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 喘息を告白して、召喚について聞かされて、各種試験を受けて、謎の誓約書をみて、身分が固まって……目まぐるしい。ゆっくり一人で振り返りたい、今後を考えたい、その時間というか余裕がない。

 仮に時間があっても、私の精神的キャパを超えている、新しい情報が多すぎる、事が大きすぎる、それも次々と……。


 知れば知るほど、進むことも戻ることも出来なくなる。

 喘息発作が治まっているのに……息苦しい。


「ローズ様、今ここでお身体の状態を確認させていただいてもよろしいですか?」


 セスが、真っ先に「はい、お願いします」と答えた。

 前筆頭魔術師は、治癒魔法は内部疾患に効き目が弱いと断言し、耳障りの良い事を言わなかった。

 純粋に診て欲しいと思い、私も頷いた。


 ランカスター卿が、私に手をかざした。


 喘息が治らなくても、吸入薬が無くなっても穏やかに過ごしたい。

 私にもそんな時間軸があっても良いのでは?

 そして、この世界が叶えてくれるのでは?


 今、私は比較的穏やかに生きている、明日もきっと穏やかだろう。

 そして、その穏やかな時間はできれば長くあって欲しい。




 コンコン コンコン


「レディ・カグヤ。お目覚めのお時間です」

「お嬢様?」


 今朝も身体が重い。


「お嬢様、あまり体調がすぐれませんか?」

「……お……おはようございます、ミヤ、サリ」

「甘いお茶をお持ちします」

「お嬢様、こちらを……」


 私は、サリに引き起こされ厚手の大判ストールを肩にかけられた。ベッドヘッドと背中の間にメイド達がクッションを挟み、寄りかかれるようにしてくれた。なんとか座位を保っているが、身体がゆらゆらする。


 何だが寝室の扉の向こうが騒がしい。朝から、何だろう? あ~だるい。


 コンコンコン


「ローズ、お茶を持ってきたよ」


 あっ、セス……それにしても眠い身体が重い……。


「ローズ、どう具合が悪いの? 喉は?」

「……おはようございます、セス様」

「ああ、ローズおはよう。お茶を飲んで、ジャムを入れてきたから」

「……はい、ありがとうございます」


 セスはベッドに座り、私の上半身を支えマグカップを渡してきた。いつもの優しい肩と腕に背を預けた。

 マグカップの中はイチゴジャムティーだった。

 マグカップあったの? 久しぶりに見た。


 ジャムの香りとお茶の香りが眠気を取ってくれる。


「美味しい~、ありがとうございます。セス様」

「王宮に来てからのローズは寝起きが悪いと聞いていた……」

「疲れが取れないというか、今朝はベッドに根が生えたように重くて、はじめの一歩というか、指一本動かすまでが重くて……」


 この数日の心身の疲れが出たのか?

 この辛さは、まさに月曜の朝「もう週末が終わったの? こんなに身体が重いのに仕事だぁ~、起きなきゃ~、次の週末までが長すぎる……」という感覚だ。懐かしいけど、できれば思い出したくなかった。手をグーにして目頭と眉毛の間を軽く押した。


「ローズ、今日のお茶会は断ろう」


 ん? お茶会って聞こえたけど……それって何かしら?

 白銀の王子じゃなくて、私の白銀の執事からはそのような予定は聞いていない。


「マイ・レディ、医師がまいりました」

「あっ、白……ヒース。おはようございます、わざわざ医師をありがとうございます」

「マイ・レディ、私にそのような過分なお言葉は不要でございます。診察をお受けください」

「はい」


 診察結果は、疲労と血圧低下だった。

 診察後、やっと朝の準備が始まった。


 王宮にきて5回目の朝は騒がしかった。


 吸入薬を使う、カウンターは残41。


 朝の準備が終わると、セスがやって来て私を抱き上げリビングに運んだ。今朝は、だるさに負けて「歩けます」と言えず、甘えてしまった。

 リビングには私の定番朝ごはんが並んでいる、まるで魔法のテーブルだ。

 今朝のホットチョコレートコーヒーも抜群の美味しさだった。

 食後には、身体の重さは消えていた。


「ローズ、今日は王宮でお茶会があるんだ。急にローズの参加を求められて返事を今日の午前中にすることになっているのだけど……」

「できましたら、お断りしたいです」


 私がそう答えると、セスはヒースに視線を送った。


「正式にフォード卿とエティエンヌ卿のお断りの旨を伝えてまいります」

「セス様は、出席してください」

「ローズ?」

「マイ・レディ、フォード卿は一度もゲストとして参加したことは無く……」

「だったら余計、参加してみては?」

「ローズ、離れないと約束し――」

「私は欠席の旨を伝えてまいります、失礼します」


 話しの最中でヒースが出て行った。

 この2人の間にも独特の雰囲気がある。

 えっ、こちらも? 漆黒のセスと白銀のヒース!


「朝の紅茶は、ローズの口にあった?」

「はい、セス様に支えられながら美味しいイチゴジャムティーをいただけて幸せでした」


 しまった、つい本当の事を言ってしまった。


「ローズ! 毎朝、淹れてあげる、そして私の腕の中で――」

「えっ、セス様の手ずからの紅茶だったのですね、それは美味しいはずです」

「ローズ! では、これから毎朝――」


 セスの瞳がキラキラしている。この目を見てしまうと私はドキドキしてくる。

 そしてすぐに流されてはいけない! とスッと心が冷える。


 セスには、私の言葉に縛られないで欲しい。私は応えられないから……。


「あの紅茶は、私の目覚めが悪い時にだけにしてください」

「ローズ、そんなこと言わないで……」

「毎日なんてもったいないです! ジャムティー効果が薄れてしまいます」


「あのマグカップはどこから?」

「あれはローズ専用食器の試作品の1つだよ」

「そうでしたか……」

「ローズはあのマグカップを気に入った?」

「はい、あれは可愛くて重すぎず手に馴染みました」

「そう、エティエンヌの家紋にするかローズ個人の印で揃えるか思案中でね――」


 家紋? 印?

 エティエンヌの家紋は、王家から分派しているだけあって王家の紋と似ている。

 私の印なんてないはず、ローズという名はフォード家の薔薇の家紋から来ている、私の印となると薔薇になるの? セスにお任せしよう。


「ローズ少し横になる?」

「そうしたいのですが、ここで横になると眠ってしまって、夜眠れないという悪循環になってしまうので逆に少し動いた方が……」


「旦那様、お嬢様、それでしたら王宮博物館を見学なされては?」

「そうだな、この時間は一般開放していないから人目はないな、陛下の許可を取ろう」

「大丈夫でございます。王宮博物館・美術館・絵画館・庭園・温室等の見学・行動の許可をいただいております、警護の人員も準備されております」

「ローズ、どこか見たいところは?」


「マイ・レディ、こちらが各施設のリーフレットでございます」


 いつのまにかヨハンの横にヒースが戻っていた。

 この空気感からの黒子感、すごいスキルだ。


「ヒースのおすすめは?」

「えっ、私でしたら屋内移動で一番近い距離にあります美術館をおすすめします」

「セス様のおすすめは?」

「ローズの行きたいところだよ」


 う~、この人はこういう時に「どちらでも」「何でも」を使うタイプのようだ。


「では、美術館へ行きたいです」

「では、そうしよう。サリ、ローズの準備を頼む。ヨハン、私も一度部屋に戻る」

「「かしこまりました」」


 私の準備が終わった頃に、ジャケットを羽織ったセスが迎えにきた。



 ※



 今朝、試作品の食器を持ってローズの部屋へ向かうために廊下に出た時だった、ミヤが「レディ・カグヤに目覚まし用に温かい甘いお茶を用意して」と厨房にメイドを走らせたのを耳にした私は慌てた。王宮に滞在するようになってからローズの寝起きが悪く、毎朝辛そうだと報告を受けていた。

 私の客間に準備されていたお茶道具をすぐローズの客間に運ばせ、私は紅茶を注ぎジャムを溶かした。


 ローズは、一日に予定を詰めること、毎日予定を入れる事を嫌がった。その理由が、今朝のローズを見てよくわかった、辛そうだった。

 具合の悪いローズは、何の抵抗もせず私の腕の中におさまった。私の視線にも気づかず紅茶を飲み、最後にスプーンでイチゴを食べた。


 それをローズは美味しいと言い、幸せと表現した。

 ローズが、幸せと言う言葉を初めて口にした。

 毎朝、私の腕のなかで目覚ましのお茶をのむように提案したが、やんわりと断られてしまった。


 ジャムティーでなければ、良いのだろうか?



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