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昼食後、私は指定された衣装を着た。古風な装束のような……。
黒ずくめの衣装のセスが迎えに来た、あの日を思い出す。
客間を出て、長い廊下を歩き、廊下の突き当りの壁の前で止まった。
今日は、サリも他の従者もついてこない。
「ローズ、ここが召喚の間だ、足元に注意して」
ここ? と思った時だった。
浮遊感に襲われ床に浮き上がった光の輪に吸い込まれた。
セスを掴む手に力が入った。
ハッと気づくと、そこは何とも言えない空間だった。
コスプレ王子姿の国王陛下が透明の玉座にいる。
その少し斜め前に、金属の棒?が、浮かんでいる。
「ラムセス、ココ、こちらへ」
「はっ、陛下」
召喚された時、床は代理石だったような? 今回は水の床だ……でも濡れない。
壁はなく、天井は空? どこまでも青い空だ、太陽も雲もない。
「2人とも座ってくれ」
「はっ」
えっ、濡れない水床に座るの?
「ローズ、少し屈むと椅子が現れるから」
片膝を少しだけ曲げてみた。
アクリル素材? 透明な椅子が現れた。
元から置いておいて欲しい。
私は椅子に座り、水床に映り込んだ陛下とセスと棒?を水面越しに見つめた。
「ココ、召喚に至った経緯と予期せぬその後について話そう」
国王陛下は、話し始めた。
「召喚魔導書に基づき召喚術を展開すると、召喚された者の出現と同時に刀剣が顕現する。
その刀剣には、壮大な願いを叶える力が宿る。また、異世界召喚術に成功したものが筆頭魔術師に就任すると大きな力を得る。
異世界召喚術は膨大な魔力と高度な術を要するため、簡単に異世界召喚ができるわけではない。いつも適格者が存在するとは限らず、筆頭魔術師不在が続くことも珍しくなかった。
そしてこの200年間、召喚魔導書の存在と筆頭魔術師選定方法は秘匿されていた。
10年前、召喚の秘密を知る王族から離反者が出た。その者が、反体制過激派と組み召喚魔導書を手に入れようとしたことをきっかけに内乱が起きた。劣勢に陥った離反者は、後ろ盾欲しさに他国にその情報を売った。
内乱は制圧されたが、召喚魔導書の存在が明るみになった。
ただ、眉唾的な話で他国をはじめ多くの国民は召喚術の存在を信じていない。
しかし、それを信じ騒いだ一部の貴族や国を牽制するため、即位の誓いに過去の遺物とされる異世界召喚術を廃止する! と曖昧な表現を盛り込んだ。
反体制過激派の残党は潜伏している、召喚魔導書を狙う他国も行脚している。
そこで即位の誓いどおりに、異世界召喚術を廃止するための召喚魔導書の消滅を試みた。
消滅のためにできる限りの措置を講じたが、消滅に至らなかった。
最終的に、筆頭魔術師に就任することで魔力量を増し、顕現した刀剣の力と併せて召喚魔導書の消滅という方法を選択した。
召喚に至った経緯は以上だ、ラムセス補足があれば……」
「ございません」
「ココ、質問は?」
「……ございません」
つい、釣られてしまった。
「では召喚と予期せぬその後について話そう」
こういう時こそ、お茶にしても良いのでは?
あの、棒? が気になる。
「召喚についてだが、私の血を召喚魔導書の白紙のページに落とし召喚術式が浮かんだ。それに基づいてラムセスが召喚術を展開した。
ココが出現し刀剣は顕現した、召喚は成功した。10年ぶりに筆頭魔術師の空席も内定した。就任により得られる筆頭魔術師の膨大な力と、顕現した刀剣の力で魔導書を消滅させる予定だ。
予定だった……。
その後、魔導書に文字が浮かんだ……」
国王陛下が言い淀んだ。
「陛下、私から……」
「ラムセス、これは私の役目だ」
「ココ……、魔導書には……。
ーーー
刀剣は召喚されし者の命を示し、その者がこの世界に適合し時に刀剣は力を有す
血の提供者と術式の展開者は、適合の時まで召喚されし者の心と病を共有す
但し、1年以内に適合できない時、召喚されし者は消滅し血の提供者と術式の展開者に影が落ちる
ーーー
と記されていた。ココ、召喚はまだ終わっていないということだ……」
えぇっ! 私は消えて、二人にはハゲが落ちるの? それは大変!
この世界では髪が落ちることをハゲが落ちるというの? へぇ~。
こんな美しい二人が……スキンヘッドの二人を想像できない。意外と似合うのかしら? それにしても酷い表現だ『ハゲが落ちる』なんて。
でも、魔法・魔術があるのでは? 育毛魔法とか増毛魔法とか毛根移植魔法とか復元魔法とか……。
私は、二人の頭部をそっと見た。ふさふさ、まだ大丈夫!
陛下とセスが、棒に視線を送っていた。
あっ、あれが刀剣? てっきりロングソードみたいな西洋剣だと思っていた。
柄も鞘もない、何というか危険だわ~。
「それは、太刀ですか?」
「ローズは、この片刃の刀剣を知っているの?」
「これが召喚により顕現した刀剣だ、召喚翌日に刀剣は短くなり、その10日後に形を変え今の形状になった」
時代劇やアニメで見たことある。
正直、長いのが太刀で短いのが脇差という浅い理解だ。
それより、二人の髪が大事では?
私は抜毛に悩んだことがある、女性の薄毛育毛外来を探したぐらいだ。
人並みの髪は大事よ! 二人の頭髪が気になって、話を聞けそうにない。
「もう一度、浮かんだ文字の内容を教えていただけますか?」
国王陛下は、同じ内容を説明した。
なんだハゲではなくカゲね……。はぁ~、良かったぁ~。
どうしよう、勝手に聞き違えたのに……可笑しくなってきた。くすっ、ふふっ。
笑ってはいけない! 冷静に冷静に!
今、重要局面だよね、とっても……。生存戦略! 生存戦略!
私は笑いをこらえ、漢字四文字を唱え冷静さを取り戻した。
一年以内に適合しなければ私は消滅、この2人には影が落ちる。ふ~ん、そう。
それで、私は厚待遇だったのか? 適合するまで大事にされて、その後の扱いは?
「それで? 今になって、その話を私に聞かせて、私への要求は何でしょうか?」
「ローズ……」
「ココ、その剣に、その刀剣に触れてみてはくれないか?」
持病持ちで残念だ! 今ここで早く適合しろ! 等と言われなくて良かった。
私にもできそうな具体的な内容でホッとした。
宙に浮いている真剣に近づくのは怖い。風圧だけでスパッ・サクッと切れそう。
私は、立ち上がって刀剣に近づいた、あと数歩の距離で刀剣が発光し、驚いて足を止めた。発光も止まる……。
警戒されている? スッと降りかかってきたら……。こわっ。
「陛下、これ以上はもう……」
「ココ、触れられそうか?」
この刀剣、今だって凄い力を持っているじゃない。
私は、太刀の峰側に回り込んだ……。私が触れて良いものなの? そっと手を伸ばした。
刀剣が、光った。
変な格好の三人は、召喚の間から白いサロンダイニングルームのソファーに移動した。あの浮遊感は苦手だ。
ソファーは白い革張りだ…白って実用的ではないと思う。
中世王子コスプレの人、黒ずくめの人、白い装束の私、仮装大会だ。
今は、着替えよりもお茶が優先らしい。
国王陛下、セス、私にお茶が用意された。
「ラムセス、結界を」
「はっ」
何回か見るけど……詠唱や杖は必要無いのかしら?
「ラムセス、ココ、ご苦労であった。誰も刀剣に近づけぬままかぁ」
「陛下、刀剣に触れるだけが適合とは限りませんし、時間はあります」
そう、峰側から近づこうとしたが見えない何かによって私は弾かれた。
「ココ、何か聞きたいことは?」
ありすぎる。
「私が、元いた世界に帰還する方法は無いのですか?」
「我々の知る限りでは、ココが元の世界に帰る方法は無い。
謝罪がまだだったな。
あの時のココをこんな形で巻き込んでしまって申し訳なく思う。償いにはならないが、ココの身の安全と自由を永年にわたって保証する」
国王陛下からの謝罪の言葉だった。
謝罪を受け入れる事と許す事は、私の中では違う。
「ごめんなさい、はい仲直り」なんて私には無理だ。
そもそも、そんな仲など無かったわけだし……。
許す……自分と相手と第三者。いつも、これに苦しめられる。
謝ったから、許された、もう気にしなくていい、なんて思わないで欲しい。
許しているのに、何度も何度も口頭で謝らないで欲しい。
謝ったのに許してくれないと第三者に訴えないで欲しい。その第三者が、許さない私に「謝っているんだから許してあげなよ」と言って何重にも私を傷つけないで欲しい。
逆に、許した私に第三者が「なんで簡単に許したの?」と攻めないで欲しい。
今回は、第三者はいないか……。
私が、謝罪を受け入れる自分を許せるのか? 相手を本当に許せるのか?
簡単に謝罪を受け入れちゃダメ! と召喚直後の過去の自分が叫んでいる。




