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怒りを封印してもしても召喚に対する怒りが湧いてきた。そのたびにまた封印をするために心を使う、もう疲れた。
謝罪を受け入れれば、楽になれるのかな?
「もっと早い段階で召喚についての説明をいただけなかった事を残念に思います」
やはり、私が私を許せないのかな? でももう疲れた。
今は、次に進みたい。
「私は、丁寧な謝罪の言葉を受け入れます」
「ココ、感謝する」
国王陛下とセスが目を合わせ嬉しそうだ、なんだか二人の目がうるうるしている? なんの感慨に浸っているのか分からないけど、質問をできる時にしておこう。
「国王陛下、まだ隠されている事は?」
「これで全てだ。
適合については、前筆頭魔術師のランカスター卿に確認を急いでいる。近日登城予定だ、その時はラムセスもココも同席して欲しい」
「セス様が就任して、私が適合すれば、本当に召喚魔導書を消滅できるのですか?」
「それしか……残された道は無かった。ココが適合してから、ラムセスの就任式を行う予定でいる」
それって、確証ない見切り発車では? 楽観視が過ぎるのでは?
私の感想や見解は控えて、質問に戻ろう。
「お二人に落ちる影というのは、具体的には?」
「我々の事は、気にしないでくれ。我々は、魔術を使える影ぐらい大丈夫だ」
そうなの? 私の扱いが良いのは影のせいではなかったの?
魔術で何とかなるとか言っているけど、考えが甘いのでは?
でも、当事者がそれで良いならそれまでか……。
「筆頭魔術師の選考方法が秘匿されているのなら、私の存在も秘匿され続けるという理解でよろしいですか?」
「ココは、異国の姫・高位貴族という立場だ。近々、ココが自由に振る舞えるだけの身分を用意する」
異世界召喚の事実だけが秘匿されるのか。
「では、今回の召喚を知っている者はどの程度、何人ぐらい?」
「知っているのは、血の提供者である私、術式を展開したラムセス、側近のヒースだけだ」
そうだ、召喚が魔導書と血の提供者と術式の展開者で成り立っていたんだった。あれ? 何か確認しなくてはいけない事が……、何だったかしら?
「召喚時に、複数の人の声を聞きました、立会人のような存在がいらしたのでは?」
「ああ、立会人として宰相と魔術魔石省長官と側近のヒースの三人がいた。
ヒースを除く二人には、ココの出現と刀剣の顕現をもって召喚成功とし、筆頭魔術師内定の立合宣誓書に二人の署名を取った。後に二人の記憶をいじった」
「その記憶をいじるというのは?」
「召喚の間で見たことに関する記憶を無くすということだ」
「記憶が戻るようなことは?」
「まず無い。もし記憶が戻っても誓約魔法を施してある。召喚の事を第三者に話そうとすると声が出せず、文字にしようとすると手が動かなくなる等あらゆる伝達が出来なくしてある」
凄い危機管理だ。記憶をいじるなんて酷い話だ……。
あれ? プラチナブロンドの側近さんは?
「側近の方の記憶をいじらなかったのは?」
「ラナの称号を有する者の記憶をいじるのは現実的ではないので、制約魔法だけとなっている」
ラナって? 覚えていたら後で誰かに聞こう。ヨハンかサリに……ん?
「私、召喚という言葉をヨハンとサリの前で……」
「ローズ、屋敷内では私は頻繁に結界を使用している。外の音は拾えるがこちらの音は漏れていない。かつ異世界や召喚という言葉は、異国や旅と認識されるようにしてある」
そうでしたか……抜け目がないことで……。
「あっ、あの先ほど……サリに誓約って?」
「ローズは、我々と心と病を共有している、それは陛下の弱点に繋がり兼ねない。
ローズ自身がすでに重要な存在となっている。そのローズの重要秘匿事項をサリは知ってしまったから誓約魔法を使った」
そして、これが私が厚遇される最たる理由かしら?
「私に誓約の必要は?」
「ココには、そんなことはしない」
異世界・異能力感が満載だ。
舞台劇を客席で見ていたら、いつの間にか劇中劇の台詞付きの観客役になっていた……そんな感じだ。
「色々考えたいので、しばらく一人にしてください」
「ココ、聞きたいことがあればいつでも聞いてくれ」
「ローズ、そうしてあげたいのだけどドレスの確認が……」
ドレス! なにそれ?
セスにエスコートされて部屋へ戻ると、ローブモンタントを纏った二体のトルソーがあった。
「おかえりなさいませ、お待ちしておりました」
キラリンモードのサリがうれしそうに迎えてくれた。
金糸が織り込まれた白色のシルクシャンタンの丸襟のドレス。
ローズピンク色のシルクサテンのスタンド襟のドレス。
両方とも長袖・床丈・タイトラインのシンプルなデザインの昼間の正装用のドレスだ。元の世界で高貴な方たちがお召しだった記憶がある。素材が良いから、二点とも輝いて見える。
「きれいなローブモンタントですね」
「お嬢様は、綺麗な着こなしをなさいますから選ぶのが楽しみです」
サリとミヤが、トルソーからドレスを脱がし始めた。
「歩くのが不安かも? こんなロングタイト」
「ローズ、私がエスコートするから安心して」
「ところで、これは何のために?」
「明後日の午前にローズの未成年後見人選定と爵位授与の儀を執り行うからだよ」
なぜ、急に……あっ私、勝手に決めてくれ的な事を発言したかも。
そうそう、さっきも……近々、身分を用意するとか言われたような。
地味に頭髪が気になって……ふと笑いそうになったり……。大事な局面だったのに集中が何度も切れて、大きな見落としがありそうで、不安だ~。
「さぁ、お嬢様。ドレッシングルームへ」
まず白色のドレスを着た、同素材の楕円形のヘッドドレスをペタッと頭に付けた。白のグローブ、靴は8センチヒールのドレスと同じ布が使われているパンプスだった。これは脱げそう。
サリに手を引かれ、リビングへ向かった。
「ローズ! 似合ってます。さぁ、アクセサリーを付けよう」
セスが三連パールのチョーカーとパールイヤリングを飾ってくれた。
「お嬢様、バッグと扇子をお持ちください。扇子はこの角度で」
「はい」
この国は、扇ではなく扇子なんだ……。
「旦那様、隣にお立ちください」
「ああ」
「お嬢様、エスコートを受けて歩く際は、扇子はこうでございます」
「はい」
「では、お嬢様が一人で立っているところに旦那様が来て歩き出す、この流れをなさってください」
「「はい」」
「次は、二人で一緒に歩いて止まる、そこらか旦那様が離れる、この流れをなさってください」
「あのぉ~、靴が脱げそうで……」
「誰か、お嬢様の足と靴を布で軽くお巻きして!」
えぇ~、サリそんな……。
ミヤに足と靴を布で巻かれ、何回も歩いたり止まったりを繰り返した。
「はい大丈夫そうですね、ではもう一つドレスを試しましょう」
「……はい」
もう、このドレスで良いのでは? それを言える雰囲気ではない……。
心を無にして、ローズピンク色のドレスを着た。おお~さすがシルクサテン、落ち感が素敵だ試着して良かった。
ドレスと同じ素材の唾の無い小さな帽子を頭に乗せた。ドレスと同色のグローブ、8センチヒールのドレスと同色のアンクルストラップの付いた靴を履いた。足が快適。
またサリに手を引かれ、セスの待つリビングへと。
「ローズ! 優しい色で似合ってます。えっと、アクセサリーは長い真珠にしよう」
「旦那様、60センチのこちらは?」
「そうだなもう少し長いのでも、ローズは?」
「私は、スタンド襟なのでマチネでもロングでもよいかと、でも式典となると……?」
またセスとサリの協議が始まった。
「レディ・カグヤ、こちらを」
「はい」
ミヤが、バッグと扇子を持たせてくれた。
講師ミヤによる、歩き方・カーテシー講座が始まった。
私の場合、左足を後ろに引いた方が安定して綺麗だと何回か練習するうちにミヤが誉めてくれた。
上半身を動かさないこの感じは、和服を着たときに立位から正座して立ち上がる時の重心移動に似ていて、それよりも簡単に感じた。教えてくれた祖母に感謝しよう。
「お嬢様、お綺麗ですよ」
「ローズにこちらのマナーを押し付けるようで申し訳ない、公式の時だけは……」
「はい、覚えます」
ドレスは白に決まった。ネックレスはパールの一連に変更され、アンクルストラップの付いた白色の靴を当日まに用意してくれるらしい。




