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 今朝は、服を考える余裕が無くてミヤにお任せした。

 グレーのシルクブラウスに白地にグレーとベージュのチェック柄のジャンパースカートを着せられている。スカートをランダムに金具やベルトで止めてアシンメトリーのシルエットになっている。何が正解か分からない服だ。グレーのブーツにも尾錠や金具が付いている。

 ミヤは、ロック調というかモード感溢れる服が得意のようだ。


 席に着くと黒子のように佇む給仕さんが、テーブルナプキンを膝の上にひろげてくれた。


「ミネラルウォーターは、軟水と硬水どちらになさいますか?」

「硬水で」

「かしこまりました、ガス入りとガスなしどちらにしますか?」

「ガス入りで」

「ガスの強さは」

「弱めで」


「好きなフルーツをお選びください」


 嫌な予感がする……、長い朝食の始まりを感じさせる。


「ピンクグレープフルーツとオレンジを」

「果汁で用意させていただきます、ろ過する際の布目のご指定は?」

「粗めのもので種だけ除いていただければ」

「かしこまりました。それぞれご用意しますか、ミックスいたしますか?」

「混ぜてください」

「ピンクグレープフルーツとオレンジの割合はいかが致しますか?」

「ハーフハーフでお願いします」

「かしこまりました」


 王様の食事って……はぁ~。


 長い、朝食が終わった。

 ここでも、食後のお茶は恭しく始まるようだ。


 お茶の選択肢として、コーヒー・紅茶・ハーブティーの他にホットチョコレートがあった。


 私は、ホットチョコレートに少しのコーヒーを混ぜて飲むのが好きだ。

 チョコレートの国のホットチョコレートは甘くて美味しいけど、少しドロドロで濃いと思いコーヒーで薄めたら、美味しかった。それからは毎朝、ホットチョコレートコーヒーを飲んでいた。

 ホテルの人も私の趣向を覚えて、二つのポットを当然のように私のテーブルに運んでくれた。

 チョコレートの国のホットチョコレートは何かが違った、帰国して日本のココアにコーヒーを混ぜると残念な味になった。

 ホットチョコレートコーヒーは、私の思い出の味だった。


 この国のは、どうだろう?


「ホットチョコレートを」

「かしこまりました」


 給仕係が、注ぎ始めた。


「それぐらいで、そこにコーヒーを少し足してくだい」

「かしこまりました」


 期待しすぎないように、でもワクワクしながら口にした。

 美味しい~、あの味と香りがする。幸せを感じる。


「ローズ嬢、いやココ・カグヤ。

 異国の地を一人で旅をしていた貴女は、宿泊中のホテルの部屋のキーを持たずに廊下に出てしまった。貴女は廊下にいた従業員にマスターキーで開けて欲しいと頼んだ。その時、従業員は貴女にココと言った」


 やだ親分、なぜそれをご存じなの?


 あの時はホテル従業員に頭の悪い人だと呆れられたと思った。私が「ここの部屋です」「ここ、ここです」と日本語で言っていたせいだろう……「ココ」「ココ」と従業員が笑って開けてくれた。バカにされているとも考えたが、悪意のない笑顔だった。翌日も、全く同じことをしてしまった。しかも、それを同じ従業員に見られてしまった。こちらが説明する前に、その従業員はココ・ココと言いながら笑顔で開けてくれた。


「その後、ココは盗難被害に遭った」


 そう、召喚のショックがあっても忘れられない、盗難被害とその後のバタバタ。


「その頃から、ホテルの従業員達は、貴女の事をココ・カグヤと呼び始めた。ニューイヤーパーティーを楽しんでと従業員達から話しかけられていたね」

「……はい」


 私の記憶を……見られた? えっ、何?


「ラムセス、ローズ嬢は私の知っているココ・カグヤだ」


 まったく理解できない。二人は納得しているようだが……。

 いやいやセスも疑問だらけの顔をしている、ホッとする。

 私だけじゃないよね……この雲をつかむ感じ。


 なぜ、知っているのかを教えて欲しい。


「陛下、陛下は何故そのような事をご存知なのですか?」


 セスが、至極真っ当な質問をした。


「ラムセス結界を……。

 王家が危機に陥ると「時見の書」という魔導書が次期王位継承者の前にあらわれる。それは、この星の異なる時間軸から解決策を探すためだと伝えられていた。

 10年前に私が幽閉された時、私の前に現れた。

 時見の書は作り話だと思っていた私は半信半疑で開いた。

 色々な時間軸をまわった。やがて、とある時間軸に注目した。

 多数の国が集まって、政治・軍事・経済・医療等における国家共同体・連合体といった組織をつくり各国が加盟し、紛争を終結させ、繁栄していく世界を見た。

 その中でも、とある連合体の本部を擁する国での会議に注目していた。会議は紛糾していた。

 各国の要人たちが宿泊しているホテルでも、小さな会合や裏交渉が行われていた。そのホテルはかつてから歴史的会談の場となる老舗ホテルだった。


 そんな中、遠い東の国から来た一人の女性がチェックインした。

 ピリピリするホテル内で、その女性はのんびり過ごし、出かけるとチョコレートや服やバッグを買って嬉しそうに帰ってきた。時には、オペラ座の定期演奏会のプログラムを手に戻ってきたこともあった。

 他の宿泊客が高級リムジンを使う中、その女性は徒歩かタクシーで帰ってくる。ホテルに戻ると、すぐ部屋に戻らずにバーやレストランで一人くつろいでいた。その姿は、目を引いていた。

 やがて、その女性は従業員の間でココと呼ばれた。


 ある日、ココは街で盗難被害にあい警察官とホテルに戻ってきた。

 ホテル従業員は心配したが、このホテルに泊まるだけの資力があるのだからすぐ誰かが助けに駆けつけると思っていた。ところが、ココは一人で解決を図ろうとした。

 その頃から、ココ・カグヤと呼ばれ始めた。

 綺麗な爪をして、上質で品の良い服を着た黒目黒髪の女性は、予想に反し自力で着々と身分を回復して、予定通りチェックアウトして帰国の途についた。

 チェックアウトの際に、ココは自国の言葉でホテル関係者にお礼を述べ、丁寧なお辞儀をした。その姿に、ロビーの誰もが魅入られていた」


「陛下、そのココがローズだと」


「ああ、ココの黒い瞳を覚えている、食事の所作・お辞儀の仕方。

 盗難事件後は気になって、ココにも注目していた。ホテル従業員は、いつか帰ってしまうココをココ・カグヤと呼び始めた。最低でも1週間は帰国が遅れる、年末年始休暇の関係で年明けの帰国になると賭けていた者までいた。

 それを4日で解決した、あの時の強い目と機動力を覚えている」


「召喚後、なぜそれを……」


「似ていると思ったが、東の国の者は多くが黒目黒髪だ、確証がなかった。

 10年前の薄れた記憶だ、声も忘れてしまった。それでも朝食時に吸入薬をテーブルに置いて降る雪を眺めていたのを覚えている」


「ローズは、今の話を聞いて……」


 あの時、ホテル正面には各国の旗と国際機関の旗が掲揚されていた。各階エレベーターと階段前に警備員が複数いた。


 私のように一人海外旅行をする日本人女性は多い。その中には喘息やCOPDを患っている人もいるだろう。ケータイが無く手持ちぶさたとリップスティックのような白い吸入薬を気に入っていた。それに緊張と疲労が強い状態でいつ発作が出てもおかしくなかった。

 頓服の経口ステロイド錠剤を盗まれた状態で、軽度の発作でも早期に吸入する必要があった。


 何人かの従業員に日々「ココ、ニューパスポートは?」「ココ・カグヤ、パスポートは?」と確認され「まだ」と答えると、嬉しそうな顔で皆が「Enjoy Newyear party!」と言われたのを今でも覚えている。賭けの対象だったのか、知りたくなかったなぁ。


 でも、10年前ではない。

 国王陛下が注目して切り取った時間が、私の1年前という事か……。


 そして……国王陛下! あなたは何をどこまで覗いていたのですか!?


「昨年ですが、それと似た記憶があります。バーで私は何を飲んでいましたか?」

「ココは、必ず一杯目はアップルティーニを」

「私は、朝食のあと紅茶やコーヒーを飲んでいましたか?」


 陛下は不敵な笑みを浮かべて言った。


「今と同じで、ホットチョコレートにコーヒーを混ぜて飲んでいた」


 世間は狭いと言うけれど……。

 他生の縁と言うけれど……。


「……おそらく、それは私です」



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