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 国王陛下が、未成年後見人選定と爵位授与の儀の説明を終え政務室へと消えた。


 セスが、何かの書類を手にして笑顔で近づいてきた。


「ローズ、取り決めの文書案が出来たんだ確認して欲しい」


 取り決めの文書? ん?


 あっ、そんなことを言った事もあった。あれは、私の生きる道が長いと思っていた時で……状況が変わって、もう要らないかも。

 見て見てぇ~と言わんがばかりにセスが、ひらひらと紙を差し出してくる。

 もう要らない、とは言えない。

 せめて、向こう3年の時限付きで作成してもらうべきだった。


 セスの手から、ひらひら紙を受け取り、目を通した。



 ーーー


   誓約書(案)


 件  名 ローズのための取り決め


 履行期間 誓約締結の日から未来永劫


 誓約条項

  1. 甲は、最終的に乙をセスと呼ぶ。

  2. 甲と乙は、一日三回以上の食事・六回以上のお茶を共にする。

  3. 甲と乙は、屋敷内外の移動を共にする。

  4. 乙は、甲に要する衣食住・教育・遊興娯楽・その他全ての費用を負担する。

  5. 乙は、いかなるときも甲を優先する。


 不履行規定

 誓約が履行されない時、乙は甲の一日を自由にすることができる。


 特記事項

 この誓約書にないことで問題が発生したときは、速やかに協議し解決する。


      誓約年月日 フォンテ国暦   年   月   日


          甲 ローズ・カグヤ・エティエンヌ

          乙 ラムセス・ラナ・フォード


 ーーー



 こ、これは……なに、何の制約だ?

 件名がおかしい、履行期限はなんだ?

 条項内容も変だ、呼称問題は解決したはず、食事は日に最高三回しかない。

 不履行規定はなんだ、私の不履行しか想定されていない、不平等なだけでなく尊厳・貞操の危機を感じる。


 この人は、側近として国を支えたというのは、嘘?


「ローズ、契約書よりは誓約の方が適しているよね、どうかな?」


 どうかな? ではない。だからこれは誓約でなく制約だ!


 気絶という技をサリに聞いておけばよかった。

 やはり少し、一人になりたい。


「ローズ? 一つずつ説明しようか?」


 あ~、この人は目をキラキラさせて……。


「セス様、ありがとうございます。少し検討させてください」

「ローズ? 既に気になっているところがあったら教えて欲しい」

「あの、私を優先するとありますが……」

「なにか問題でも?」


 矛盾だらけだよ、これ。全知全能の神的な……。

 それとも、最初に相手が予期できぬ悪条件を突き付けて最大譲歩を勝ち取る的な交渉術とか?


 試しに……。


「私が一人でご飯を食べたいと言ったら、私の意思は優先されますか?」

「もちろんだよ、でもローズ……少食のローズに一日四食は、心配だよ」


 そうきたか! 私、負けない。


「私が、どうしても一人で庭を歩きたいと言ったら? 私の意思は優先されますか?」

「ローズ、どうしてそんな酷いことを言うんだ……」


 本当に酷い、酷すぎる! この人、誰?

 私の知っている残念なセスより、かなり残念だ。


「ローズ、よくこんな齟齬に気づいたね。さすがローズだ」


 いやいや全然嬉しくないし……。

 外交も担っていたのでは? いや、ないわ~。


「あの、履行期間は三年毎の更新に、条項は四番目だけを残して、不履行規定は全面見直し、特記事項はそのままが良いのではないでしょうか?」


 あっ、聞いていない……。


「あっローズ、これもう少し時間をくれるかな?」

「はい、年明けにでも……」


 年明けかぁ~。新年をきっと迎えられる、そう信じている私がいる。

 今を丁寧に生きよう。





「お嬢様、お目覚めください」

「レデイ・カグヤ、お目覚めの時刻でございます」

「お嬢様?」


 あっ、もう朝かぁ。


「……おはようございます、サリ、ミヤ」


 朝は、まずは吸入を、カウンターは残43。


 今日は、新しい身分を取得できる日だ。



 セスに手を引かれ、王城の叙爵の間に着いた。

 厳かな雰囲気と召集された九名の立会人である高位貴族からの好奇の視線を感じる。値踏みされている?


 壇上の中央に、宰相のラロール卿が進んだ。


「ただいまから、ローズ・カグヤの未成年後見人選定と爵位授与の儀を行います。本儀には、エティエンヌ公爵家の再興も含まれます。

 司会進行は宰相ハンセン・モル・ラロールが務めさせていただきます。

 立会人はご静粛に願います。まず王立裁判所長官お願いします」


 黒い法衣の王立裁判所長官が、壇上中央に進んだ。


「王立裁判所は、ローズ・カグヤ 15歳にフォンテ国の永住権を認める。

 ローズ・カグヤの未成年後見人は、アレクサンダー・ラナ・フュー・フォンテとする。

 なお、未成年後見人の任期は、ローズ・カグヤの成人の日までとする」


「私、ローズ・カグヤの未成年後見人アレクサンダー・ラナ・フュー・フォンテは、ローズ・カグヤの身上監護権をラムセス・ラナ・フォードに委嘱する」


 王立裁判所長官が、立会人を見まわし告げた。


「ローズ・カグヤの永住権取得、未成年後見人選定・身上監護権委嘱に異議ある者は挙手を…………異議なし。これにより本件は本日を発効日とする、以上。」


 立会人から拍手が起こる。セスが嬉しそうだ。


 王立裁判所長官が壇上から降り、司会が続ける。


「王立裁判所長官ありがとうございました。

 引き続き、エティエンヌ公爵家再興について、貴族裁判所長官お願いします」


 黒い法衣を着た貴族裁判所長官が、壇上に進んだ。

 どこの世界でも法衣は、何にも染まらない黒と決まっているのかしら?


「貴族裁判所は、王家の申し出に基づき本日エティエンヌ公爵家を再興する。

 異議ある者は、挙手を…………異議なし。これにより本件は本日を発効日する、以上」


 貴族裁判所長官は壇上から降りず、数歩端に寄った。

 司会が続ける。


「これから爵位授与の儀を行います。

 爵位授与は国王陛下による国事行為ですが、国王陛下がローズ・カグヤの未成年後見人で当事者に該当します。フォンテ国法に基づき国王職務代理を貴族裁判所長官が行います。

 貴族裁判所長官お願いします」


 貴族裁判所長官は、壇上中央に進んだ。


「フォンテ国は、ローズ・カグヤにエティエンヌ公爵位を授与する。

 エティエンヌ公爵家は一代限りとする。

 エティエンヌ公爵家には王家所有のホテル・フォンテーヌの譲渡権以外の全ての権利を委譲することを認める。以上」


 これは決定事項の宣言で発効するらしい。ふむふむ。

 私の名前が増えゆく……、綴りが不安だ。


「国王職務代理・貴族裁判所長官、ありがとうございました。

「これをもちまして、ローズ・カグヤ・エティエンヌの未成年後見人選定と爵位授与の儀を終了致します」


 司会の言葉を機に立会人から拍手が起こる。

 国王陛下が、拍手を制した。


「この場を借り未成年後見人は、エティエンヌ公爵家人事を発表する。

 エティエンヌ家の執事をヒースクリフ・ラナ・ベルナションと定める。その他の使用人については、後見人・監護者・執事の協議にて適宜決定する、以上」


 この国では、貴族に仕える執事の身分は高く、王家の許可が必要となる。

 高位貴族家の人事は何かと騒がしいため、その牽制も兼ねて既に執事が決まっている事が宣言された。


 国王陛下が壇上中央に進んだ、国王陛下の顔だった。


「本日は、みなご苦労であった」


「立会人は、ご署名後に隣室にお移りください。宴席をもうけております」


 ラロール卿の言葉により、立会人達は署名台へと動き始めた。


 私の身分取得は、あっけなく終わった。

 戸籍簿と住民基本台帳で国籍・氏名・年齢・住所等を公証されていた日本人としては、身分が公証されることは、何はともあれ嬉しい。ホッとする。


 ホッと……する? 今後を予想できない身分だけど……。


 エティエンヌ公爵家は、王族の臣籍降下のために用意された公爵家だった。その後他国の皇子・皇女がお忍びで長期留学する際に身分を偽るためのに使われた、偽りの公爵家。偽りの私にピッタリだ。


 爵位を示すバッジや目録等の全てを未成年後見人の国王陛下が受け取った。サリとミヤのあの訓練は何だったのだろう?

 昨日、練習した合言葉。皆が「「エティエンヌ公爵の栄光は、フォンテ国の繁栄と共に!」」と言い、私が「フォンテ国の繁栄と共に!」と応えるあれは……どうなったの?


 仰々しいより、シンプルで良かったのかな? うん、そうに違いない!



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