年前、王政廃止を望む反体制派を倒す目的で、王命により2人の魔術師が異世界召喚を行い、エリカという少女が召喚されました。召喚直後は色々とありましたが、やがて……。
エリカは、血の提供者に密かに恋をし、国王はエリカに思いを寄せました。
エリカは召喚されて1年程度で適合し、それを周囲に悟られないようにしていました。我々は、全く気づきませんでした。やがて、エリカは刀剣を手に我々と一緒に反体制派と戦うようになりました。
エリカが召喚されて3数年がたった頃、反体制派との戦いの際に、血の提供者がエリカをかばって瀕死の状態となり、エリカも致命傷を負いました。
その時、エリカは適合の事実を告白し、刀剣の力で血の提供者を助けたいと言い出しました。
しかし、国王は刀剣の力でエリカを助けることを私に命じました。
私は国王陛下の命に従いエリカを助け、筆頭魔術師に就任し、血の提供者を見送りました。
残念なことに……私が筆頭魔術師に就任した際の魔力増強だけでは、反体制派を鎮めることができず。その2年後、先の内乱事件がおこり。陛下の崩御を機に、私は筆頭魔術師を辞しエリカと共に辺境へと渡った次第です。
適合の事実を秘したエリカは、適合直後に刀剣の力で反体制派を倒していれば……と適合を隠していたことを後悔し続けました。
あの時も今回のように一年の記載があれば……。
我々のような後悔をしないように召喚当初の目的を果たし、晴れて筆頭魔術師に就任していただきたい」
ランカスター卿は、手を強く握ったまま話を終えた。
なんと言えばいいのか……濃い話にも感じたが、随分と身勝手な言い分にも聞こえた。
刀剣を召喚当初の目的以外に使った自分たちは後悔したから正しく使って欲しいと力説されても……正しく使っても後悔するかもしれないという事を考えての発言だろうか?
その時の国王陛下は、結果的に自分の愛する人と国を天秤にかけたということ? でエリカさんを置き去りにして崩御。
その時の異世界召喚は、混乱を招いた無駄な行いだったのでは?
そもそも異世界召喚って後出しジャンケン的で不快だ。
「あなたが異世界からの方ですか?」
「はい、ローズでございます」
「エリカが貴女に会いたいと、ただ心臓を悪くして連れてこられませんでした。異世界からの少女が来たことを知って、きっと不安がっているだろうからと、これを……」
「まぁ綺麗な刺繍ですね、エリカ様が?」
「エリカは、刺繍が得意でして」
綺麗な刺繍が施されたハンカチだった。これは観賞用のハンカチかな?
「ありがとうございます。額装しますね」
「エリカが喜びます」
「ランカスター卿は治癒魔法に秀でていらっしゃったと聞いております。ローズの病気を診ていただけませんか?」
「ローズ様は、どちらかお悪いのですか?」
「ローズは、気道が狭くなる気管支喘息を患っております。ローズの病気の根治治療をまずお願いしたい。それが無理なら治療薬である吸入薬の複製のための力を貸していただきたい」
「適合の件でランカスー卿に緊急の登城を依頼したが、今は何よりも先にココの治療を優先してお願いしたい」
セスの後に、国王陛下が喘息治療を口にした。
「治癒魔法は、外傷に対して効果的ですが、内部疾患には効き目は弱いものです。召喚時に病気・怪我のない状態に錬成しますが、本来の体質までには及びません。エリカの心臓疾患も治せない状態が続いています、ローズ様の慢性疾患も根治は難しいと推測されます。ただ、治療薬が召喚時にこちらに来ているのならば、それについては喜んで協力いたします」
「ランカスター卿、感謝する」
「ランカスター卿、ありがとうございます」
何だか私の知らないところで、私の意思と関係なく、色々と……。
あれ以来、喘息の話は出ていなかったからてっきり優先順位は下がったのかと思っていたけれど……。




